第22話:新しい制服と中学の始まり
# 女の子になった僕が、君の心を奪うまで
## 第22話「新しい制服と中学の始まり」
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4月7日
入学式の朝、私はいつもより30分早く起きた。
理由は言うまでもない。
鏡の前に立ち、中学の制服を着て、自分を眺める。
紺のブレザーに、チェック柄のスカート。白いブラウスの衿元には青のリボン。
(……いいじゃない)
小学校の服装は基本的にママの管轄だった。
いくら前世の記憶があっても、ランドセルを背負った小学生が「コーデにこだわりたい」と言えば、
「子供らしくない」と一蹴されるのがオチだ。
ママが買ってくれる服の中から、
自分が着たいと思う服を着る日々だった。
でも制服なら話は別だ。
そもそもかわいいし、同じ服でも着こなし方で印象は全然変わる。
ブレザーのボタンを全部留めてみたり、一番上だけ外したり、
スカート丈を少し短くしたり、リボンの位置を少し下げてみたり——
(うん。これかしら)
それから洗面所に移動して、今日の仕上げをした。
日焼け止めを薄く伸ばして、眉を少しだけ整えて、リップクリームを塗る。
本格的な化粧品はもう少し先の話だ。
でも「ケアをしている肌」と「何もしていない肌」では、並べれば一目瞭然の差が出る。
(中学に入ったら、と楽しみにしていたことがようやくできるわね)
洗面所を出てリビングに下りると、
ママが「あら、今日は早いのね」と言いながらトーストを出してくれた。
「制服、似合ってる?」
「ええ、すごくかわいいわ。さすが私の娘!」
お母さんにそう言ってもらえると、少しだけ素直に嬉しくなる。
(おほん。別にかわいいのは分かってるんだけど!)
私は照れ臭くなりながらも、トーストを食べながら、今日の段取りを頭の中で確認した。
入学式、クラス発表、自己紹介にオリエンテーション。
小学校の六年間で積み上げてきたものは、あくまでも土台だ。
中学という新しい舞台では、また最初からポジションを確立する必要がある。
(もっとも、小学校からの持ち上がりが半分くらい占めてるから、出遅れることはないでしょうけど)
私は最後のひとくちを飲み込んで、立ち上がった。
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玄関を出ると、ちょうどシンくんが家から出てくるところだった。
「おはよう、シンくん!」
「……おはよう、愛鈴ちゃん」
シンくんが私を見て、一瞬だけ動きを止めた。
(私の制服姿に見惚れちゃって、相変わらずかわいい反応ね)
「どうかしら。変じゃない?」
「……いや、なんか、似合ってる...よ」
「ありがとう!シンくんもブレザーカッコいいよ」
シンくんの制服姿を改めて見る。
小学校の頃からぽっちゃりしていた輪郭は、制服を着てもやはりそのままで、
ブレザーが少しだけきつそうだった。
でも真剣な顔で前を向いて歩く様子は、
前よりずっと「男の子」として形になってきている気がした。
(……シンくんは成長期がまだみたいだけど、中学でどう変わるかしらね)
私の方が先に成長期を迎えているので、
今の所私とシンくんの身長は同じくらいだ。
でも前世の自分も中学で急に成長して10cm以上伸びたし、
シンくんがどれほど高くなるかは気になるところである。
私たちは中学への期待を膨らませながら二人で桜並木を歩いて学校へ向かった。
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校門のあたりに到着すると豊ちゃんがすでに待っていた。
「愛鈴ちゃん!」
豊ちゃんが私を見つけて、小走りで近づいてくる。
新品の制服の胸元がその動きに合わせて揺れる。
(相変わらず、豊ちゃんの胸は目を引くわね。ていうか春休みの間にまた大きくなってない?)
