第22話 農家?いいえ、元ボスです
ゴンスケが加わり。
3人で街道を歩く。
「お」
少し先を歩いていたゴンスケが立ち止まった。
「どうしました?」
道端へしゃがみ込む。
拾い上げたのは、麦わら帽子だった。
かなり古い。
ところどころ、ほつれている。
「帽子ですね」
「誰かの落とし物じゃないですか?」
リナが言う。
「そうが?」
ゴンスケが裏返して眺める。
「でも、だいぶ古そうですね」
「捨てたんですかね」
ゴンスケは自分の頭を触った。
「モヒカンねぇと、ここ気になるんだよな」
頭頂部の穴。
そのまま麦わら帽子を被った。
「どうだ?」
「…………」
「…………」
大きな金属の身体。
斧。
弓。
そして麦わら帽子。
「農家感が増しました」
「ほんとか?」
嬉しそうだった。
「そこ喜ぶんですね」
再び歩き出す。
「…………」
「…………」
「…………」
しばらくして。
ゴンスケが後ろを振り返った。
「…………」
「ゴンスケさん」
「ん?」
「もう畑は見えませんよ」
「分がってる」
前を向く。
数歩。
また振り返った。
「…………」
「気になるんですね」
「ちょっとな」
「ダリオさんに任せたんですから大丈夫ですよ」
「水やってっかな」
「まだ出発してそんなに経ってません」
「虫ついてねぇかな」
「そんなすぐつきませんよ」
「獣来てねぇかな」
「心配しすぎです!」
「でもよぉ」
ゴンスケが麦わら帽子の上から頭を掻く。
その時だった。
ドンッ。
遠くから大きな音が響いた。
「…………」
もう一度。
ドォンッ!
「何でしょう」
「嫌な音ですね」
リナが街道の先を見る。
少し離れた場所。
数人の冒険者が何かと戦っている。
「くそっ!」
男が吹き飛ばされた。
地面を転がる。
「下がれ!」
「魔法撃つぞ!」
「くっ、効かない!」
近づく。
「ゴーレムでしょうか」
巨大な岩の身体。
私の倍ほどの背丈。
太い腕。
脚。
胴体も、いくつもの岩が重なったような形をしている。
冒険者が剣を振る。
ガンッ!
弾かれた。
「硬そうですね」
ゴーレムが腕を振った。
「うわっ!」
1人吹き飛ばされる。
「アルヴィンさん」
「はい」
「助けます?」
「そうですね」
杖を持つ。
「神父」
「はい?」
ゴンスケが立ち止まっていた。
「あれ」
「ゴーレムですね」
「違う」
「違う?」
ゴンスケが指差す。
ゴーレムの肩。
「…………」
岩の隙間から。
緑色の何かが伸びている。
「蔓でしょうか」
「んだな」
ゴンスケが一歩前へ出た。
「見たことねぇ」
「ゴンスケさん?」
「葉っぱもついてる」
「そうですね」
「ちょっと見てくる」
「待ってください」
止まらない。
「アルヴィンさん!」
「はい」
「止めなくていいんですか?」
「危なければ助けます」
ゴンスケが戦っている冒険者たちの横を通る。
「お、おい!」
1人が気づいた。
「なんだこいつ!?」
「魔物!?」
「ちょっと通るぞ」
「は?」
麦わら帽子を被った巨大な金属の魔物が。
そのままゴーレムの正面へ進む。
見上げる。
「やっぱ蔓だ」
「おい! 危ないぞ!」
「そいつの攻撃食らったら――!」
ゴーレムが腕を振り上げた。
「ゴンスケさん!」
リナが叫ぶ。
「ん?」
ゴンスケはまだ蔓を見ている。
「葉っぱ丸いな」
「今それどころじゃないです!」
拳が振り下ろされた。
「ゴンスケさん!」
杖を構える。
だが。
ゴンスケが片手を上げた。
ゴンッ!!
「…………」
「…………」
「…………」
止まった。
ゴーレムの拳がゴンスケの片手で。
「…………」
冒険者たちも動かない。
ゴンスケはゴーレムではなく、その肩を見ていた。
「もうちょっと近ぐで見てぇな」
ぐっ。
ゴーレムの腕を押す。
ゴゴゴゴッ。
岩の足が地面を削った。
そのまま。
ゴーレムが数歩下がった。
「…………」
リナが私を見る。
「アルヴィンさん」
「はい」
「今」
「大丈夫そうですね」
「ゴンスケさんもそのタイプかー」
ゴーレムが動く。
今度は両腕を振り上げた。
「危ない!」
冒険者が叫ぶ。
ゴーレムの両腕が振り下ろされる。
ゴンスケが斧を抜いた。
「邪魔だべ」
横へ振る。
ゴンッ!!
