秘密のやりとり
午前と変わらない調子で授業は進み、私もたった半日で何も感じなくなるくらい慣れてしまった。時間って偉大。
私の意識はもう別のところに飛んでいた。
そう、誠くんとの帰宅。
ときめろのゲーム通りに進むなら、誠くんといっしょに帰るパターンか、攻略対象の誰かに声をかけられて帰るパターンがある。
ステータスが低いと何もイベントが発生せずに一人で帰ることもあるけど、この澪ちゃんのステータスは恐らくマックスに近いだろうからそれはない、と思う。
というか、今は架空の世界ではなく、現実として私は動けるんだから、誰を誘って帰ってもいい。イベントを待つ必要もない。なんて素晴らしい世界なんだ、と心の中で神様に拝む。
早く授業終了のチャイムが鳴れと、何度も時計を見る。さっき見た時間より30秒先に進んだだけ。何回これを繰り返してるんだろう。イベントスキップボタンが欲しい。
なんて考えていたら、隣から小さい紙が机に投げ込まれた。
雑に折られた紙を開くと、「シューチューするように!」と、下手くそな落書きとともに書かれている。…誠くんだ。
チラリと視線を移すと、こっちは見ずに黒板の方を見つめていた。ニヤニヤしながら。
あーーーもう。
家宝にしますありがとう。
なんで一々可愛いことをしてくるんだろう。
私がこんな学校生活を送ってみたかったって夢が全部詰まってる。好き。大好き。
感動に震えながら、私もノートの端っこを破って返事を書く。
「リョーカイです!」と拙いウサギの落書き。
それをそっと投げ返して、誠くんの姿を見ないまま、気配だけ気にする。
…なんとなく、笑ってる気がする。
心が温かくなるのを感じながら、時計を見るのをやめて授業に集中する。
そして、待望のチャイムが鳴り響いた。




