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おとぎ裁判  作者: 神楽澤小虎
30/32

【第1審】~28~




アケチはベッドの上で、小さく切り取られた窓の外を見上げていた。

記憶の断片を思い出そうとしながら・・・・


シャットアウトされるように黒く塗りつぶされた記憶。


ある日目が覚めたら 俺はおぞましい姿にされていた。

呪いの魔法 解けない魔法

無くした記憶 失った過去・・・・・・


“禁断のマッチ”の作用で、今は一時的に人間の姿に戻っているが

また目が覚めたら、きっとケモノの姿になるのだろう。


嗚呼、いつまでこんな朝を こんな夜を

繰り返せばいいんだ・・・・・


絶望にも似た感情を持て余し、

もう一度固く目を閉じて記憶を呼び覚まそうとしてみる。

今まで何度も試みた。

しかし、そこには虚しいほどにからっぽの空間が広がるばかり……。


「俺は……一体何をしたんだ。 誰か…… 教えてくれ…」


窓の外には、やさしく照らしてくれる月明かりさえもう無かった。



ほどなくして、コンコンと軽いノックの音が聞こえ、

返事も待たずにジュードが部屋へ入って来た。

手にはビロードに猫脚のついた台座を(うやうや)しく掲げている。


アケチは無造作にその上に、先ほどまで自分の一部だった尻尾を置いた。


(とぎ)”が満足すれば、ケモノの部分が自然とそぎ落とされる。


「また一歩、近づきましたね。」

ジュードが穏やかに言った。


「フン、果たしてそれがいいことかどうか。」

その答えはまだわからない。


「他のKiller(キラー)たちはそのために精進していますよ。」

ジュードの言葉は簡潔で、

悩むぐらいなら余計なことなど考えない方が楽なのかと思わせる。

だけどお前自身は?


「……なぁ、ジュード。お前本当は俺に何をさせたいんだ?

 こんなことやって、お前が楽しんでいるように見えないんだが。」


「わたくしは充分楽しんでおります。」

女性なら誰もがとろけそうな笑顔を向けてくる。

それは本心を隠す(よろい)なのかも知れない。


「なるほど。お前にはお前の“伽”がいるってわけか。」

俺はそれ以上詮索するのはやめて、もう一度窓の外を見上げた。


「まぁ、そんなことより!

 明日は美味しいハンバーグにしますよ。」

「だから、俺はハンバーグは!」


ふいにジュードが淋しいとも空虚とも取れる表情(かお)をした。

「・・・ハンバーグ、どうして一度も食べてくださらないんです?」


じつを言うと嫌いなわけじゃなかった。 ただ・・・・

「お前が作ったハンバーグなんか食えるかよ。

 それに、心までケモノになりたくねぇからな。」

「おやまぁ、随分と用心深い。」

「お前が信用ならないだけだ。」

「人聞きが悪いですね。いつだって心を込めて作っていますのに。」


わかってはいる。

それでもここは、おとぎの国。

“伽”のためなら何をするのも(いと)わない国。



「・・・・ジュード。」

「はい。」

「たまには・・・・一緒に寝るか?」


アケチがにやりと笑って毛布をめくって見せる。

ジュードは少しだけ驚いた顔をして、素直にベッドに入って来た。




本気か?!




「じょ、じょ、冗談に決まってんだろ!!!」

「え? そうなんですか?(真顔)」


こ、この天然炸裂執事めがっ!!!!


「やめて!!お前のそういうとこ自覚して!!!」

「はぁ……」

言われた通りにしただけなのに納得がいかないという顔をして

ジュードが立ち上がる。


「もういい!! とにかく、俺は寝る!!

 明日は絶対誰も屋敷に入れるなよ! いいなっ!!」


アケチの剣幕に、やれやれという態度でジュードは言った。

「はいはい、かしこまりました。」


そして、枕元にある燭台のキャンドルをそっと吹き消す。


暗闇は嫌いだ。

だが、ジュードが造り出すこの部屋の闇は

どこかあたたかくやさしかった。


心地良い疲れとともにベッドへと身体が沈んでいく。


「それでは、お休みなさいませ。 今宵もよい夢を。」

      



    【暗  転】






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