【第1審】~11~
おっさんと赤ずきん、オオカミはうろたえている。
「発作っちゃ、発作だな。」
「いつものやつなので、お気になさらず。」
俺やジュード、幼馴染であるロブはこの状況を見ても冷静だった。
メロディにいたっては顔に〝ワクワクしています〟と書いてある。
「や…やめてくれ!」
そう言いながら、いきなりブルーは自分のシャツの前をはだけた。
白い肌に鮮やかな深紅の花のタトゥーが見える。
「ええええっ?!何?なんでこの人脱いでんの?!」
「苦しいんですか?ブルーさん?!」
おっさんは慌てふためき、赤ずきんはブルーを心配して
介助するように寄り添った。
だが、彼は差し伸べられた少女の手を乱暴に振り払う。
「はぁ…はぁ…で、出てくるな! ………紅蓮!」
ガクンとブルーの頭が垂れ下がり、次に顔を上げた瞬間
妖艶な動きと華やかな蓮の香りが漂った。
先ほどまでのブルーの凛々しさはない。
「ごめんあそばせ。あたくしから一言いいかしら。」
銀縁のメガネを外すと青かったはずの瞳が、
ルビーのように紅く光り、強気な表情を見せる。
「え?ブルー…さん?」
困惑する赤ずきんにアケチは言った。
「こいつはもうブルーじゃない。」
そう、紅蓮はブルーのもう一つの人格なのだ。
艶めかしい声で紅蓮が語り始める。
「殿方ってやっぱりわかってないわねぇ。女ってもっと残酷なのよ。」
そういって彼女は指先で赤ずきんの首筋のラインをなぞる。
あまりのことに少女は身じろぎもできない。
紅蓮は品定めするかのごとく上から下までじっくりと見つめた。
「ねぇ、もしかして、母親は赤ずきんに稼がせてたんじゃなくって?」
「稼がせるって…まさか…。」
俺は頭の中で紅蓮の言葉を理解しようとする。
しかし、紅蓮の言う“稼がせる”がそういう意味だとしたら?
だが、当時赤ずきんはまだほんの少女だったはずだ。
「嫌ぁねぇ、裁判長。何よ純情ぶっちゃって。そんなキャラじゃないでしょ?
そりゃ、そういう趣味の男もいるわよ。
母親よりもよっぽど稼げるんじゃない?ねぇ、どうなのよ赤ずきん。」
紅蓮は赤ずきんに問いかけた。
少女はやっと状況が飲み込めたようで目に涙を溜める。
「ちょっと待て、紅蓮!
赤ずきん、無理に答える必要はない。お前にはお前自身を守る権利がある。」
「でも、言わなきゃ誰も救ってくれないわ。大丈夫、あなたを白い目で見たりしない。
ここでの秘密は保持される。さぁ、勇気を持って!」
赤ずきんは潤んだ目で紅蓮を見上げた。
その表情から完全に血の気が失われていた。
「ロブ!お前、押されてるじゃん!がんばれって!」
勝負を忘れてないドローが文字通りロブの尻を叩く。
「そ、それは証言の誘導だぜベイベー!」
「お黙りなさい!耳を塞ぐべきところではないわ!」
紅蓮の勢いにロブだけならず、この場のすべてがのまれてしまった。
法廷内は物音ひとつしない。
意を結したように、赤ずきんは小さな手でスカートをぎゅっと握りしめた。
「私だけが我慢すれば…それでよかったんです。
そこに付け込んでオオカミが…」
傍聴席からトーチたちのどよめきが伝わって来る。
「それで?オオカミは何て言ったの?」
「オオカミは、私に服を脱げと言いました。」
「おい、マジか…」
ロブが天を仰ぐ。
「そして脱いだ服を全部暖炉にくべろと言いました。
そんなものはもういらないからと。」
「オオカミ、言ったのか?」
アケチの問いに、オオカミは消え入りそうな声で答えた。
「………言いました。」
「ガッデム! 嘘だろベイベー!?」
「で、でも、それは違うんです!」
オオカミの言葉は怒りに燃えた紅蓮のセリフに掻き消される。
「何が違うのよ!女の子に服を脱げだなんて!他にどんな意味があるっていうの?!
よく言ってくれたわ、赤ずきん。もう大丈夫よ。」
紅蓮は赤ずきんを慰めるために強く抱きしめた。
少女は素直に紅蓮の胸に顔をうずめている。
「これで勝負は見えたな。」
ドローはのロブの肩をポンと叩いて椅子にどかりと座った。
「ああもう!いつもいいところで紅蓮にひっくり返される!」
負けが決まったと言っても過言ではないのに、
オオカミはただ黙って赤ずきんをじっと見つめる。
その視線に微かな違和感を覚える。
どうして……そんな目で赤ずきんを見るんだ?




