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Armed Wizard Vanguard(アームド ウィザード ヴァンガード)  作者: 伊森 維亮
第三章 鋼鉄の越境者(スティール アウトサイダー)
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決着、そして

「貴様……何をした……? なぜ、こちらの世界に来て日も浅く、理論も技術も何も体得していないはずの貴様が、防御系の高等魔術を行使できる!? これは、どういう、絡繰(からく)りだぁ!?」


 立て続けに有り得ない行動を起こす相手に、D・ウォルトは半狂乱となって罵声を浴びせる。

 しかし、不正行為(チート)を糾弾されたカイトも、自分がどのようにして、また、どうして具現化した魔力としての炎を扱えたのか、ほとんど何も分からなかった。

 ただ、作業腕(マニュピレータ)に過ぎないはずの、規格外の部品を接合した、間に合わせの不恰好な右腕。

 そこから()めどなく溢れ出す、義身(からだ)の芯を燃え(たぎ)らせ、全身の生理電解液(PES)をも蒸発させてしまいそうな熱量(エネルギー)は、自らの活用の仕方を無言で、雄弁にカイトへと伝えていた。

 異界の者(ルチア)が造った|器(右腕)から伝わる、|もうひとつの世界の人間(メリッサ)から分けられた|異能の力(魔力)。

 二人の少女から与えられたそれらが、一体となって強敵へと抗う力を与えてくれているのは、さながら、この世界の意志が危険な異物(D・ウォルト)を除こうとしているかのようでもあった。

 そんな感傷的で幻想的な錯覚を胸に、カイトはいきり立つD・ウォルトへと、冷ややかに微笑み掛ける。


「実は、黙っていたんだが……俺は前世、こっちの世界の大魔導士だったんだ」

「あっはははハァ、そうか、そうだったのか……ならば、来世は二度と訪れぬよう、貴様の魂ごと完全に、徹底的に、念を込めて破壊し尽してくれるわァ!!」


 相手の軽口に乾いた笑声を上げたD・ウォルトは、次の瞬間にはその声音を怒りに満たし、敵へと向けて突進を仕掛けた。

 前屈させた巨体へと憤怒の気配(オーラ)を纏わせた彼は、疾走の最中に高振動溶断刀(ヒートソード)を抜き放つ。

 自分を目掛けて猛進してくる鉄の猛牛に、カイトは右腕を義身の横へと構える。直後、生命を得たかのように揺らめいた銀の炎は、その表装を隙間なく覆い尽くし、一層に強烈で鮮烈な輝きを放ち始めた。


 白銀に光り輝く腕を掲げた敵に、D・ウォルトは湧き起こる得体の知れない危機感を抑え付け、野獣の如き咆哮(ほうこう)と共に躍り掛かる。至近距離から放たれた拳撃と、それに先行した赤い刃先に、カイトは強く短い吐息に合わせ、引き絞っていた銀の右腕を解き放った。

