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番外編 ◇ 団長キリナード・エルレイニーの受難

ウェルナガルドの悲劇から4年後。最終話の4年前のお話です。

王女ラルダを含む第27期生が入団してきた、とある日の出来事。

連載「婚約者様は非公表」第一部(全16話)を読み終えてからこちらを読んでいただくと、より分かりやすいと思います。

 いかなる苦境に立たされようと、団員を第一に守るキリナード。

 第14代団長の儂の後継(こうけい)であり、歴代最高の魔導騎士団団長。


 その第15代団長キリナードは現在、()()()()に直面していた。




「えー……今日は急遽、幹部の皆さんにお集まりいただきましたが……理由はお分かりですね?」


 とある平日の朝。

 訓練開始直前の、午前8時50分。


 儂ら魔導騎士団の部隊長5人と副団長ソルヴ、そして団長のキリナードは、朝出勤して早々に会議室に集まっていた。


「第1部隊長、第4部隊長の二人は、一昨日から昨日にかけての討伐遠征お疲れ様でした。」


 キリナードが改まって第1部隊長のドルグスと第4部隊長の儂に労いの言葉を掛ける。


 そしてそれから、キリナードは残っていた他の幹部達の顔を見渡した。


「えー……それでですね。

 僕とその二人の部隊長が不在の間に、魔導騎士団施設で……()()()()()()()()()()()()()()()()()と、聞いたんですけどね、」


 本題に入りたくない……というより、現実から目を背けたいのだろう。

 キリナードが妙に他人行儀に余所余所しく言いかけたところで、第2部隊長のセゴットがいつものように腕組みをして足を組んだまま、鬱陶しそうにキリナードを睨みつけた。


「オイ、何だよその口調。気持ち(わり)いな。普通に喋れよ。」


 と、その声で現実をようやく直視する気になったキリナードが、セゴットを指差し、指先からデコピン程度の無属性攻撃魔法を飛ばしながらキレた。


「セゴットぉぉーーー!!おぉお前だぁぁーーー!!!」



◇◇◇◇◇◇



 昨晩の10時頃。

 討伐遠征から帰ってきた儂らに副団長のソルヴが真っ先に報告してきたのは、一昨日起こった()()()()の顛末だった。



〈今年度──1週間半前に入団したばかりの第1部隊と第4部隊の『新人2人』が、午前訓練後の魔導騎士団の食堂で『喧嘩』し、演習場で『真剣を使って本気のやり合いをし、一方がもう一方をボコボコにした』。〉



 これがトラブルの概要。


 これだけを聞けば「何だ。血気盛んな新人達だな。後でガッツリお説教だ。」で片付く話。

 王国最強の魔導騎士団にいるのは、一癖も二癖もある戦闘狂ばかり。過去にはセゴットのような厄介な新人も()ったのだ。そこまで驚愕するようなことでもない。



 ……その『喧嘩』した『新人2人』が【第一王女ラルダ】と【ウェルナガルドの悲劇の生き残りの平民ゼン】で、


『剣で一方的にボコボコにされた』のが【第一王女ラルダ】の方だった──


 ──……というのが大問題なだけで。



「報告によると、トラブルが起きた現場の食堂には……【セゴット】、第2部隊長の()()()()()そうじゃないか。」


 キリナードが再び無属性攻撃魔法(デコピン)を飛ばす5秒前。


 セゴットはキリナードの問いかけに、微塵も悪びれずにしれっと答えた。


「あれな。マジで馬鹿だと思ったわ。

 姫さん、アイツをキレさせる天才だな。」


 その瞬間、キリナードはまた遠隔デコピンを発動させた。


「見てたんなら()めろぉぉーーー!!!」


 疲労困憊の討伐遠征からの帰還早々に部下達のとんでもないトラブルを聞かされ、夜中にも関わらず王城に呼び出されラルダの()()でもある()()()直々に

「本来ならば、その平民は法に則って処罰されるべきだ。よりによって王族の者を──……っ、私の()()()()にこのような信じ難い暴行を加える男を!平然と所属させている団は!一体どうなっているんだ!!

