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「やあ、リモーネ。ちょっといいかな」
爽やかな笑顔で魔法陣研究部に顔を出したのは、アルジェント様ではなかった。
幼馴染の、リコルド・セレーノ。伯爵家の長男で、アルジェント様の乳兄弟だ。まばゆい金髪にエメラルドグリーンの瞳と色彩豊かな人物で、いつ見ても綺麗だな~と見とれてしまう。
「珍しいね。リコルドが会いに来るなんて」
私が言うと、リコルドが何だか複雑そうな顔をした。
「……リモーネ。君とアルは一体どうなってるんだ? 昨日、あいつから相談を受けたが、婚約を解消するだなんて正気とは思えないんだが!」
「あー……」
アルジェント様、リコルドに話してなかったのね。乳兄弟で一番の親友なのに、肝心なところで事後報告されるとか……リコルド可哀想。
「アルが君以外の女性に好意を持ったというのも疑わしいが……それより疑わしいのは君だ、リモーネ!」
「ぅえっ!?」
「あれだけ仲が良かったのに、婚約を解消されて数日で恋人ができるなんて不自然過ぎる。
絶対何か裏があるだろ。そう思ったから、僕はアルに公務が入ってる隙に探りに来たんだよ。さあ、全部聞かせてくれるね? リモーネ」
笑顔で圧力かけられた。リコルドはアルジェント様と違って勘がいいからなぁ。
隠してても仕方ないし、いっそのこと全部話して味方になってもらおう。
私はひとまずリコルドにオルカとランチアを紹介した。そして全員でお茶をしながら、婚約解消を告げられてからの、私の涙ぐましい努力について熱く語った。
「――そんなわけで! 私、すっごい頑張ったんだから! アルジェント様ってば、私が幸せにならないとメーラさんに告白しないとか言い出すし! オルカもオルカでフリでいいのに恋人役嫌がるし!」
「そ、そうか。大変だったんだな。経緯はだいたい分かったけど・・・アルとの婚約の解消は急がない方がいいと思う」
「え? どうして? 別に私たち、正式に婚約してたわけじゃないけど」
「それでも。王家やテルペン家に伝えるのは待った方がいい。……だいたい、現状アルはメーラ嬢にアプローチもしていないし、リモーネだってマーレ君との交際は偽装なんだろう? 少なくとも、アルの方に何かしらの進展があるまでは焦って行動しない方が賢明だと思う」
リコルドの言葉に、オルカとランチアも頷いた。
「俺もセレーノ様の意見に賛成だぜ。一時の気の迷いかもしれねーんだし、第二王子とメーラ嬢が恋人になるまでは何もしない方がいいと思う」
「そうよね。もしアルジェント様がメーラさんにフラれたら、結局リモーネが結婚してあげるつもりなんでしょ?」
ランチアに問われて考えた。そう、アルジェント様とメーラさんが上手くいけばいいけど、メーラさんを巡るライバルたちは強力。第二王子とはいえアルジェント様がフラれる可能性もある。そうなったら、きっとアルジェント様は元通り私との結婚を望むんだろうなぁ……。私でいいって妥協して。
……あれ? なんかちょっと……胸がモヤモヤする。
もしかして……私……。
不都合な真実に気づきそうになった私は、慌てて胸に蓋をした。
「……そうね。アルジェント様が望むのなら、もちろん私が結婚するわ」