「…………」
ゴーレムの上半身が消えた。
「…………」
「…………」
少し離れた場所には岩の塊が地面を転がっていた。
木を1本。
2本。
へし折りようやく止まった。
残された下半身がゆっくりと倒れた。
ドォンッ。
「…………」
「…………」
「…………」
静かになった。
「ゴンスケさん」
「ん?」
リナが口を開けたまま立っている。
「今、何しました?」
「斧振った」
「それは見ました!」
「ならなんで聞ぐんだ?」
「そういう意味じゃないです!」
ゴンスケはもう倒れたゴーレムを見ていなかった。
「蔓」
「魔物倒したことに何もないんですか!?」
「ん?」
「ゴーレム!」
ゴンスケが見る。
倒れている。
「ああ」
「『ああ』じゃないですよ!」
「邪魔だったがら」
「それだけ!?」
「蔓見えねぇし」
「ゴーレムより蔓!?」
ゴンスケがしゃがむ。
岩の隙間から伸びていた蔓を触った。
麦わら帽子のつばが揺れる。
「ほら」
「何です?」
「やっぱ見たことねぇ」
葉を持ち上げる。
「形も変だ」
「そうですね」
私も隣へしゃがむ。
「アルヴィンさん!?」
「確かに見たことのない植物ですね」
「なんでそっち行くんですか!」
「気になりませんか?」
「今はゴンスケさんの方が気になります!」
「おら?」
「あなたです!」
「なんで?」
「今の見てなかったんですか!?」
「見てたぞ」
「自分でやったんですよ!」
「んだな」
「…………」
リナが頭を抱える。
ゴンスケは蔓の根元を見る。
細い茎。
丸い葉。
岩の隙間へ伸びている。
「根、どこだべ」
周囲の岩をどかし始めた。
「根ごと持っていくのですか?」
「できれば」
「畑に植えるので?」
「育つかもしれねぇべ」
「なるほど」
「アルヴィンさんまで話進めないでください!」
ゴンスケが岩を掴んで持ち上げた。
「…………」
「…………」
人の頭ほどある岩を片手で。
「こっちじゃねぇな」
放る。
もう1つ。
「これも違う」
放る。
「ゴンスケさん」
「ん?」
「先ほどのゴーレムはかなり硬かったようですが」
「そうなのが?」
「冒険者の剣が弾かれていました」
「へぇ」
「斧は大丈夫なのですか?」
刃を見る。
欠けていない。
「薪割るやつだがら丈夫だ」
「そういう問題ですか?」
リナが聞く。
「そういう問題ではないと思いますが、丈夫なのはいいことです」
「……あ」
ゴンスケが手を止めた。
「どうしました?」
「あった」
岩の下。
細い根が伸びている。
「これだ!」
ゴンスケが嬉しそうにしゃがみ込む。
その時。
後ろから声がした。
「あ、あの……」
振り返る。
先ほど戦っていた冒険者たちだった。
「はい?」
全員。
ゴンスケを見ている。
「そいつ……」
「ゴンスケさんです」
「名前聞いてるんじゃなくて」
「魔物だど」
ゴンスケが答えた。
「やっぱり!?」
冒険者たちが武器を構えた。
「待ってください!」
リナが間へ入る。
「大丈夫です! 襲いませんから!」
「でも魔物だろ!?」
「そうですけど!」
「今ゴーレム吹っ飛ばしたぞ!?」
「それもそうですけど!」
「おら人間襲わねぇぞ」
ゴンスケが立ち上がる。
冒険者たちが一斉に一歩下がった。
「…………」
ゴンスケが止まる。
「まただ」
「何がです?」
「怖がられてる」
「まあ……」
ゴンスケが麦わら帽子に触れた。
「やっぱモヒカンねぇがらかなぁ」
「だからあった方が怖いですって!」
リナが即答した。
「でもかっこいいぞ」
「それとこれとは別です!」
冒険者たちが困惑している。
「モヒカン……?」
「何の話だ……?」
「気にしないでください」
リナが言った。
「私たちもよく分かってませんから」
「分がってるぞ」
「ゴンスケさんだけですよ!」
「モヒカン取りに行ぐんだ」
「説明しなくていいです!」
「魔王城まで」
「余計ややこしくなる!」
「魔王城!?」
冒険者たちが再び武器を構えた。
「ほら!」
「なんで?」
「魔王城に向かってる魔物がいたら警戒するでしょう!」
「神父も行ぐぞ」
「アルヴィンさん!」
「はい?」
「何か言ってください!」
「魔王を倒しに向かっています」
「そうじゃなくて!」
「…………」
「…………」
冒険者たちは顔を見合わせた。
しばらくしてゆっくり武器を下ろした。
ゴンスケは何事もなかったように、また根元へしゃがみ込む。
「持ってぐ」
「はい」
土を残すように慎重に根を掘り出していく。
「取れた」
「よかったですね」
「んだ」
蔓を野菜の入った袋へ入れる。
「これでいい」
「では行きましょうか」
「んだな」
私たちは街道へ戻る。
「…………」
少し歩いて。
後ろを見る。
冒険者たちはまだ倒れたゴーレムを見ていた。
次に麦わら帽子を被ったゴンスケ。
またゴーレム。
ゴンスケ。
「アルヴィンさん」
「はい」
「絶対、あの人たちゴンスケさんの方が気になってますよ」
「そうでしょうか」
「そうですよ!」
前を歩くゴンスケを見る。
本人は袋の中を覗いていた。
「育つかなぁ」
「どうでしょう」
「畑戻ったら植えてみる」
「楽しみですね」
「んだ」
「だからなんで2人とも普通なんですか!」
ゴンスケが振り返る。
「リナ」
「何です?」
「これ育ったらやるぞ」
「いりません!」
「まだ何になるか分がんねぇぞ?」
「だからいらないんです!」
「そうが」
ゴンスケは少し残念そうに。
麦わら帽子を押さえ。
袋を大事そうに抱え直した。




