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第13話 私の弱さを舐めないで

 試しの塔2階。


 2体のスライムが現れた。


「リナさん。次はご自分でやってみましょう」


「そんなことするなんて聞いてません!」


「大丈夫です。危なくなったら手伝います」


「私の弱さを舐めないでください」


 スライムが跳ねる。


「きゃっ!」


「右です」


「右!?」


「もう1匹、左から来ます」


「どっち見ればいいんですか!?」


「両方です」


「無茶言わないで!」


 リナが鍋の蓋で1匹を受け止める。


 もう1匹が飛びかかった。


 杖で横から軽く弾く。


「今です」


「ええい!」


 ゴンッ。


 1匹。


「もう1匹です」


「ちょ、ちょっと!」


 ゴンッ。


 2匹。


 ――テレテレッテッテッテー。


「また鳴った!」


「順調ですね」


 横の扉が開いた。


 扉の先は塔の外。


 外壁に沿って伸びる階段を上る。


 3階。


 ホーンラビットが待ち受けていた。


「あの角に串刺しになったりは?」


「避ければ大丈夫です」


 4階。


 ゴブリン。


 5階。


 ワイルドウルフ。


「昨日のやつ!」


「親戚ですかね?」


「そんなわけあるかー」


 6階。


 7階。


 8階。


 最初こそ魔物が現れるたびに悲鳴を上げていたリナだったが、何度か戦ううちに少しずつ悲鳴が減っていった。


「リナさん。後ろです」


「分かってますー!」


 鍋の蓋で受ける。


 横へ転がる。


 立ち上がる。


「今!」


「はいーー!」


 ゴンッ!


 魔物が倒れた。


「おお」


「……何ですか」


「動きがよくなりましたね」


「……もう……」


「もう?」


「……ストレスが……」


「慣れれば大丈夫ですよ」


「私は酒場の店員なんです!」


「はい」


「なんで鍋の蓋で魔物と戦ってるんですか!」


「レベル上げですね」


「……もう……ダメかも……」


 9階。


 扉が開く。


 魔物が現れた。


 リナが鍋の蓋を構える。


「…………」


「リナさん?」


「ふふ」


「?」


「ふふふふ」


 鼻息が荒い。


 目も少し怖い。


「さあ」


 リナが一歩前へ出る。


「どんどん来なさーい!!」


「リナさん?」


「次はお前かぁ!」


 走った。


「おお」


「うおおおお!」


 ゴンッ!