 拳の形状をした銀の弾丸は、正面から迫り来た高振動溶断刀(ヒートソード)の刀身を、触れずに()ね付ける。

 軌道を狂わされた切っ先は、標的から僅かに狙いを逸らす。

 顔のすぐ右横を(かす)めた刃は、カイトの頬を浅く切り裂く。強化蛋白質の焼ける臭いを鼻先に感じながら、彼は瞬きもしないまま、更に力を込めて腕を押し出す。

 鋭い(ひね)りを加えられた拳は、傍らを通過する鉄腕に添って、その反対方向へと進む。

 そして、敵の物とほぼ平行に交差(クロス)したそれは、寸分の狂いも迷いもないもなく、D・ウォルトの厚く広い胸板の中央へと命中(ヒット)した。


 彼の一撃は胸部装甲を割り砕き、強引に開いた結合部から、内部へと貫通する。

 衝突の勢いによろめいたD・ウォルトは、胸へと食い込んだ相手の腕に目を留める。

 自らの胸部から生えた白銀の右腕に、彼は戦慄に凍り付いた体毛のない相貌を、その持ち主であるカイトへと弾かれたように向けた。


「貴様ッ、アアアアアアッ!? 止め、止めろ、私は貴様の創造主(デウス)であり、司令官(コマンダ)なのだぞ―」

「心苦しいですが、元司令官殿(マスター)。私はもう、新しい(マスター)へと仕えている身でありますので」


 厳命を装った懇願を、カイトは取り付く島もなく()退()ける。D・ウォルトが激情に震えた怒号を放つ暇を与えず、彼は相手へ挿入した手へと、力と意識を注ぎ込んだ。


 彼の意志に応え、手先へと(つど)っていた炎は、瞬く間に膨張する。直後、それはD・ウォルトの胴体内を隅々まで焼き尽くし、隙間という隙間から外へと向けて溢れ出した。

 身の内で爆発し、全身を蹂躙(じゅうりん)する白銀の業火に、D・ウォルトは雑音(ノイズ)混じりの絶叫を轟かせ、無我夢中で腕を振り回す。

 渾身の力による決死の抵抗を、カイトは一歩も引かずに()(しの)ぐ。

 彼は降り掛かる殴打を左腕で防ぎつつ、余力の全てを右手の先ヘと集中させる。

 そして、より濃密で強大な火炎が、D・ウォルトを銀に染め上げた瞬間。カイトは気合の雄叫びと共に、右腕を相手の体内より勢い良く引き抜いた。


 魔力による炎に焼かれて劣化した装甲は、砂の造形物(オブジェ)のように呆気なく崩れる。

 内部より砕け散ったD・ウォルトの胸からは、既に銀の輝きを失った彼の右腕と、その手に掴まれた彼本来の左腕が飛び出してきた。

 自らの所有物を奪還したカイトは、それを左手に持ち替え、素早く後方へと()退()く。

 即座に距離を取る相手に、D・ウォルトは混濁した意識のまま、奪取された部品(パーツ)の強奪を(はか)る。

 しかし、本体制御(コントロール)核部(コア)喪失(ロスト)した手足は、既に異物である彼の指示を受けはしなかった。

 体の自由を失ったD・ウォルトは、呪詛(じゅそ)とも悲鳴とも付かない音を喉奥から絞り出す。

 そのまま崩れるように膝を突いた彼は、白銀の残り火を身に躍らせながら、力無く面を伏せて沈黙した。


 微動だにしない銀の火達磨(ダルマ)を前に、その機能停止(ブレイクダウン)を確認したカイトは臨戦態勢を解除する。

 溜息と共に緊張を解いた彼は、直後、急に襲ってきた脱力感に立膝を突いた。

 最後の一撃に、内包していた魔力を全消費した右腕は、元の半壊した状態へと戻っていた。

 それと同時に、カイトへと(みなぎ)っていた活力もまた、欠片も残さずに消え去っていた。


 魔力を消費し切った彼の義身は、過負荷(オーバーロード)から(いちじる)しい機能低下を起こしていた。

 それでも、神秘の力を身に帯びたためだろうか。

 汚染が進行していたはずの生理電解液(PES)の数値は、いつの間にか、最適値に近い状態にまで改善されていた。


 予期しない副効果に茫然としていた彼は、助力してくれた相手のことを、不意に思い出す。

 慌てて巡らした視線の先で、メリッサは気を失ったまま、前と同じ位置で(うずくま)っていた。

 カイトは安否を確かめるべく、重く()び付いた足を引きずって彼女の元へと向かう。と、緩慢な足取りで半分ほど距離を詰めた頃、彼はどこからか響く断続的な重低音を耳に留めた。


 カイトは危なっかしく体を振り、背後を(かえり)みる。その視線の先では、沈静化しつつある銀色の火に(あぶ)られながら、D・ウォルトが頭部を小刻みに揺らして笑っていた。


「流石だ……流石だぞ、カイトぉ……。やはり貴様は、この私を相手取る資格を持つ男だ……」


 発声機関の損傷から(いびつ)な抑揚の加えられた声で、彼は称賛の言葉を口にする。

 未だに死にきらず、どこか余裕を帯びた賛辞を贈る相手に、カイトは思わず舌打ちを漏らす。


「こっちも、お前のしぶとさには脱帽だぜ……。あれで、まだ、くたばってないとかな」

「クハはっ……私は、全ての世界を手中に収めるという、(とうと)天命(ミッション)を受けている。その至上の使命を果たさぬ限りは、この命、絶えさせる訳にはいかぬよ」

「良いから、黙っていろ。後で、きっちり処分してやる。二度あることは三度ある、とも言うしな。また妙な方法で逃げられて、下らない企みに巻き込まれるのはごめんだ」

「そうだなぁ……では、私の崇高(すうこう)な目的の達成は、その三度目の正直へと賭けるとしよう」


 冷淡に告げられた処断の言葉に、D・ウォルトは笑いの響きを帯びた口調でそう返す。

 彼の意味深な物言いに、カイトは不穏な気配を感じ取る。真意を問おうと彼が口を開いた瞬間、静寂を取り戻していた空気が、突然の波動によって打ち震えた。


 部屋全体が鳴動を起こしたのとほぼ同時に、損壊したD・ウォルトの体から、冷たく冴えた白光が漏れ始める。

 魔力による残り火とも異なる、より固く白々とした輝きを放つ光線。

 それに強烈な既視感を覚え、続けて正体を推察したカイトは、その光源となっているD・ウォルトを愕然として凝視した。


「お前、それは…………まさかっ―!?」

「そうだぁ、時空間転位装置(タイムマシン)だよぉ!! お陰様で、あれから小型化(ダウン・サイジング)も進んでなあ! 必要な部品(パーツ)情報(データ)は不足しているものの、こうして機器内への内蔵も可能となった!! そして、それを緊急時の脱出装置として新たに活用するというのが、この天性の天才たる私の発想(アイディア)だあ!!」

「クッソ、馬鹿じゃねぇのか!? そんな未完成品を使うとか、自殺行為だろうが! お前、今度ばかりは別の世界に飛ばされるどころじゃ、済まねぇぞ!!」

「心配するな! 私こそは人を超えた、選ばれた存在だ!! 運命はこの私を、道半ばで倒れることを決して許しはしない! 必ずや、約束された結末のため、全世界をこの手に収める宿命をもった私を、在るべき場所へと導くことになるのだぁ!!」


 狂気染みた異音(まみ)れの科白(セリフ)が吐かれる間も、光は更に濃さと強さを増していく。焼け付くような白光にたじろぐカイトへ、D・ウォルトはその中心から大口を開けて叫び掛けた。


「では、さらばだカイトよ! 宿命の鎖で分かち難く結ばれた貴様とは、またいずれ邂逅(かいこう)を果たすであろう! その時は、(ゴッド)の顔も三度までであると、その身の破滅と共に教え―」


 意気揚々とした惜別(せきべつ)の文句は、言い切るのを待たずに掻き消された。

 爆発的な閃光を放ったD・ウォルトの体は、瞬間、(まばゆ)い球体へと包まれる。表面に半透明な(にご)りと陰を行き交わせる、さながら人工太陽のような光の玉に、彼の喜悦(きえつ)(ゆが)んだ醜悪な顔は、その鋼鉄の巨体と共に呑み込まれていった。

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