襲いかかる狂気(後編)
-紅魔館・館内
夢月「休むとこ…どこにあるのかしら?」
夢月は立ち止まって辺りを見渡した。しかし、どこを見ても同じような扉ばかりが並んでいる。これでは寝室を探すのは少し困難だ。
夢月「やれやれ…広すぎる館も考え物ね。それに…」
夢月はため息をつきながら再び徘徊を始めた。
夢月「この館って外から見て、こんなに広かったっけ?」
夢月は先の見えない廊下と無数に列なる扉を眺めた。
夢月「片っ端から扉を開けていこうかしら?でもそれじゃあきりがないし…」
ぶつぶつと独り言を言いながら歩いていると夢月はあることに気がついた。
夢月「あ!そうだ!扉なんて弾幕で一掃しちゃえばいいんだ!なんだ、簡単じゃない!」
早速、大量の弾を生成してとりあえず目に入る扉全てに狙いを定めた。
夢月「さて、どの扉を第一号にしようかな?えっと…ん?えー?」
夢月が扉を品定めしている時、突然目の前に周りより大きな扉が現れた。これにはさすがの夢月も驚いた。
夢月「うーん…こんな扉さっきまでは無かったよねえ?見落としてたのかな?」
夢月はその扉に近づきドアノブに手をかけた。
夢月「ここはあのお嬢様の部屋かしら?だったら嬉しいんだけど…」
夢月は扉を勢い良く開け放つと中を観察した。大きなベッドでもあるのかと思いきや、そこにあったのは見上げるばかりの大量の本棚だった。
夢月「ここは…図書館かしら?」
夢月は本棚の間を歩き回り感心したように頷いた。
夢月「立派だわ」
???「来たわね。」
突然頭上から声がした。夢月が上を見上げると服も帽子も髪も瞳も紫の少女が本棚の上に浮いていた。
夢月「ん?まだ住人がいたのね。」
???「あなたにはもう少しさまよってもらう予定だったんだけどね。」
夢月「どういうこと?」
その少女は悪戯っぽく笑うと語り始めた。
???「あなたがこの館の散策を始めた頃から、あなたに幻術をかけさせてもらっていたわ。扉が無数にあるように見える幻術をね。」
夢月「なるほどね。つまり館が外から見たより広く感じたのもあなたの幻術だったわけね。」
???「それは私じゃなくてここのメイド長の仕業よ。」
ああ、あの咲夜とか言うやつか。夢月は奇妙な戦いをするメイドの姿を思い出した。
???「まあ、私も幻術は専門じゃないし上手くいくかは分からなかったんだけど…それでもメイド長の空間操作と組み合わせれば迷宮を創り出すことは可能なんじゃないかって思ったのよ。それから私の幻術の研究が…」
夢月「つまり私を迷わせたかったてことね?」
夢月は話が長くなりそうだったので途中で遮った。
???「その通りよ。」
夢月「でも何の為に?私は休む場所を探してただけよ?」
紫の少女は一呼吸置いてから答えた。
???「時間稼ぎよ。あなたは早々と目的を達成したら外の戦闘に戻るでしょ?今、レミィやフランの戦いに水を差されるのは困るの。」
夢月はそれを聞いて鼻で笑った。
夢月「正直、あの二人の吸血鬼を倒すのに加勢なんて必要ないわ。あの二人は私たちの足元にも及ばない。」
???「だからこそよ。」
夢月「?」
???「あなた達に敵うことが絶望的であることをあの二人には知ってもらわなければいけない。それには二人より一人に負ける方が良いのよ。」
夢月「あなたはもう諦めているのね?」
すると紫の少女は夢月を鋭い目で睨み付けた。
???「違うわ!」
夢月「じゃあ何故?あの二人には期待してないんでしょ?」
???「今の二人にはね。でもいつかあの二人は強くなる。私たちはそれに賭けるしかない。可能性は低いけどね。」
少女は夢月を見つめた。
???「あなたもフランに…あの妹の吸血鬼に可能性を見出だしたんでしょう?」
夢月は返す言葉が無かった。あの小さい吸血鬼の瞳に発狂の可能性を見たのは事実だ。
???「あの二人の成長にはきっかけが必要なの。プライドも自信も傷つけられた二人がどう立ち直るのか、その時どれだけ成長するのか、楽しみにしてるといいわ!」
夢月はそれを聞いて楽しそうに笑った。
夢月「あははっ!あなた良いわ!気に入った!」
夢月はそう言うと図書館から出ていこうとした。
夢月「楽しみにしてるからね!」
???「最後にお名前伺ってもいいかしら?」
夢月「名前?夢月よ。」
???「そう…私はパチュリーよ。」
夢月は最後にパチュリーと目を合わせると図書館を出ていった。
パチュリー「さて!そろそろ行くかな…」
パチュリーも図書館を出て館の外に向かった。
-紅魔館・館外
レミリア「天罰『スターオブダビデ』」
