仕える人(H駅、K駅間)
雨の日の車内は危険だ。滑る。
それは予期していない時に起きる。人は派手に転ぶのを、避けるため何とか体勢を整えようとするらしい。
その結果、とんでもない体勢になったりする。
学校帰りは、新快速に乗れるようになっていたが、朝の通学時は、三年経っても新快速に乗れなかった。私が降りる駅は新快速が停車するとわかっているのに。
その頃私は、朝の通勤、通学時間帯は車内があり得ない程ぎゅうぎゅうになって、降りたい駅で降りられないのでは……ということに怯えていた。
もし、降り損ったら隣の市まで行ってしまう! それが恐怖だった。
なので、毎朝の通学は普通電車だった。
私が乗るH駅の次のK駅は、新快速が停車する駅だった。そのため、K駅に着けば大概座れた。
その日もH駅で乗った時には座れず、四人掛けの席に背中をもたれかけるように立った。K駅で人が降りたら、通路に入り空いた席を探そうと思っていた。
朝から本格的な雨だった。
扉が閉まりかける直前、もの凄い勢いでサラリーマンが、階段を駆け下りてきた。
そして、扉が閉まると同時に身を翻すように、私の目の前に飛び込んできた。
お見事! と思ったが、今日は生憎の雨である。車内の床はしっかりと濡れている。
サラリーマンの右足が床に着地すると同時にスリップした。
きっと彼は派手に転ぶまいと、無意識のうちに考えたのだろう。
左膝を床につけるような体勢を取った。
右膝を立てて、立膝になった。
まるで、誰かに仕えているようだった。彼はどんな人に仕えていたのだろう。
今もあの光景を思い出し、いろいろ空想して楽しんでいる。




