13、ゴートの村
所持金が500DGDを超えるころにはどっぷりと夜は更け、FG、MG共にボロボロの状態である。レベルは全員が3を超えていた。そろそろいいか、と魔物を刺激しないよう抜き足で村へと向かった。
「何か陰気くせぇ村だな」
「夜ですから、無理もありませんよ」
「最初の町はそれでも活気があったようじゃがの」
最初の町(そこは神殿の町と呼ばれていた)と比べて人通りも少なく、酔っ払いの陽気な歌声が聞こえるパブもない。村人は皆、分厚いカーテンをしっかりと閉め、まるで息を殺して朝を待っているかのようである。ストーリーを進めるためには村人との会話が必須だが、この状態では難しいので、宿屋に泊って朝を待つことにした。
愛想の悪い宿屋の店主は一泊の料金と、その中に夕食と朝食分が含まれていることしかしゃべらず、冬雪以外のメンバーは首を傾げながら各々の部屋へと向かった。他に客はいないらしく、運よく個室に入ることが出来た冬雪は、小さなベッドにごろりと転がった。よく考えてみれば、最初の町でろくに情報収集もせずここへ来てしまったのだ。自分はこのゲームをプレイしているからなぜこの村がこんなにも陰鬱な雰囲気を漂わせているか理解しているが、他の3名はそんなことを知らないのである。一見無駄のように見える立ち話にもきちんと意味はあるのだなと反省した。その時、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。慌てて起き上がり、「はい」と返事をしながら恐る恐る扉を開ける。そこにいたのは何やら神妙な顔をした3名である。
「どうしたの? とりあえず……、入る?」
勧めたものの、個室だけあって4人がゆったりと座れるようなスペースはなく、とりあえず茜を椅子に、岳雪と源二郎をベッドに腰掛けさせると、冬雪は床に胡坐をかいた。
「そんな、冬雪様床に……」
慌てて茜が腰を上げたが、冬雪はそれを右手で制する。「いいんだ。そんなことより、どうしたの?」
「なぁ、冬雪。この村やっぱりおかしくねぇか?」
その問いに答えたのは岳雪である。客は自分達だけとはいっても多少警戒しているのか心なしかヴォリュームも抑え気味であった。
冬雪がどう説明しようかと考えあぐねていると、次に口を開いたのは源二郎である。
「なぜ冬雪殿は次の目的地をここにしたのですかな。単純にあの町から近かったから、というだけではないように思うんじゃがな」
「さすが源じいは鋭いな」
冬雪がそう言うと、源二郎はニヤリと笑って「まぁ、年の功というやつじゃろうて」と言った。
「てことは、やっぱりこの村には何かあるんだな? 水臭ぇぞ、冬雪。いつの間にそんな情報つかんでたんだ」
「まぁまぁ岳雪さん、冬雪様にもお考えがあってのことですよ、きっと。そうですよね?」
ぎろりとこちらを睨む岳雪を茜は優しく諭し、冬雪に同意を求めて来る。今回のパターンであれば、この3人に出会う前にこの村に関する情報をつかんでいたことにすればいいのだということに気付き、冬雪はふぅ、と勢いよく息を吐きだしてから話し始めた。
「近いうちこの村では若い娘さんが生贄として差し出されることになってる」
「はぁっ?」
「何という……」
「痛ましいことじゃ」
「……この村では半年に一度生け贄を村の外れの山小屋に生きたまま捧げなければならないんだ。生け贄は若い娘さんだったり、小さな子どもらしい」
「おい冬雪、ここへ来たってことは、それを阻止するってことでいいんだよな? 指ぃ咥えて見てるだけってこたぁねぇよな?」
岳雪は顔を真っ赤にしていまにも冬雪につかみかからんばかりである。それでもまだ声を抑え気味にしているところを見ると、理性はかろうじて残っているようだ。
「……当たり前だろ」
その言葉に茜はほっと胸をなで下ろした。青ざめていた頬にわずかな色が戻る。
「それだけですかな?」
やけに落ち着いた源二郎の声に驚く。「それだけって……どういう意味?」声は少し震えていたかもしれない。
「いや、今回阻止したとしても、また半年後、そのまた半年後には同様に生贄を差し出すようになるのではないかと思うたんじゃ。表面的な解決だけで良いのですかな」
「たしかに……。そうだ。そうだぞ、冬雪。なんっつーかよ、黒幕っていうんだったか? そういうのを潰さねぇとダメなんじゃねぇか?」
岳雪は膝をポンと叩いて目を見開いている。
そうなんだ。それはわかってる。そして今回の黒幕ってやつだってわかってるんだ。
「でも……黒幕というと、それが件の『神様』なのではないですか? 神様に捧げる生け贄ということですよね?」
「ああ……そうか……。いきなり真打かよ……」
違う。今回の黒幕は神様じゃない。今回の、というか、この先もだいたい黒幕は神様じゃないんだ。
「しかし、神様も罪なことをなさるお方じゃ。神、というくらいのお方なんじゃから、生け贄なぞ差し出さなくとも寛大なお心で見守っていてくださらんかのう」
源二郎はそう言うと、ちらりと冬雪の方を見た。何だか源二郎にはすべて見透かされているような気がして、冬雪はぶるっと身震いをした。