 娘がその男を庇った手前、今回に限り不問とするが……っ、私は!そんなところに娘を預けておきたくないぞ!!」

 と激怒され、指導力と統率力を問われてしまったらしい不憫(ふびん)な団長キリナード。


 キリナードの()()()()()っぷりに儂は同情を禁じ得なかったが、セゴットはまったく響いていなさそうに、腕を組んだままの姿勢で再度ひょいっとデコピン魔法を避けた。



「…………お前。

 食堂で平民(ゼン)王女(ラルダ)を投げ飛ばして『殺してやる』と言っていたとき。

 他の団員達は部隊長のお前に『セゴット隊長、何とかしてください。』『マズいんじゃないですか?止めた方がいいですよ。』と、声を掛けていたらしいな。」


 温厚なキリナードが珍しく怒った声でセゴットに確認をする。


「……それで、そのときお前は常識的な提案をしてくれた団員達に()()()()()らしいな。

『は?何で俺が新入り同士の揉め事にわざわざ首突っ込まなきゃいけねえんだよ。お前らも放っとけよ。』

 しかも!その後お前はさっさと食事を完食して、()()()()()()()()()()()()()()()したらしいな!?」


「そうだな。で、それが何?」


「『お前らも放っとけよ』じゃない!()()()止めるんだー!!この非常識野郎がーーー!!!

 お陰で僕が、本気でキレてる国王様から一対一でお説教喰らう羽目になったんだぞ?!本っ当ーに怖かった!!!」


 キリナードが涙目になりながら地団駄を踏む。

 それを見たセゴットはまったく響いていない顔をして言い返した。


「お前が説教喰らったとか知らねえけど、お疲れ。相変わらず運(わり)いな。」


「運の問題じゃない!」とキリナードが憤慨すると、セゴットは不遜にも他の幹部陣に責任転嫁をしてきた。


「俺が非常識だってんなら、()()()()()()()()()()が食堂にいりゃ良かっただけの話じゃん。

 いなかったテメェらが(わり)いんだよ。オラ、テメェらキリナード泣いてんぞ。謝れよ。」


「……いや、どんな理屈だよ。」


 セゴットに責任転嫁されたうちの一人、副団長のソルヴが溜め息をつく。

 第3部隊長のレンディスも、セゴットに呆れながら


「俺とソルヴは二人で街に食事に出ちゃってたけど、さすがにそれは悪くないだろ。」


 と自己弁護していた。


 ただ一人、第5部隊長のシュウウェンだけが、おっとりと


「………ああ。本当、ごめんな。あの日に食堂、使ってなくて。

 午後休みになったのが嬉しくて。買い物行っちゃってたんだよね。」


 と謝った。


「何謝ってんだよ。ただの冗談だっつの。

 テメェは何も悪くねえだろ。買い物行ってたくれえで謝ってたらそのうち死ぬぞ。」


 謝れと自分で言ったくせに、謝ったシュウウェンに意味不明な指摘をするセゴット。

 話を脱線させた上にさらに皆を混乱させるようなことを(のたま)うセゴットを、儂は諌めた。


「セゴット。お前はそうやっていちいち話を引っ掻き回すでない。少しくらい真面目にしておれ。」


 するとセゴットは、今度は冗談ではなくどうやら本気らしい文句を儂の方に向けて言ってきた。


「…………オイ。

 っつか、テメェが一番謝れよ(じじい)

 あの姫さんは『テメェの弟子』で『テメェのとこの部隊員』だろが。

 あのゼンをキレさせたのは、どう考えてもテメェの教育不足の責任だろ。」


「ぐっ……!……ぬぅ。……キリナード、すまんかった。」


 儂は素直に謝った。

 セゴットに指摘されたのは釈然としないが、弟子であり直属の部下であるラルダが皆に迷惑をかけたことは事実。

 儂の教育の甘さと言われれば、それまでだった。



 ──すると。

 一連のやり取りを見ていた第1部隊長のドルグスも、今のセゴットの指摘が自分にも当てはまると思ったのか、頭を下げて儂に続いて謝ってきた。



「…………俺も、申し訳ありませんでした。

 不在時の出来事とはいえ、部下がとんでもないことをしてしまったのは、俺の監督が不十分だったためです。

 ゼンが先に手を上げて、王女でもあるラルダを一方的に傷付けたようですから。俺の責任です。」


「いや。ドルグスは悪くねえだろ。

 っつーかあのゼン、マジで強えよな。後衛の狙撃手(ガンナー)のくせに剣で姫さんボコしたんだろ?

