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「え……? 恋人、が……できた……?」
いつものようにアルジェント様と昼食を摂っていた私は、食後のデザートを平らげた後にオルカのことを告げた……んだけど。
あれ~? 喜んでくれるかと思ったのに、なんかアルジェント様の顔が青くなっている。
……なにゆえ??
コーヒーを持つ手がカタカタと震えていますけど!?
「オルカ・マーレ……確か、平民特待生だったかな?」
「え、ええそうです。優秀ですよ?」
「し、しかし……彼は、その、何というか……少々、見た目が地味では? いや、悪いわけではないぞ? 彼には将来性があるし、侯爵家に婿として迎えられるし、いいとは思うが……私としては隣国フロンセの公爵令息かフォンロンド国の第四王子あたりを紹介しようかと思っていたのだが……」
マジか! もう候補を絞ってた! フロンセの公爵令息は知らないけど、フォンロンド国の第四王子は確かものすごい美形で人柄も申し分ないと評判の方だったはず。フォンロンド国内の令嬢たちが婚約者争いで激しく対立してるって聞いてますけど!?
……危なかった。オルカを偽装恋人にしておいて本当に良かった。
とんでもない高嶺の花を用意されるところだったわ。
「とにかく! 私はオルカとお付き合いすることにしましたので、次はアルジェント様の番ですよ! 早くメーラさんに告白しましょう! さあさあ、早く!」
「しかしリモーネ……これほど急に彼と交際することになったというのは……以前から彼のことが好きだったのか……?」
「はぁ!?」
何言ってくれちゃってんの!? 私がオルカを説得するのにどれだけ苦労したと思ってんだ、アルジェント様!
……と、叫びたかったが、偽装だと白状したら振り出しに戻るので我慢する。
「……趣味を同じくする友人として、大切に思っていましたよ。アルジェント様との婚約を解消するなら、気心の知れた人をお婿さんにしたいと思ったので告白したのです」
「……そうか……」
まあ嘘はついてない。オルカとの偽装恋人はいずれ解消するけど、結婚するなら一緒にいて疲れない相手がいいもん。いつか相手が見つかるといいけど。
「……リモーネ。婚約解消を申し出た私が言うのはお門違いだと分かっているが、マーレ君を紹介してもらえないだろうか? 彼とはあまり話したことが無いから、どんな人なのか知りたいんだ」
きっとそう言いだすだろうなと思っていたので了承した。シスコンの兄が妹の交際相手を無条件に認めるわけないもんね。
近いうちに魔法陣研究部に顔を出して下さいと言うと、まだ顔は青いままだったがアルジェント様は小さく微笑んだ。