【19-1】英雄の怒りと、断罪の時
崩壊した地下実験室。 魔石の光が消え、薄暗闇に戻った空間に、護の荒い息遣いだけが響いていた。 足元には、護の一撃を受けて鎧が砕け散り、倒れ伏しているアーサーがいる。その体からはプシュ、プシュと蒸気のようなものが漏れ出し、光の粒子となって徐々に崩壊が始まっていた。
護は、動かなくなったアーサーを一瞥すると、その怒りの矛先を、玉座で腰を抜かしているフェルディナント公爵に向けた。
「……てめぇ」
護が一歩、踏み出す。その足音は、死刑執行人のように重く響いた。
「よくも……人の命をおもちゃにしてくれたな!」
護の全身から立ち昇る怒気は、物理的な熱量となって公爵を威圧する。 公爵は顔を引きつらせながらも、椅子にしがみつき、最後の虚勢を張った。
「ま、待て、英雄殿! 落ち着きたまえ! このわたくしに触れることが、何を意味するか分かっているのかね? わたくしは、この国の公爵だぞ! 王族に連なる高貴な血筋なのだ!」
公爵が後ずさり、逃げようとする。 だが、護は瞬時に間合いを詰め、その胸倉を掴み上げると、軽々と宙に吊るした。
「知るかよ、そんなもん!」
護の怒号が、公爵の顔面に叩きつけられる。 地位も名誉も関係ない。目の前の男は、仲間を泣かせた「悪党」だ。それだけで、殴り飛ばす理由は十分だった。
「ぐ、うぅ……! 野蛮人が……!」
公爵がもがく。 その時、カゲロウが元冒険者たちを無力化し終え、護の背後に立った。
「殺すなよ、護。コイツには、吐かせなきゃならないことがある」
メルも駆け寄り、冷徹な瞳で公爵を見上げる。
「モルゴーは、今どこにいる? 君は奴と何を企んでいる?」
しかし、公爵は吊るされた状態でもなお、不敵な笑みを崩さなかった。
「ハッハッハ! 私に何かしてみるがいい! 確たる証拠もなしに公爵であるわたくしを傷つけたとあっては、お前たちなど、明日の朝日を拝むことなく処刑台行きだぞ!」
彼の言う通りだった。この地下室の惨状は証拠になるが、彼らはあくまで「不法侵入者」。公爵が「暴漢に襲われた」と主張し、権力を使って揉み消せば、護たちが犯罪者に仕立て上げられる可能性が高い。
「チッ……これだから権力者は」
カゲロウが舌打ちをした、その時だった。
カシャン、カシャン、カシャン。
整然とした金属音が、地下室の入り口から響いてきた。 現れたのは、王都騎士団の精鋭たち。そしてその先頭には、凛とした表情で剣を構える、セラフィーナが立っていた。 彼女の手には、王家の紋章が刻まれた羊皮紙が握られている。
「フェルディナント公爵。あなたを、国家反逆罪、及び多数の殺人・誘拐容疑の主犯として、王家の名の下に逮捕します」
「な……!? そんな馬鹿な……! ヴァイスリッター家の小娘ごときに、この私を逮捕する権限など……!」
「これは、わたくしの独断ではありません」
セラフィーナは逮捕状を突きつける。
「あなたと闇市場との繋がり、そして、あなたの屋敷からメル殿たちが発見した『証拠品』の数々……それらは全て、父であるヴァイスリッター侯爵を通じて、既に国王陛下に上奏済みです」
護たちが稼いだ時間と、メルたちが暴いた証拠。それが、セラフィーナという「正義」を通して、ついに届いたのだ。
「連行なさい!」
セラフィーナの号令で、騎士たちが公爵を取り押さえ、手枷をかける。 絶叫と共に引きずられていく公爵の姿を見届け、護はふぅ、と息を吐いて腕を下ろした。
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