 やべえわ。最高の新入り獲ったなお前。運いいな。」


「「「いや何でだよ!?!?」」」



 何故かドルグスのことは許した滅茶苦茶なセゴットに、思わず団長キリナードと副団長ソルヴと第3部隊長のレンディスが、仲良く声を揃えてツッコんだ。


 許されたドルグス本人もセゴットの理解に苦しんでいるようで、微妙な顔をして「先輩……一体どんな基準なんですか。適当過ぎますよ。」とセゴットを見た。

 3人のツッコミとドルグスの視線を受けたセゴットは、その反応に不満そうにしながらもあっさりと……しかし、意外な真意を述べた。



「適当じゃねえよ。別に(なん)もおかしいこと言ってねえだろ。


 前に俺がゼンに『ウェルナガルド』のこと謝ったときは、アイツ全然キレなかったし。


 アイツは普通どころか、かなり大人しい方だろ。

 そのゼンをあそこまでブチ切れさせた姫さんが、俺以上に『非常識』なだけだっつの。」



◇◇◇◇◇◇



 予想外の言葉に、皆が驚いて固まった。


 セゴット、お(ぬし)…………。


 この場にいる面子は皆、儂以外は「ウェルナガルドの悲劇」の当時、魔導騎士団に所属していた。

 そのときにセゴットがした《仕事》。此奴(こやつ)があの悲劇で、魔導騎士団員として何をしたのか。

 儂以上に皆は当時のことを実感を持って思い出しているらしく……一気にこの会議室の空気が静かに、重くなった。


「セゴット……お前、いつの間に……。

 …………そうか。ゼンと話をしていたんだな。」


 怒りのデコピン連発から一転、セゴットに寄り添うようにしてそっと声を掛けるキリナード。

 しかし己の心の傷に疎いセゴットは、相変わらずのいつもの調子で、視線を鬱陶しがるようにキリナードを横目で見返した。



「いつの間にっつーか、普通に先週、休憩時間にたまたまゼンが近くにいたから話しただけだけど。


『あんときウェルナガルドの死体を処理したのは俺だ』って話して、『まともに火葬してやれなくて悪かった』っつって謝った。


 ……あと、アイツはそんとき弟と山ん中に逃げ込んでたっつってたから、『俺が右眼で周りの山を視て魔力を確認してたら、お前らをすぐに保護してやれてたと思う』って、それも謝った。