 魔物が吹き飛ぶ。


「次ーっ!」


「リナさん。もういませんよ」


「もう私は止められない!」


「いません」


「出てこい!」


「リナさん、少し休みましょう」


「魔王でもなんでもどんとこーい!」


「……休みましょう」


 人は短時間でも変わるものらしい。


 ◇


 10階。


 階段を上りきると、これまでとは違う扉があった。


『休憩所』


「……休憩所……」


 リナの目に少しだけ光が戻った。


「入りましょうか」


「……はい」


 扉を開く。


「いらっしゃい!」


「ポーションあるよー!」


「武器の修理はこちら!」


「回復! 解毒! 解呪! なんでもやるぞ!」


 中は思っていたより広く、椅子やテーブルのほか、食事を売る店や武器、防具、薬を扱う店まで並んでいた。


 奥には簡易的な寝床まであり、何人もの冒険者が座り込んで休んでいる。


「天国……」


 リナが呟いた。


「塔の中ですよ」


「分かってます」


 ふらふらと椅子へ向かう。


 その途中。


 ぴたりと止まった。


「…………」


「どうしました?」


「アルヴィンさん」


「はい」


「これ見てください」


 壁に料金表があった。


 回復。


 解毒。


 解呪。


 ポーション。


 食事。


「高いですね」


「高いですね、じゃないですよ!」


 リナが料金表を指差す。


「街の何倍するんですかこれ!」


「塔の中ですからね」


「水までお金取るんですよ!?」


 店の男がこちらを見る。


「ここまで誰が運んでると思ってんだ」


「それはそうですけど!」


「嫌なら下まで戻りな」


 リナが黙った。


 外へ続く扉の方を見る。


 ここまで登ってきた道を思い出したのだろう。


「……う、うう……払います」


「はいよ」


「くっ……」


 悔しそうだ。


 私は料金表を見る。


「回復も高いですね」


「そりゃそうだ。ここじゃ怪我人なんていくらでも出るからな」


「なるほど」


「軽傷なら銀貨。骨折なら――」


「アルヴィンさん」


 リナが私を見る。


「はい」


「回復できますよね?」


「できますよ」


「解毒は?」


「できます」


「解呪は?」


「簡単なものなら」


「…………」


 リナが私の両肩を掴んだ。


「神父でよかった」


「ありがとうございます」


「今日初めて心から思いました」


「それはよかったです」


「回復職バンザイ!」


「…………」


 その時、隣の席にいた冒険者がこちらを見た。


「なぁなぁ兄ちゃん」


「はい?」


「神父なのか?」


「はい」


「回復できるって?」


「できますよ」


 冒険者が腕を見せる。


 大きく腫れている。


「これも?」


「見せてください」


 腫れた腕に触れる。


「ま、待て。まだ値段交渉がおわっ――」


「彼の者に癒しの雫を。ヒール」


 光が腕を包み、見る間に腫れが引いていった。


「……おお!」


 冒険者が腕を動かした。


「痛くねえ!」


「よかったです」


「そんで、いくらだ?」


「?」


「治療代だよ」


「いりませんよ」


「は?」


「困っていたのでしょう?」


「いや、でも」


「治ってよかったですね」


「…………」


 少し離れた場所から声がした。


「おい! 俺も頼めるか!?」


「足やっちまって!」


「毒もいけるか?!」


 気づけば列ができていた。


「では次の方」


「早いな!?」


 次々に治す。


 解毒する。


 また治す。


 見慣れた光景だった。


「……アルヴィンさん」


「はい?」


「教会でもこんな感じだったんですか?」


「もっと多かったですね」


「…………」


「次の方」


「おい」


 低い声がした。


 振り返る。


 先ほどの回復受付の男が立っている。


「何でしょう?」


「何でしょうじゃねえ」


 男が後ろを見る。


 本来なら治療を受けに来るはずだった冒険者たちは、全員こちらへ並んでいる。


「営業妨害だぞ!」


「営業?」


「無料で治されたらたまったもんじゃない!」


「困っている方がいますので」


「そういう問題じゃねえ! こっちだって生活がかかってんだ」


 怒られてしまった。


 ◇


「もう行きましょう」


 リナに腕を引かれ、休憩所を出た。


「まだ何人か並んでいたのですが」


「これ以上やったら追い出されます!」


「それは困りますね」


「やっと分かりました?」


「Another Editionがもらえなくなります」


「それにどんだけの魅力があるんですか!?」


 扉を抜けると、再び塔の外へ出た。


 11階へ向かう階段は、塔の外壁に沿って緩やかな弧を描きながら上へ伸びている。


 休憩したおかげかリナも先ほどまでより落ち着いていた。


「リナさん」


「はい」


「調子はどうですか?」


「もう魔物を見ても叫ばない程度には壊れました」


「それはよかったです」


「よくないです」


 階段を上る。


 左には塔の外壁。


 右側には遮るものがなく、遥か下に街が見えた。


「…………」


「どうしました?」


「いえ」


 私は足を止め、上を見る。


 階段は塔を大きく取り巻きながら、遥か上まで続いている。


 次の階へ行くためには、塔の外周を大きく回り込まなければならない。


 さらに上の階段も、そのさらに上の階段も見えていた。


「アルヴィンさん?」


「少し気になりまして」


「何がですか?」


 私は頭上の階段を見上げる。


「これ」


「はい」


「ずいぶん遠回りですね」


「…………」


 リナの顔が引きつった。


「アルヴィンさん」


「はい」


「今、絶対ろくなこと考えてませんよね?」


「そんなことはありませんよ」


 もう一度、真上を見た。


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