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偶然

「ごめんね仁科くん、声掛け辛かったでしょ?」

あくまで口調は申し訳なさそうに謝る結だが、顔がつやつやしている気がする。本来一つ一つが薄いはずの本が、その圧倒的数量によって彼女の両腕を占拠していた。

「いやいや、俺は別にいいから!」

ぶんぶんと首を左右にふって必死に否定する亮。本音を言えば男子の前でそういう買い物をする結の姿を目にしたくはなかったが、意中の女の子と休日を過ごせている亮にとっては些細な事に過ぎない。

「じゃあ次はDVDのコーナーに行こうか」

今は、人生に何度もないこの時間を最大限楽しむべきだ。


隅々まで巡回が終わったころには、三人は腕いっぱいに荷物を抱えていた。それらをレジに通し、彼らは店を後にする。

その時、およそこの場には似つかわしくない風貌の男がこちらに歩いてくるのを、亮は無意識に目で追っていた。

制服姿の中高生、私服姿の若者がひしめき合う空間でその男は完全に浮いていた。外見だけで判断するならば、四十代前後だろうか。好戦的な目つきは、明らかに周りから人を遠ざける威圧感を放っている。

マル暴の中年刑事が、何かの間違いで迷い込んできたかのようだ。

こちらの視線に気がついたのだろうか、男と亮の目がばっちりと合った。亮達へと距離を詰めてくる男に、まさしく絶体絶命の思いだったのだがーー。

「せんせー!」

振り返ってみると、後ろの二人は目の前の男に好意的な笑みを浮かべていた。彼の方でも、彼女らに手を掲げて挨拶を交わしている。

「奇遇だなぁ三沢、黒田」

亮の眼前で足を止めた男は、人の良さそうな笑顔でがっしりとした手を差し出した。

「俺が文化研究部顧問、渡辺英一だ。ヨロシク」


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