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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第四章 遺跡編
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合流阻止作戦4

バトルコスモスのブリッジは以前カルブンクスルとサピュルスと戦った時以上の緊張状態にあった。

理由は言うまでもなく、二面同時展開という経験したことのない作戦。さらに相手も魔女としてはイレギュラーであるバンデットアゲートに、微弱ながら最強の魔女(アゲート)の反応を示すなにか。

慎重に慎重を重ね、警戒に警戒を重ねる。それでもまだ足りないほど。故に、空気は張り詰めたものとなる。

だが、この緊張状態を産み出している最大の原因は別にある。

「状況報告を!」

「イスナイン隊、飛燕小隊共に交戦中! 飛燕小隊は全機健在ですが、イスナイン隊は判りません!」

「判らない、だと? そんな訳があるか!」

「でも! 急に大量出現した使い魔の反応に邪魔されて微弱にしかイスナイン隊の反応を拾えないんです! しかも新たに二体の魔女出現も確認されています!」

「なんだと?!」

状況が悪い方向に転がり始めている事が嫌でも判ってしまう。

それがこの緊張状態を作り出していた。

アディン達の機体はどれもアルトエミス、あるいはその派生機である。

そのアルトエミスは単独で魔女相手にした事もある高性能機で、頭数だけで言えば一機につき一体を相手にすれば、この局面を乗り切れるはず――否。可能性があるだけだ。

そもそも、単独撃破と言われてはいるが実際には撃破などした事はない。

初陣であるアマティスタ戦では決定打になったのはスクロール弾であるし、そのとどめはシプレースに終結した騎士団の機体による一斉射。

続くカルブンクスルとサピュルス戦では致命傷を与えたのはバトルコスモスの魔導砲である。しかもその時はサピュルスを狙った攻撃にカルブンクスルが自ら突っ込んだ事で二体同時にダメージを与えられたようなものだ。

アルトエミスが魔女にくらいついていけたのはどちらの戦闘でも、ほぼ魔女との一騎打ちのような状態での戦闘であったというのが大きい。

では。今はどうか。

バトルコスモスのエーテルセンサーですら微弱にしか捉えられない四機の反応とその原因と思われる大量の使い魔の存在。さらに新たに出現した魔女が二体。

使い魔によって四機は包囲されているとしか考えられず、いくらアルトエミスとは言えど苦戦を強いられるのは必至である。

最悪、誰も帰ってこない、などという可能性も脳裏にちらつき始める。

「アルツ・エナム。ここから援護はできないのか?」

「魔導砲なら狙えますが、この距離で正確に魔女だけを撃てるのはウチだとトリアくらいですよ! それにあいつ等を巻き込みかねない」

「んなことよりなんかこっちに来てるニャー!」

ムビリが舵を切り、艦が大きく傾く。

直撃、ブリッジの真横を黒い何かが通りすぎた。

もし艦が傾いていなければブリッジを直撃していただろう。

「さっきのは何だ!」

「魔女ではありません!」

「なら使い魔か。迎撃できる機銃は全部撃て! バンデットアゲートは!」

「なおも接近!」

「照準はバンデットアゲートにあわせて魔導砲発射! 直撃しなくてもいい。パステークに近付けさせるな!」

ガドルは次の手を考え始めていた。

どういう訳か新たな魔女と使い魔によってパステークの避難が終わるまでバンデットアゲートを足止めすべく出撃したアディン達は足止めされてしまった。

そして肝心のバンデットアゲートはそのまま進行を続けている。

この時点で当初の作戦など意味がなくなってしまっている。

避難が終わるまでの時間稼ぎ。小回りの効かない戦艦では荷が重すぎる。

――最悪はバトルコスモスを敵にぶつけるか、ともガドルは考えたが、それはあくまでも最終手段。なにか別の手段はないかと思考を巡らせようとする。

だが、一度悪い思考を始めるときりがない。いくら状況を好転させようと考えても、敗北や全滅といった言葉ばかり浮かんでくる。

「クソっ! 動かせる機体はあるのに騎士が足りん!」

『こんなこともあろうかとぉ! 遠隔操作可能なヘスティオンを六機ほど用意しているのである』

「シュデム? いや、だとしても前のやつから大した改良出来てないだろ」

『何を言うかアルツ・エナム。シルキーよりちょっと難しい程度、何て事ないのであるな!』

シュデムからの報告を受け、ガドルは思考する。

遠隔操作機の運用はまだまだ試作段階であり、実戦に耐えうるものではない。

それ以前に基本的にはシルキーと同様の操作法であるのだが、サイズも形状も異なる為、現在バトルコスモスで遠隔操作仕様のヘスティオンを操作できるのはシュデムてエリマ以外にいない。

