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FLOOD!!!  作者: nozomi
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14/22

イケメン議員、しかしてその正体は!

「おい」


 いつの間にか背後に回っていたウェンが、俺の耳元でささやいた。


「余計なことツッ込んでんじゃないよ。ソレ受け取ってトットとここから出るぞ」

「イヤだ」

「はぁ?」

「俺は記者っつっても登録特派員でビンボーだけど、正体のわからんベクトルのかかった情報を垂れ流すほど腐ってない」

「腐るも腐らないも、お前に選択肢なんかあると思ってんのか?空気を読めよ。ソイツはただのおしゃべり人形じゃないんだぞ」

「記事を書くのは俺。断るのも俺だ!ウェンはさっさと逃げればいいだろ。ここまで付き合ってくれたのは感謝してるよ。ありがとな!」

「んな、後味悪いことできるわけないだろ。わがまま言うな!断ったら間違いなく抹殺されるぞ。このバカが!」



 俺たち二人は、大人げなく至近距離で睨みあった。

 無言で視線の戦いを繰り広げること、1分弱。

 ビスクドールの唇から老人の低い笑い声が聞こえてきた。



「フフフ・・・。そっちの黒髪ブルネットくんの言うとおり。私の頼みを断って無事に済むとは思わない方がいい。だがまぁ、だからこそ、記者ジャーナリストくんの質問には答えよう。なぜ私がデイビスの失脚を望むのか」



 物騒な前置きに俺は震えた。

 うん、まぁ、この状況シチュエーションで取引を飲まないなんて、タダで済むわけないよな。

 ウェン、すまん。



「人間が寄り集まれば、そこには必ず階級・序列が生まれる。それは宇宙世紀における新世界げつめんとしにおいても例外ではない。都市にエリートたる住民が本格な定着を見せて四半世紀、飢えや貧困に至らないまでも無視のできない貧富の差は、月に新たな対立構造を形成した」



 老人は唐突に月の社会問題を語りだした。

 月面都市住民間の所得格差問題は、宇宙開発の歴史に基づく必然の結果だ。

 入植初期から都市開発に携わって生活の場を移した技術者エンジニア医療従事者メディカルワーカーといった宇宙労働者層コスモプロレタリアと、都市生活の安全性が証明されてから移住してきた資本家層ブルジョワジー

 公には下院における労働党と民自党の与党争いという形を成して、都市のいたるところで両者の対立は時を経て深まるばかりである。



「デイビスは労働党の議員だ。労働党は自由リベラル思想の政策で低所得者を擁護する党利党略を事とする野党だ。時に荒唐無稽な法案を提出するのもよかろう。しかしデイビスの奴に自由にさせるのは危険だ。奴のまわりには人が集まり、集まる人種には節操がない。社会的地位、職業、生活習慣、気質、まったく違う人間が奴の巧みなペテンにだまされて群れ集う」



 レディ・バグジーの元に傷ついた男女が集まってきたように、デイビスの周りにも多彩な才能が集まっているのだろうか。

 ならデイビスもまた、宇宙ソラで大事を為す本物のカリスマかもしれない。



記者ジャーナリストくんは『ルナ)バーバーリアンI(インベィジョン』なんぞという、ふざけた言葉を知っているかね?」



 初めて聞く言葉だけど、『民族大移動グレートバーバリアンインベィジョン』を文字った造語なのは想像できる。

 西暦300年から700年の間にヨーロッパで起こったゲルマン人の移住は、古代から中世への契機ターニングポイントとなった有名なイベントだ。

『月の民族大移動』ってところか?

 一体なんのことだろう?



「頭文字を並べて茶化した言い回しをしているが、最近月で密かに宇宙労働者コスモプロレタリアどもの中で流行り始めている危険な思想活動だ。LBIの指導者オピニオンリーダーは表向き無名の学生が務めているが、真の提唱者はデイビス――――――――そしてその最終目標は月面市民権購入制度の廃止だ」



 市民権制度の廃止!

 それが実現したら、地球圏がひっくり返っちまうだろう。

 地球からの移民が月面に溢れかえることになる。


「議会議員は公僕だ。国益を損なうような活動は厳に慎むべきだ。デイビスは議員の本義を忘れ、宇宙労働者コスモプロレタリアの中でも特に過激な思想を扇動している忌むべき無政府主義者アナーキストだ」


 無政府主義アナーキー・・・なんてものに収まらないんじゃないだろうか?

 LBIがやろうとしていることは。

 これは革命だ。

 月面で革命が起ころうとしている。

 月面の既得権益を破壊して新しい社会を作るために。

 デイビスはただのイケメン議員じゃない――――――――革命家だ!

 リウ一族に暗殺を依頼した人間の目的も月の革命を潰すためだったのだろう。

 もしかして依頼人はこの老人だったのかもしれない。



「月の秩序を守るため。協力してくれるね?記者ジャーナリストくん?」



 返答を求めて、ビスクドールのガラスの瞳が俺を見据えた。

 ナイフの刃を心臓に突きつけるかのような冷えた殺気を宿す視線。

 断ればどうなるかなんて、想像するまでもない。


 けど俺は。



「お断りします」



 俺の言葉で部屋の空気が凍りついた。



「・・・報酬は弾む。君も月面で暮らせるぞ」



 くぐもった低い声が、如実に老人の怒りを露わにしている。

 きっとこれが最後通牒だ。



「そのうちデイビスがタダで月に住めるようにしてくれるんでしょ?俺はそっちの方がいい」



 俺のナメきった(そのじつ、死を決した)返事が済むのを待たずに、俺の心臓を狙ってビスクドールの華奢な右手から高速の一撃が放たれた。






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