あまりのインパクトにシンくんのことなど頭から飛び抜けてしまい、
私は豊ちゃんへの妄想を繰り広げていた。
「豊ちゃん、おはよう!制服似合ってるわね」
「え、ほんと!?愛鈴ちゃんこそ、すっごくかわいい……!」
豊ちゃんが嬉しそうに言って、それからシンくんの方を向いた。
「清井くんも……おはようございます」
「うん、おはよう、牧瀬さん」
小学校の頃より、ほんの少しだけ会話が自然になった。
6年間頑張って橋渡ししてきた積み重ねというのは、しっかりと効いていた。
校舎に入る前に、別の男子グループと話していたイツキくんも合流した。
「愛鈴!シン!牧瀬も!おはよう!」
あいかわらずの大声で、近くにいた新入生が何人かこちらを見た。
「声が大きいわよ!」
「ほんとに久しぶりって感じじゃん!春休みの間全然会えなかったし」
イツキくんは背が小学校の時よりまた伸びて、新入生の中でも頭ひとつ抜けている。
制服を着ていても体育会系の雰囲気は隠しきれていない。
(バスケ部からしたら身長ある経験者だから歓迎されるでしょうね)
4人で体育館に向かいながら、入口に貼り出されたクラス表を確認した。
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百合乃 愛鈴 一年A組。
視線をずらして、他のメンバーを探す。
牧瀬 豊 一年A組。
清井 心 一年B組。
神崎 樹 一年B組。
(シンくんとイツキくんが一緒か)
A組は知らない顔も多い。小学校が別だった子たちが多いようだった。
「私はA組よ。豊ちゃんも同じだわ。シンくんとイツキくんはB組ね」
「マジか!シンと同じクラスか、ラッキー!」
イツキくんが屈託なく言った。
シンくんは「……まぁ、いいか」と小さく頷いた。
「入学式が終わったら、部活の紹介見学に行くのよね?」
「いや、俺はもうバスケ部に決まってるし、監督とも事前に話してるからもう練習に参加させてもらう予定。シンはどうすんだ?」
「……考え中。運動部にはしようと思ってるんだけどね」
「え!文化部じゃないのか?」
「うん、中学になったら鍛えたいって思ってたし、丁度いいかなって」
「いいと思うわ、せっかくだしスポーツで心身共に鍛えましょうよ」
(ふふ。どこに決まるか、楽しみにしてるわね)
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入学式は体育館で行われた。
校長先生の話が少し長かったが、私は式の間、新しいクラスの顔ぶれをさりげなく観察していた。
A組だけで三十人ほど。
小学校が同じだった子もいれば、初めて見る顔もある。
(どの子が使えそうな子で、どの子が面倒な子か。ここの見極めは急がないと)
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式が終わって、A組の教室に入った。
席決めはホワイトボードに張り出されており、私は窓側の真ん中あたりの席だった。
教室の中をさっと見回す。
その時だった。
教室の入口近く、扉のそばの席に座っている女の子と目が合った。
(……誰かしら)
小学校が違う子だ。
少し癖のある茶色の髪を肩で切り揃えていて、目がはっきりしている。
私と目が合っても、すぐには視線を外さなかった。
2秒ほど、互いに見合った。
それから、その子が先に目を逸らした。
(へえ)
なんとなく、おもしろい子を見つけた気がした。
物怖じしない目をしている、よくも悪くも。
後で隣の席の子に聞いたところ、その子の名前が分かった。
次原 凛。
小学校は別の学区らしい。
(凛ちゃん、ね。早速面白そうな子が見つかったわ)
私は次なるターゲットを定めて今後の計画を立て始めていた。
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放課後、一緒に廊下でシンくんと合流した。
豊ちゃんは文化系の部活を見に行くらしく、
別の子達と文化部棟の方へ向かって行った。
B組の教室からまっすぐ出てきたらしく、
いつも通りの静かな顔をしていた。
「どうだった、B組」
「……うーん、同じ小学校の人が多かったからあんまり変わった気がしなかったかな。」
「そうよね。」
「うん。愛鈴ちゃんはどうだった?」
「楽しかったわ。まだ一日目だけれど豊ちゃんもいるし隣の子とも仲良くなったし」
シンくんは少し目を細めて、「……そっか」と呟いた。
「部活の見学、どこに行くかもう決めてるの?」
「……いくつか見てみようかと思って。テニス部と——」
「あら、テニス部」
「うん。教室の窓からテニスコートが見えて気になったから」
(テニス部か。それならあれもこれも...)
私は内心でそっと頷いた。
「私もテニス部の見学、一緒に行ってもいい?」
「……え、愛鈴ちゃんもテニスやるの?」
「やるかどうかはわからないけれど、私も気になったの」
シンくんは少し考えてから、「……うん、いいけど」と言った。
(マネージャーとして男テニに入るか、女テニに入るかはあなた次第よ。シンくん?)
廊下の窓から、グラウンドが見えた。
野球部らしき上級生たちが元気よく走っている。
体育館ではバスケットゴールの前で、
イツキくんがもうチームに混じって練習しているのが遠目に見えた。
(中学の3年間、まずは部活決めから始めましょうか)
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