7
その後、本来の活動である魔法陣研究に勤しんだ私は門限ギリギリに女子寮へ戻った。
昨日アルジェント様に呼び出されたせいで作業が遅れてしまっていたので、オルカやランチアが帰ってからも一人で黙々とデータを取っていたのだ。
夕食を食べ損ねないよう慌てて食堂へ向かう。まあ、一日くらい食べ損ねても部屋に携帯食があるんだけどね。
一昔前なら侯爵令嬢と言えば、自分では何もせず全てのことをメイドや侍女が行っていたらしいが、現在は全く事情が違う。何と言っても、魔力持ちは魔物討伐の最前線へ送られるので、一人で何もできないでは済まされないのだ。
魔力持ちは魔法学園の入学前に徹底的に生活魔術の特訓を受ける。火を生み出して料理をしたり、風を起こして洗濯や掃除をしたりと、一人で何でもできるようになっておかないといけない。魔物討伐で野営とかもするしね。
そこは、王子だろうが侯爵令嬢だろうが、関係ないのだ。
さて、急がないと食堂が閉まってしまう。
今日のメニューは確か、チキンソテーと卵のサラダ、コーンスープにふわふわパン!
腕のいいシェフのおかげで、寮のご飯はとっても美味しく皆に大好評だ。
寮に入ってから太ったと嘆く生徒が増えているとか。あ! 私はちゃんとランニングと筋トレして体型維持してるからね! これでも乙女なんで!
夕食を美味しくいただいた私は、満腹満足でルンルンと自室へ戻る。その途中で、寮母さんから呼び止められた。
「リモーネさん。お手紙が届いていますよ」
「あら、ありがとうございます」
手紙はアルジェント様からだった。え、何で手紙?
明日も授業で一緒なんだから、その時に言えばいいのに……。
自室に戻って開封すると、手紙から良い香りが漂った。女子力高いな、アルジェント様。
どれどれ……。
――リモーネへ
急に手紙など、驚かせてすまない。だが、教室内では言いにくいのであえて手紙で伝えることにした。
婚約を解消してほしいという、私の身勝手な要求を受け入れてくれて、本当に感謝している。
だが、私は気付いてしまった。これでは、私だけが幸せになろうとしていると。
君の幸せを蔑ろにして自分だけが幸せになるなんて、許されないことだ。
したがって、私は君の新たな婚約者を探すことをここに誓う。
私以上に君を大切にしてくれる婚約者を、必ず見つけてみせる。
だから、明日の昼休みに、どんな男が好みなのか教えてくれ。
……ツッコミどころが多すぎる。
アルジェント様! 優しさと誠実さがおかしな方向に暴走してますよ!
私はため息をつくと、明日に備えて英気を養うために早々に眠りについた。