「彼」 ~カレ
「可南。そこに座ってろよ。今、お茶淹れて来る」
でも、彼はいつもの彼に戻っていて、部屋の中央のガラステーブルを指さすと、部屋を出て行った。
私は手にしていたコートとバッグを脇に置いてテーブルの前に座り、部屋の中を見回してみたりする。
ベッド、デスク、本棚、オーディオ、TV、ノーパソ、収納BOX、鏡そして、今弾いてくれたばかりの稜クンの愛器・YAMHAのグランドピアノ……。
それに、やはりクラシックが好きなのだろう。床の上にはクラシック音楽の定番雑誌「音楽の友」がページを開いたまま置きっぱなしになっている。
更によく見ると、壁には「欅坂46」のセンター平手さんのポスターが!
十代の男の子の部屋なんだから、アイドルのポスターの一枚や二枚、貼ってあっても不思議ではないのだけれど、なんだか複雑な気分……。
これって……ひょっとして、ジェラシー?!
それにしても。
私って、男の子の部屋に入るの初めてよね。
キョロキョロと彼の部屋の中を見渡しながら、どこか所在なげな私は、改めて思う。
男の子からの誘いがないわけではなかった。むしろ、しょっちゅう声をかけられ、LINEをしつこく聞かれる日々には、うんざりしている。
男の子とのおつきあいに関心が薄く、また警戒心が強い私にとっては、男の子の誘いに乗りしかも部屋を訪ねるなど、到底疎い出来事なのだ。
なのに、今。
私は「彼」の部屋の中にいる。
私は、こんなにも稜クンのことが……好き……。
巡り合わせの妙をしみじみと私は感じていた。




