表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《1》 ~学院の賢者~  作者: とり
 【本編】第2幕 迷宮
22/205

20.かがみよ、かがみ






 ・前回のあらすじです。

 『主人公が、魔女の本音ほんねをきこうとして、失敗する』


 ・今回の大筋です。

 『主人公たちが、ヒロインと通信する話です』











先生せんせい。私は妹に、ているかしら」


 魔女まじょは言った。玻璃(はり)の谷の底で、声は響かずに、けた。


 (あおい)の視線は、下にそそがれていた。


 史貴(しき)姉妹しまいは、ふたりとも金髪で、碧眼で、端正たんせい面差おもざしをしていた。


 ことなるのは、タイプだった。


 いもうと(あかね)は小柄で、小動物めいたあいらしさのある少女しょうじょだった。たいして、姉の葵は背丈もあり、女神か悪魔を(しの)ばせる、完成された所有者しょゆうしゃだった。


「似て……そうですね。似てた、と、思います」


 和泉(いずみ)こたえた。


 スッ、と葵のくちもとに、笑みめいたものがはしる。


「そう。私は、自分はもっと、美しい人だと思っていたわ」


 彼女は岩から腰をおろし、ゆかにひざをついた。れた黒衣こくいのすそは、つややかな表面の奥で、赤色にへんじていた。


意外いがいと、かわいらしかったのね」


 あおいはひとりごちる。


学長がくちょう……ナルシストだったんですね」


 和泉は半眼を向け、声をめた。体育たいいくすわりを解き、っていく。


 (あおい)の足もとに、赤い法衣ほうえの少女がいた。


「あ、(あかね)!」


 和泉(いずみ)は地面にえた。床のしたに、彼の探し求めている少女はいた。


 上下(じょうげ)は反転している。まるで葵のかげが、そのまま少女に、すり変わったかのようだった。


 かたった金のかみ。大きなグリーンのひとみ

 賢者けんじゃ外衣がいいをだぶつかせた、ほそい腕を組んで、少女――史貴(しき) 茜は、ムスッとくちを引きむすんでいた。


「茜! ……これ、出してやれないんですか?」


 和泉いずみはとなりを振りあおいだ。葵は両膝をついたまま、首をよこに振る。


虚像きょぞうだもの。本体は、べつのところにあるわ」


 (あおい)の言葉は、揺れていた。


「谷の水晶すいしょう媒介ばいかいにして、映しているのね。ここまで魔法まほうを飛ばしたのは……『共鳴(シンパシー)』ってやつかしら。私、あれは、あんまり信じていないんだけれど」


 葵は、ほそいまゆをひそめた。


 魔術師まじゅつしのあいだでは、オカルトとして信仰されている仮説かせつが、いくつかある。


 『共鳴(シンパシー)』は、そのひとつだ。


 兄弟きょうだい姉妹しまいのあいだには、なんらかの精神的なつながりがあり、魔法や能力の共有、あるいは、一種のテレパシー的な交信こうしんが、可能かのうになるという。


 和泉(いずみ)たちの所属する【学院(がくいん)】では管轄外だったが、べつの学術機関では、一卵性いちらんせい双生児そうせいじつのっての研究がおこなわれていた。しかし、目立った報告はあがっていない。


 ゆかのなかの茜は、上を指さして、なにかを言っていた。発音は、一切いっさいない。


 和泉はもどかしかった。


 上司じょうしのいるのも忘れて、彼は声をあらげる。


「なに? えっと、四文字の言葉かな」


「『だ、い、す、き』かしら」


「それは学長がくちょうが言ってほしいだけじゃ……あ!

 (あかね)ぞうが震えた。ひかりすじが、ノイズをつくる。少女はもう一度いちど、肩をいからせて叫んだ。


 和泉は、彼女のくちのうごきをマネる。


「『あ』……『あ、い、し、て』じゃない。『あ、い、て、る』。()いてる?」


 あかねは、大きくうなずいた。


 それから映像えいぞうが乱れ、少女は消えた。


「こっちの会話は、つつぬけだったのかしら」


 地面じめんには、金髪碧眼の、あねのほうの顔が映っていた。


「ぬすみ聞きなんて、行儀がわるいわ」


 (あおい)は立ちあがった。


いてるって……」


 和泉(いずみ)も、身をこす。彼は自分のふくを叩いた。


(どっかに、穴でも開いてたのかな)


 手はフリースのポケットに、硬いものをつけた。それは(あかね)が、使つかに準備していたおくりものだった。


 四角しかくいつつみは、長時間の探索で、(かど)がひしゃげていた。リボンは……、ほどけていない。

 

「開いてるって、なにがでしょう」


「ひとつしかないわね」


 あおいは天井をあげた。上層じょうそうの底が、ぴたりと空をふさいでいる。


 魔女まじょが意識していたのは、一層目にできたのであろうものだった。


「もどりましょう。和泉先生(せんせい)


 (あおい)は和泉の腕をつかんだ。転移のひかりが、ふたりを囲む。


 ぱきん。


 と金属のくだける音が散った。


 水晶すいしょうの谷から魔術師たちは消えた。



 ・・・・・・



 くさの地面と群青ぐんじょうの空の広がる土地とちに、ふたりは出た。


 うしろには、見慣れた屋敷やしきが建っている。ひがし(みね)から、赤い太陽が顔をのぞかせている。


 外である。


 和泉(いずみ)たちは、学院がくいんに帰ってきた。























 ・今年の投稿は、以上で終わりです。




 読んでいただき、ありがとうございました。

 よいお年を。


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