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女の子の僕が君の心を奪うまで  作者: 紫苑寺


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第2話:小さな手のひらの上で

---


幼稚園という場所は、観察するには面白いところだ。


子どもたちは本能のままに動く。好きな子には近づき、嫌いな子には近づかない。泣きたければ泣き、怒りたければ怒る。大人のような計算も、体裁も、ほとんどない。


そんな純粋な生き物たちの中に、前世の記憶を丸ごと抱えた私がいる。


我ながら、ずるいと思う。


(でも、ずるくて何が悪いの)


私は窓の外を流れる雲を見ながら、そっと口元を緩めた。


---


ひまわり組の朝は、いつもにぎやかだ。


ブロックを積み上げようとしている男の子たちの声、お絵かきコーナーで色の取り合いをしている女の子たち、先生の「順番ね〜」という声が交差する。


私はその中心にいることが多かった。


前世の対人経験があれば、幼稚園の人間関係なんて朝飯前だ。誰が何を求めているかすぐわかる。褒めて欲しい子には一番に「すごいね!」と言ってあげる。一緒に遊びたそうな子には自分から「一緒に遊ぼ」と声をかける。それだけで、気づいたら人が集まってくるようになった。


「愛鈴ちゃん、一緒におままごとしよ!」


さくら、という名前の女の子が袖を引っ張ってきた。くりくりとした目がかわいい子だ。


「うん!」


と言いかけて、私は視界の端に映ったものに気づいて動きを止めた。


窓際の棚の近く。


一人の男の子が、小さな絵本を膝の上に広げて黙々と読んでいた。


ぽっちゃりとした丸い顔に、大きめの眼鏡。周りのにぎやかさとは無縁のように、ただ静かにページをめくっている。


清井 心


愛鈴の家の近所に住む男の子だ。親とも何度かすれ違った際に挨拶をしていたが、それ以上の目立った接点はなかった。


(ふぅん……本を読んでるの)


前世の経験から言えば、ああいう子は大抵、一人でいたいわけじゃない。ただ輪に入る最初の一歩が踏み出せないだけだ。


「愛鈴ちゃん?」


さくらが不思議そうに私を見上げている。


「ごめんね、さくらちゃん。今日はちょっとやりたいことがあるから、また後でいい?」


「うん、わかった!」


さくらはあっさり頷いて、別の子のところへ駆けていった。


私は棚の近くへゆっくりと歩いていった。


---


「なに読んでるの?」


私が覗き込みながら問いかけると心くんが顔を上げた。眼鏡の奥の目が、少し驚いたように丸くなる。


「……どうぶつの、絵本」


「見せて」


返事を待たずにしゃがみ込んで、膝の上の絵本を覗き込む。カラフルなイラストで動物が紹介されているページだった。


「ライオンだ! かっこいいね」


「……うん」


心くんは少し固まっている。突然話しかけられて戸惑っているのがわかった。


私は絵本の端をそっと指で触れた。


「ねえ、一緒に読んでもいい?」


「……いいけど」


心くんは小さな声でそう言って、絵本を少しだけ私の方に傾けてくれた。


私はその隣にちょこんと座った。肩と肩がくっつくくらいの距離。心くんの耳がほんのり赤くなったのを、私はちゃんと見ていた。


(かわいい反応ね)


二人でしばらく、ページをめくった。私が「これ何の動物?」と聞くと、心くんは小さな声でちゃんと答えてくれた。カバ、キリン、ペンギン。どうやら動物に詳しいらしい。


「シンくんって、動物好きなの?」


「……うん。本も好き」


「どんな本?」


「なんでも。字が読めるやつ」


私はくすりと笑った。「字が読めるやつ」という答えが、なんだか心くんらしくてかわいかった。


「私も本好きよ。今度一緒に図書館の絵本コーナー行きましょ!」


心くんは少し間を置いてから、こくんと頷いた。


その小さな頷きを見ながら、私はそっと口元を緩めた。


(うん、これは逸材ね。面白くなりそうだわ)

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