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13番目の魔女  作者: くろえ
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この国の未来

金のローブを羽織って玉座に座る2番目の魔女は、大きく足を組み替えた。

「この玉座、私に設えたようではなくって? どう?お姉様。」

お姉様、と呼ばれた清楚で上品な婦人が曖昧に返事を返す。

「まぁ、そうかもね。」

婦人は小さくタメ息をついた。その腕の中では薄桃色のおくるみに包まれた小さな赤ちゃんがスヤスヤ眠っている。

「あんなやり方しか出来なかったの? まったくもう、貴女ときたら・・・。」

「あら、文句を言われる筋合いはなくってよ? 姉妹思いのこの私にもっと感謝してもらいたいものだわ。」

2番目の魔女が首に下がった首飾りを指で弄びながら昂然と笑う。

美しい魔石をふんだんに使った首飾り・・・大魔女の首飾りである。

それを首に掛ける魔女はもう、ただの魔女では無い。

2番目の魔女。彼女はこの国の新しい大魔女になったのだ。


「お母様、すっかり落ち込んじゃったわねぇ。」

婦人が複雑な表情でつぶやいた。

「アレは落ち込んでるってワケじゃないわよ。みんなに怒られてヘソを曲げちゃっただけ。まったく大人げないったら!」

「手厳しいわね。そういう所、お母様にそっくりよ。」

「やめてよ、人聞きの悪い!」

姉妹はクスクスと笑った。

前の大魔女・・・彼女達の母親は「あんな長い名前、言い当てられるか!!」と、街の人達はもちろん、事情を知った国中の人達から怒られて、すっかり拗ねてしまった。

それじゃみんなで好きにおし!と金のローブも首飾りも放り出して、自室に引き籠もったまま出てこなくなってしまったのである。

それでも姉妹があんまり心配していないのは、母親の性格をよく知っている「娘」だからこそ。この程度で懲りてくれるのなら苦労はしない。

その内また元気になって騒ぎを起こしてくれるのだろう。今回や、1番上の娘が素敵な恋をした時のように。

「ま、結果良ければ全て良し!

一時的でもお母様はおとなしくなったし、末の妹はめでたく人になれたし、私はようやく大魔女になれたしね。」

「そうね。・・・でもねぇ・・・。」

婦人が心配そうに眉を潜める。

「私の時はともかく、13番目の魔女は・・・」

「ティナ、よ。」

「そう、もうそう呼ばないといけないわね。

ティナはまだ子供よ? 結婚出来る歳じゃないでしょう? 大人になるまでに2人がうまくいかなくなったらどうするつもり?」

「あら、大丈夫よ。」

姉の心配を、妹が笑い飛ばす。

「あの子は『呪文』を唱えたわ。お姉様のダンナのようにね。

私はただあの子の夢に現れて『呪文』を教えてあげただけ。唱えたのはあの子の意志よ。『呪文』を唱える勇気の無い男なんかに、可愛い妹をくれてやるもんですか!

それにね、先の事はまだわからないけど、うまくいかなくたってあの街の住民に任せておけば問題ないわよ。どいつもこいつも底抜けに人がいい連中なんだから。

だいたい魔力が無くなったって、私たちは姉妹よ。何かあったらいつでも助けに行けるわ。そうでしょ?

もし他の妹達が恋をした時でも私は同じ事をするつもり。ただし好きになったのがこの私のお眼鏡に適う男だったら、だけどね。

人の性格をとやかく言うつもりはないけど、最低でもお姉様のダンナやあの子のような『誠実さ』がなきゃ、絶対にダメよ!」

そう言うと、2番目の魔女・・・新しい大魔女は、さっきから奇声を上げて玉座の周りを走り回る子供2人の内、大きい方の襟首を掴んで自分の膝に引っ張り上げた。

「さぁ、私の可愛い怪獣(甥っ子)達!新しい大魔女様の最初の命令よ。

お部屋に閉じこもって我が儘言ってるお祖母ちゃまを、引っ張り出してきてちょうだい!

教わらなきゃならない事がたくさんあるんですからね、勝手に老け込んでもらっちゃ困るのよ!!」

「はぁ~いっ♪!!」

お兄ちゃんを膝から降ろし、纏わり付く小さい弟の頬にキスすると、怪獣達は元気いっぱいに「玉座の間」から走り出ていった。

かつて「1番目の魔女」と呼ばれ、今は小間物屋の奥さんと呼ばれる女性は、側に控える大臣と微笑みを交し合った。

子供達の小さな背中を見送る新しい大魔女の瞳に宿る、深く豊かな慈愛の光。

この国の未来は、大丈夫。

そう確信させてくれる、希望の光だった。


セシリアは庭に出て、美しく咲いたバラを眺めてニッコリ微笑んだ。

この日一番綺麗に咲いたバラを、夕食の食卓に飾りましょう。きっと楽しい話がたくさん聞けるわね。楽しみだわ・・・。

「おはよう、おばさん!」

アマンダが彼女の友達をたくさん引き連れて、垣根越しに声を掛けてきた。

「ねぇ、もう行っちゃった?」

「いいえ、まだよ。もう用意は出来てるはずだけど・・・。」

セシリアが開け放たれている玄関に向かって呼びかける。

「お迎えに来てくれてるわよ。出ていらっしゃい。」

すると家の中から、じゃれつく2匹の猫たちと一緒に1人の少女がオズオズと歩み出てきた。

普通の女の子が着る服を着て、普通の女の子が使う鞄を肩に掛け、普通の女の子のように髪を三つ編みにした、普通の女の子になった13番目の魔女。

今日からセシリアの家に住んで、みんなと一緒に学校に通うのである。その笑顔は喜びに溢れていた。

「わぁ、可愛い!」

「大丈夫よ、他の子も先生もみんな優しい人ばっかりだから!」

「さ、行こ!これから毎日迎えに来てあげるね!」

「・・・あら、それはダメよ。」

盛り上がった友人達をませた口調でアマンダが制する。

「『恋人』が迎えに来てるのよ?譲ってあげなきゃ!」

振り向くと、男の子の集団がニヤニヤ笑いながら立っていた。その中に、小突かれ冷やかされて顔を赤くするソラムがいる。

素早く察した女の子達は、きゃぁきゃぁ2人をはやし立てながら、他の男の子達と先に走って行ってしまった。


「・・・おはよう。」

「・・・」

恥ずかしがって俯いてしまい、返事も出来ない少女にソラムは手を差し伸べる。

「行こう・・・ティナ!」

その声に勇気を貰い、少女・・・ティナは顔を上げ、差し伸べられた手を取った。

そんな初々しい2人の様子を、街の人達が温かく見守っている。

一緒に走り出すまだ幼い恋人達の、弾けるような輝く笑顔。

この2人の未来は、大丈夫。

そう確信させてくれる、眩しい笑顔だった。

ありがとうございました!

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