『平民の魔力持ちが生き残ってる可能性まで考えてなかった。そこまで頭回ってなかった。確認しなくて悪かった。』っつっといた。


 そしたらアイツ、キレるどころか『いえ、大丈夫っス。むしろ何か、すんませんっした。』っつって謝ってきたけど。

 アイツが謝んのも意味分かんねえけどな。」



 ………………そうじゃったか。



「…………セゴット。お前こそ、一人で謝らなくていいんだ。

 それで……ゼンが謝ってくれたっていうのはさ、ゼンにもちゃんと伝わったってことなんだと思うぞ。

 ウェルナガルドの人たちのために、お前はお前で、あのとき誰よりも全力を尽くしてたんだってことが。」


 キリナードが優しくセゴットに伝える。



 ──「まともに火葬してやれなくて悪かった」。


 ──……「確認しなくて悪かった」。



 恐らく世界でもセゴット一人しか持っていないであろう、唯一無二の人外の異能。


 暗殺組織の者達に赤子の頃から改造されて得た、《鉱邪龍の酸を纏った左手》と、《月下狼の右眼》。



 ──お主の左手は(けが)れでも呪いでもない。人類の宝なんじゃ。

 死者を弔うのには「火葬」の方が良いなど……そんなことはないんじゃ。

 お主の「左手で溶かす」ことも、立派な死者の葬送になっとる。お主がその手に触れて弔った者達も、火葬と同じく、無事に安らかな眠りについたはずじゃ。


 ──……そんな数千の弔いを一人で抱えた上で、右眼を使えんかったことなど……儂からすれば、仕方ないとしか思えんわ。

 たしかにその眼はお主にしかない異能だが、それを使わんかったのは、お主だけのせいではない。……誰もそのとき、気付かなかったんじゃ。一人でさらに己を責めるな。


 たしかに、ゼンがあの悲劇以降に味わってきた辛さは、儂らでは到底想像などしきれんが──……お主だって、本当に辛かったんじゃろうが。儂らが想像できんほどに。



 ゼンが謝ったのは、故郷(ウェルナガルド)の者達の姿にお前も傷付いたであろうことと……


  ……きっと、お前への、感謝の代わりの言葉じゃ。



 儂は心の中でそうセゴットに語った。

 他の者達も皆、同じことを思っとるようだった。




 …………しかし。


 そういった感情(もの)にも疎いセゴットは、キリナードの寄り添いの言葉からは何も汲み取れなかったらしく、儂らの胸中を見事に一言で消し去った。



「は?」




 ……………………



 ………………まあ、ええか。




 逆にお主は、何も自覚できとらんのに、ゼンにその理由で謝ったということか。

 セゴット。それこそが、お主の()()()人格──「優しさ」と「繊細さ」の現れじゃ。


 儂は一方的に納得した。

 と同時に、本人にそれらを理解させるのを諦めた。


 ……それこそセゴットは日頃の不遜な言動に反して、その実かなり「繊細」じゃからな。

 今ここで敢えてグリグリと傷をほじくり返す必要もないわな。




「…………ま、何はともあれ!誰が悪いとかではなくって!

 とりあえず、何か団員同士で暴力沙汰になるレベルのトラブルが発生していた場合は、仲裁に入る。

 そしてそれを所属部隊長と、団長か副団長に速やかに報告する。

 今後はそうするように!」


 セゴットによる不意打ちのせいで怒るに怒りきれなくなったキリナードが、無理矢理ハキハキとした声でまとめに入った。


「テメェが俺のこと(わり)いって言い出したんだろうが。」

「──ということで!

 話は以上です!みんな今日も一日、元気よく頑張りましょう!

 ドルグスとゲンジ隊長は、ゼンとラルダの様子をちょっと気に掛けてやってください。『既にちゃんと仲直りして、一緒に今年度の新人たちと楽しそうに話してた』って報告は聞いてるんで、もう大丈夫だとは思いますが。一応。」

「承知。」「ああ、分かった。」


 セゴットのツッコミをかき消すようにして、強引に会議を終わらせたキリナード。



 こうしてキリナード率いる魔導騎士団は、年度始め早々のトラブルを何とか「キリナード一人が国王様から直々にお説教される」だけの犠牲で乗り切った。




 …………そして。


 このセゴットの「新人2人のトラブル放置」が()()()()となったかどうかは定かではないが、巡り巡って3年後。

平民(ゼン)王女(ラルダ)()()()()()」に激怒した国王様に、キリナードが再び呼び出され理不尽に問い詰められる羽目になろうとは──……この時の儂らはまだ、知る由もなかった。


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


「剣聖」と呼ばれた生ける伝説の剣士ゲンジ。

人々の記憶に残らない、隠れた名将のキリナード。

そして、歴代初にして最強の女剣士、第一王女ラルダ。

どの世代の魔導騎士団も、どの歴代団長も、それぞれを少しでも好きになっていただけたら嬉しいです。

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本編を一気読みしたあと、シリーズ全部一気読みしました。 気になっていた人たちの背景が、こんなにも深く掘り下げられていて感無量です。そうだよな、大人たちは大変だったよな……! 責任をきっちりとって怒られ…
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