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イントゥ・ザ・フレマシー  作者: 沖見 るもい
12/36

12、レベルアップ

 冬雪(ふゆき)の右手が元に戻ったところで、一行は村の方へ歩みを進めた。いくら雑魚敵しかいない地域だとはいっても、冬雪一行もまだまだまだ『雑魚レベル』なのである。無理して戦闘不能になってしまったら、動けなくなった仲間を引きずって村へと急ぎ、高い金を払って『復活の聖水(時価)』を購入しなくてはならない。なので、村の近くの魔物が出没するギリギリのラインで経験を積むことにした。

 しかし、さすがギリギリのラインだけあって、出没する魔物の数は少ない。止むを得ず、冬雪が囮となって魔物をおびき出し、仲間達のもとへ誘導することとなった。なぜ冬雪がその役に抜擢されたかというと、単純にいちばん足が速かったからである。レベルが上がっていけば、この面子だと治癒師がいちばん素早く、その次は魔法使いなのだが、序盤はなかなかそうもいかない。

 上記の点を抜きにしても女性と老人を囮役にするのも絵的にどうかと思ったし、戦士を下手に疲れさせてしまって戦闘時に使い物にならなくなっても困る。そうすると、満場一致で冬雪が適役だということになった。


 冬雪はもうこれが何往復目であったかを数えるのを止め、魔物の群生地である林の中から毒ガエル2匹と青アメーバ2匹を引っかけ、仲間のもとへ走っていた。レベルはやっと冬雪と岳雪が2になったばかりである。

「岳さーん! 連れて来たーっ!!」

 大声でそう叫ぶと、岳雪はニヤリと笑って大剣を構えた。今回こそは自分達の出番もあるのではないかと、茜と源二郎も各々の杖を構える。

 いや、源じいはまだしも、茜は攻撃も補助魔法もねぇだろ。そう思って、冬雪は多少脱力した。その、ほんの少し肩の力が抜けたのを魔物達は見逃さなかったようで、数メートル後方で冬雪の後を追っていた毒ガエルは青アメーバをわしづかみにすると、それを彼の背中に向かって投げつけた。

「うわぁっ!」

 急に背中に走った衝撃にバランスを崩し、冬雪は疾走中の勢いそのままに顔から地面へ突っ込んだ。魔物達はそのチャンスを逃さず、背中にくっついている青アメーバを筆頭に攻撃を仕掛けて来る。仲間達との距離は約10メートルである。冬雪の異変に気付いた岳雪が大剣を担いで走るが、彼はいかんせん足が遅い。先に到着したのは茜であった。

「冬雪様から離れなさい!」

 茜は背中から後頭部へ移動し冬雪を窒息せしめんと顔の方にまでうにょうにょと肢体を伸ばしている青アメーバをつかみ、渾身の力で引っ張るが、レベル1の治癒師の力ではなかなかそれも難しいらしい。

 次に到着した源二郎はおもむろに杖を構えると、目を閉じて何やらぶつぶつとつぶやいた後、その杖を既に冬雪の顔半分を覆い始めている青アメーバに向けた。

「『初級炎魔法 燭台の灯』」

「ぅ熱ぃっ!」

 杖の先から放たれたその名の通りの小さな火は冬雪の顔にくっついていた青アメーバに着火した。そしてそれはあっという間に燃え上がり、地面にぽとりと落ち、まるで消火しようとでもしているかのようにごろごろと転がる。しかし、炎の勢いは止まらず、とうとう近くにいたもう1匹にまで引火してしまった。

「『燭台の灯』って単体攻撃魔法じゃ……」

 冬雪は顔を袖で拭いながら体制を立て直した。袖には少量の血が付着している。どうやらあのどさくさで噛みつかれたらしい。

「ふぉふぉふぉ。いかにもあれは単体攻撃魔法じゃがな、青アメーバの体液は着火しやすい性質があっての、ああやって近づくと勝手に引火してしまうんじゃ」

 そういえばゲームの中でも青アメーバは絶対に2匹が近くにいることはなかった。そういうものなのか……。「詳しいんだね、源じい。この世界に来たばっかりなのに」冬雪は感心してそう言った。

「だいぶ、この世界に染まってきたようでの。どうやらこの世界のわしの立場は『物知りじいさん』のようじゃ」そう言うと、源二郎は禿頭をつるりとなでた。

「冬雪様、危ない!」

 鬼気迫った茜の声で我に返ると、いつの間にか到着していた岳雪の仕留めそこなった毒ガエルが、だらしなく開けた口から長い舌をのぞかせた状態で飛び掛かってくるところである。

「『初級防御魔法 風のカーテン』!」

 決死の体当たりは突如眼前に現れた薄い風の幕によって阻まれ、べしゃりと落ちた毒ガエルに冬雪は自分の剣で止めを刺す。

「いやー、悪い悪い」のん気な岳雪の声の方を見れば、最後の1匹を仕留めた上でやや気まずそうな顔をこちらに向けていた。

「いいよ、結果オーライ」

 それにしても。

 冬雪は首を傾げて茜を見た。「防御魔法なんて使えたっけ?」

「どうやらレベルが上がったようですね。新しい魔法が使えるようになりました」

 その言葉通り、冬雪の脳内ではリンリンというレベルアップ時の鐘が鳴り響いた。これは各自にも聞こえているのだろうか。

 茜は杉の木の杖をさすりながらにこりと笑った。


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