【13-3】騎士の尋問、英雄の回答
数日後。 王都騎士団の詰所にある、質素だが整頓された一室。 重厚な机を挟んで、セラフィーナと護たちは向かい合っていた。名目は、オークション会場襲撃に関する「重要参考人への尋問」だ。だが、部屋には彼ら四人しかおらず、お茶とお菓子まで用意されているあたり、実質は密談である。
セラフィーナは、騎士の礼装に身を包み、改めて姿勢を正した。
「まずは、改めて自己紹介を。わたくしは、王都騎士団『白百合騎士隊』隊長、セラフィーナ・フォン・ヴァイスリッターと申します。先日の件、そして子供たちの救出、誠にありがとうございました」
彼女は席を立ち、騎士の礼をもって深く頭を下げた。その銀髪がさらりと揺れる。 護は照れくさそうに頭をかいた。
「おう! 俺は磐座 護だ! 見ての通りの冒険者だぜ! こっちは、俺の仲間の……」
「……カゲロウだ」
「メルクリウス・マグヌス。以後、よろしく頼む、女騎士」
三者三様の挨拶に、セラフィーナは真剣な眼差しで頷く。
「あなた方が、ただの冒険者ではないことは、先日の戦いで理解しました。単刀直入にお聞きします。あなた方の目的は何です? なぜ、あの闇市場を襲撃したのですか?」
鋭い問いかけ。 メルが一口紅茶を啜ってから、冷静に口を開いた。
「ボクたちは、ある錬金術師を追っている。『ドクター・モルゴー』……禁忌の研究に手を染め、魔物を強化し、人の命すら弄ぶ外道だ」
メルは、マリーナでのスタンピード、人工魔石を埋め込まれたキメラ、そしてその供給源として闇市場を調査していたことを、順序立てて説明した。アウレリアの名前は伏せつつも、その口調には説得力があった。
「奴の悪行を止め、その研究を完全に破壊する。そのために、ボクたちはここへ来た」
その話を聞き、セラフィーナの表情が険しくなる。
「……そうでしたか。点と点が、繋がりました」
彼女は、机の上に数枚の書類を広げた。
「わたくしたち騎士団も、ここ数ヶ月、王都で多発している『原因不明の魔物の凶暴化事件』と、それに伴う『有力な冒険者や騎士の失踪事件』を追っていました。その全ての事件が、バロン・ガイツが支配する、あの闇市場に繋がっていたのです」
沈黙が流れる。 二つの、全く異なる場所で起きた事件。しかし、その根底には同じ毒が流れていた。
「つまり……モルゴーが開発した薬物が、闇市場を通じて王都に流れ、実験台として人々が攫われていたということか」
カゲロウが低い声で結論づける。 セラフィーナは悔しげに拳を握りしめた。
「許せません。王都の足元で、そのような非道が行われていたなど……! 騎士として、恥じ入るばかりです」
セラフィーナの目的(王都の治安維持)と、護たちの目的(モルゴーの野望阻止)。 二つの正義が、ここで明確に重なったのだ。
「……分かりました。あなた方のやり方は、騎士道とは相容れません。乱暴で、無計画で、規律のかけらもない。特にそこの護殿、あなたはもっと慎重さというものを学ぶべきです」
「えっ、俺!?」
名指しされ、護が目を丸くする。
「ですが……あなた方が、真に人々を救うために戦っていたことも、この目で確かめました。目的は同じ、ですね」
セラフィーナは、ふっと表情を和らげた。それは、氷が解けるような、美しい変化だった。
「騎士団として、公にあなた方と協力することはできません。しかし、わたくし個人の『非公式な協力者』として、情報を共有し、時には背中を預けることを、ここに約束します」
「へへっ、ありがてぇ! よろしくな、セラフィーナちゃん!」
「……ちゃん付けは止めてください」
顔を赤らめて抗議するセラフィーナと、笑う護。 王都の闇の中で、奇妙だが確かな協力関係が結ばれた瞬間だった。
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