↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

甘く、切ないヴァレンタイン

「カナン。珈琲入ったぞ」


 程なくして彼が部屋に戻ってきた。


「わあ。これ、もしかして「ダニエル」の苺のブラマンジェ?」

 彼は、珈琲と一緒にケーキも運んできたのだ。

「ああ。可南カナン好きだろ。ダイエットの邪魔しちゃ悪いかとも思ったんだけど、今日くらい、いいだろ?」

「勿論!」

 満面の笑みで応える。

「この珈琲も……カフェ・ベロナ?」

「ビンゴ! 可南の好みは承知してるからさ。昨日、スタバで豆も買ってきておいたんだ」


 そんな彼の気遣いに感激しつつ、私は淹れ立ての珈琲と大好きなブラマンジェを頂きながら、ベージュ色のもふもふファー・トートバッグの中から、


「稜クン。……これ」


 と、今日ここを訪れた目的の物を差し出した。


 彼の瞳が急に生き生きと輝きを増す。


「開けても、いい?」

「どうぞ」


 彼はエンジ色のリボンをといて、箱の中身を覗くと、


「美味そうだなあ……!」


 と、心底嬉しそうに呟いた。


 それは、ヴァレンタインのチョコレート。

 今日は2月14日。「聖ヴァレンタイン・デー」。


 丁度、今年は土曜日と重なった。

 彼がそれを意図していたかどうかはわからないが、彼は今日、初めて私を自宅へと招いてくれた。

 だから、彼の家でチョコを渡そうと、あらかじめ密かに用意してきていたのだ。


HEFTIヘフティ? どこのメーカー? あっさりしてて、めちゃめちゃ美味いんだけど」

 彼は箱のパッケージを見ながら、早速一つ頬張ると、そう尋ねてきた。

「スイスのチューリッヒよ。パパの勤めている会社が取り扱ってるチョコなの。今は日本では販売がないんだけど、パパに無理言って、空輸してもらっちゃった」

「そりゃ悪かったな。手間かけて」

「どういたしまして。稜クンに是非、味わって欲しかったの。私が一番好きなチョコレートよ」


 ふふ、と私は微笑んだ。

 彼も喜色満面の面持ちだ。


 そして、

「そういや、カナン。帰国子女だったよな?」

 と、その話題を振ってきた。

「うん。初等部卒業までは海櫻。中等と高等部二年の夏まで、ドイツのデュッセルドルフ」

「だから、中等部から海櫻の俺とは初対面だったわけだ」

 何故か彼はしみじみと、感慨深げにそう呟いた。


「そうそう。今度、オフクロにドイツ語、指南してやってよ」

「とんでもない! デュッセルドルフは日本人街だし、私、その上、日本人学校に通ってたから日常会話がやっとよ」

「充分、すごいって。……それにしてもこのチョコ、美味い!」


 二段BOX仕様の中に24個入りのチョコレートのうち、彼は早くも4つ平らげてしまった。


「可南は食べないのか?」

 その時、一粒も手をつけない私に気づいたのか、彼が言った。

「私はダニエルのケーキだけで充分。それに、一個でも多く稜クンに愉しんでもらいたいから」


「カナンの気持ちは嬉しいけど」

 そういうと稜クンは一粒口にして、そして私をその胸に抱き寄せた。


「りょ、稜クン……!?」

「美味い、だろ?」

 彼は口移しでチョコを私の口の中へと入れたのだ。


 甘く、ややほろ苦いHEFTI独特のチョコの味が、口いっぱいに広がってゆく。

 HEFTIのチョコレートは食べ慣れている筈なのに、何故だかいつもと違う味のように感じられる。


「カナン……」

 そう呟くと、次の瞬間、

「や……! 稜、クン……!」


 彼はフローリングの床の上に私を押し倒したのだ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。