フラン「禁弾『スターボウブレイク』」
二人のスペルカードが幻月を襲う。…が幻月の飛ばす弾に全て押し返される。
幻月「踊れ!星弾幕よ!」
幻月はキラキラと光る弾幕をまるで流星群かの如く放った。レミリアは弾の軌道を読んで回避した。
レミリア「ふんっ!この程度なら…」
フラン「お姉ちゃん!後ろ!」
レミリアはとっさに後ろを見たが遅かった。かわしたと思っていた星弾幕の群れが地面から跳ね返ってきてレミリアに襲いかかったのだ。
レミリア「ぐあっ…」
痛みが体を貫く。今までの弾幕ごっこではここまで痛い思いはしなかった。もはやこれは『ごっこ』ではない。レミリアは意識が薄れていくのを感じた…
…気づけばレミリアはフランと一緒に地面に倒れていた。ぼろぼろになった妹と自分を見て情けない気持ちでいっぱいになった。
レミリア「私が…この私が相手になってないというの?」
レミリアは最後の力を振り絞ってグングニルを出現させた。隣ではフランがレーヴァテインを握りしめている。二人は一斉に飛び上がりレミリアは幻月の正面にフランは背面に陣取った。
レミリア「これで最後よ…神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
フラン「禁忌「レーヴァテイン」!!」
二つの刃が幻月の前後から放たれた。幻月は静かに目を閉じて両腕を広げた。そして…何もしなかった。二つの刃は幻月の腹と背中に突き刺さった。
レミリア「何!?」
暫くの沈黙。幻月は力を溜め、かっと目を開くと突き刺さった刃を消し飛ばした。
フラン「嘘…」
幻月は再び力を右腕に溜めた。
今度こそ終わりか…レミリアは死を覚悟した。どうせ死ぬなら…
フラン「お姉ちゃん!?」
レミリアはフランの目の前で両腕を広げた。
レミリア「ごめんね。フラン。私が弱いからこんなことに…」
レミリアはさらに翼を大きく開いてフランを幻月から隠した。
レミリア「さあ!来るなら来なさい!」
幻月「あなたやっぱり…自分のプライドの為に戦ってるんじゃなくて家族の為に…」
レミリア「違う!」
レミリアはそう叫んだ後、威厳のある笑みを浮かべた。
レミリア「私は気高き吸血鬼、レミリア・スカーレット様よ!」
???「あなた気高い?笑わせてくれるわね!」
突然下から声がした。その場にいる者が一斉に声の主を見ると、紫の少女が日傘を持った小悪魔を連れて現れた。パチュリー・ノーレッジである。
パチュリー「レミィ!今は誇りなんて捨ててこの場から逃げるのよ!」
レミリア「逃げる?この期に及んでそんなことはできないわ!もう覚悟は決めたの!」
パチュリー「レミリア!!」
パチュリーは普段では考えられないような荒々しい声で叫んだ。いつもとは違うパチュリーの気迫にレミリアはたじたじとした。
すると今度はいつもの穏やかに悟すような口調になって話しかけた。
パチュリー「私はね、あなたのそんな必死な姿を見たことがないの。月での戦いを覚えてる?あなたはそこで完敗したけど、今ほど熱くはならなかった。それは何故だと思う?」
レミリアは首をすくめた。
パチュリー「あの時のあなたには失うものがなかった。でも今は違う。絶対に失いたくないものがある。死んでも守りたいものがある。」
パチュリーはレミリアの目をじっと見つめた。まるで心まで見透かされているような目線からレミリアは逃げることができなかった。
パチュリー「本当にあなたが気高いと言うのなら、残された者の気持ちも考えることね。」
パチュリーはそう言うと空に向けて光の玉を打ち上げた。
幻月「ん!?何をするのかしら?」
光の玉は赤い霧の中に入ったかと思うとその場で炸裂した。すると赤い霧はみるみる消えていった。レミリアとフランは慌てて小悪魔の持っている日傘に入った。
パチュリー「さっ!いくわ…よ…」
すると突然パチュリーが倒れた。
レミリア「ちょっと!パチェ!?」
パチュリーはレミリアに抱き抱えられ苦しそうに笑った。
パチュリー「ちょっと調子にのり過ぎたかな…情けないわね…」
気を失ったパチュリーをレミリアが担ぎ上げた。それにならってフランが倒れている咲夜と美鈴を担ぎ上げた。
レミリア「さっ!いくわよ!」
レミリアとフランは一つの日傘に収まりきるように肩を並べてふらふらと歩き出した。
夢月「いいわね…親友って!」
幻月「あれ?夢月見てたんだ。」
夢月「当然よ!さあ!私たちも我らが友人、幽香を探さなきゃね!」
幻月「そんなに慌てなくてもいいんじゃない?」
紅魔館は夢幻姉妹の手に墜ちた…




