文化祭マジック
文化祭二日目の午後。
亮と大輝が教室番をしている時間帯。大輝の働きかけの甲斐あって、一時間に10人ほどではあるが観覧者の数は確実に増していた。
部誌の方も、既に6冊ほど配布済み。このペースが続けば、終了時刻までに机を平らにすることも可能かもしれない。
時計の長針が天辺に近付いた時。大輝が出口へ足を向ける。
「んじゃ亮、俺そろそろ行くわ」
「今度はどこに向かうんだ?」
「ちょっとこれとな」
そう言って大輝が茶目っ気たっぷりに小指を立ててみせるのを、亮は白けた目で見据える。
「はぁ……亮さぁ、今日という日は一体なんの為にあると思ってるんだ?」
「何って、模擬店や出し物を楽しむためだろ」
「マジメ過ぎんだって。案外文化祭マジックってのも伊達じゃないんだぜ?黒田さんに告白するなら、今日をおいて他にはないぞ」
「ば、バッカじゃねぇの⁉︎んなもんあるわけねぇし」
「声震えてんぞ」
「いや、確かに俺は黒田さんの事が好きだけど…まだ知り合って間もないのにいきなり過ぎるだろ」
「一年経てば彼女が好きになってくれんのか?」
う、と亮は言葉を詰まらせる。
「お前みたいなヤツだからこそ、場の勢いを借りるべきなんだよ。彼女と付き合いたいんだろ?」
「……あぁ、そうだよ、好きで好きでたまんねぇよ!」
「だったらタイミングとかつまんねえ事言ってんじゃねぇ。できる限り二人きりの状況を作ってやるから、今日中に想いを伝えろ。じゃ、後でまたな」
「お、おい待てって」
亮の言葉を待たず、大輝は教室を出て行ってしまった。
「どうしよう、なんか大変なことになっちまった……」
ここからの数時間は、激動の数時間として亮の思い出に刻まれることになる。