「……まさかとは思うが、六機同時に操ろうというのか?」

『戦闘はまあ無理であろうが、弾幕くらいは作れるのである』

「ないよりはマシか。パステークの避難状況は」

「まだ三割にも満たないようです」

こちらの損失など気にしていられる状況ではない。

とれる手段が限られていて、その中でも最善に近いと思える手段があるのならばそれをしない理由はない。

「解った。許可する。最悪機体を爆弾にしても構わん。何としてでも奴の足を止めろ」

『了解である。さっそく装備を整えて出撃するのである!』

魔女は――魔女との戦いは常に人間にとっては想定外の事ばかりであり、いつもその驚異的な能力に振り回されている。今この時もそうだ。

だが、人間は無力ではない。でなければ、とっくの昔に魔女によって滅ぼされているだろう。

魔女が今まさに人間を蹂躙しようとしているように、人間もまたありとあらゆる手段を用いてそれに抗おうとしている。

「弾幕用意。当てることは考えなくていい」

「あいつ等はどうします?」

「……使い魔と魔女二体()()では死なんさ」

ほんのわずかな間考え、どうやってもあの四人が魔女二体程度にやられる姿が想像できなかったガドルは、アディン達を信用しすぎている自分に呆れながらそう言った。

「ま、機体はボロボロになるだろうけどニャー」

「はは。エリマの泣き叫ぶ顔が浮かぶよ」

「後続の使い魔、加速し本艦に向かってきます!」

「よし。あいつ等よりもバンデットアゲートの足止めと我が身を守ることを考えろ。対空砲、準備できてるな!」

アディン達はきっと帰ってくる。そう信じ、ガドルは指示を叫んだ。



アディン達の状況は非常に悪い。

自分達を四方八方から取り囲む使い魔が邪魔になって当初の目標の離脱を許してしまっただけなら、まだ使い魔を蹴散らして追いかけて再び攻撃を仕掛ければいいだけの話だ。

だがその使い魔を排除したとしても、出来た穴がすぐに塞がり包囲網を抜けられない。

原因は、膨大な数の使い魔を生産し統率しているマルジャーンの存在が大きい。

ならば優先して狙うべきはマルジャーンである、というのは言うまでもないが事はそう単純ではない。

マルジャーンを問題視する理由となる、膨大な数の使い魔を突破しなければ一撃を入れることすら難しく、かといってそれを突破したとしてもシアニートが待ち構えている。

「攻撃はなんとか避けてるが……気を抜いたらその瞬間食い破られるな、これは」

「トリアさん、魔導砲は?!」

「あんなの撃ったら的になる!」

 今はまだ体力にも気力にも余裕があり、集中力も戦闘に対応するには十分だ。

何よりヘスティオンを凌駕する機体性能のおかげで比較的容易に使い魔の攻撃力を回避出来、万が一被弾しそうな時も防御術式によって最悪の事態は避ける事ができるという安心感が彼等の戦意を保っていた。

だがこの状況は長くは続かない。そう誰もが理解していた。

むしろ四方八方を囲まれ、持久戦に持ち込まれた時点で死んだも同然なのだ。

そう。()()()()()

この場にいる四人は生きることを諦めてはいなかった。

一瞬ごとに最悪の結果へと転がり続ける状況にいながらそれでもなお、ゼロではない可能性を掴もうとしていた。

「トリア。弾はどれだけ残ってる?」

「あんまり残ってない。それよりもプレスナイパーライフルの方が問題」

「まあ、近付かれたのを片っ端からライフルで殴ってりゃなあ。ちなみにこっちは完全に弾切れだ。やっぱマシンガンは使い切るの早いな」

そう言いながらもプレスマシンガンを照準代わりにして《ファイヤミサイル》を乱射し、使い魔の群れを焼き払っていく。

無数の炎が一瞬だけ包囲網に穴を開けるが、すぐさま新しく産み出された使い魔が穴を埋めてしまう。

「使い魔を一掃出来れば状況は変わるんですが……」

そう呟いたアルにはその手段を思い付けなかった。

何せ、今の自分が使える魔法にそのような攻撃範囲を持つ魔法など存在しないのだ。

スクロール弾を使うという手も思い付きはしたが、包囲網全体の使い魔を一掃するには数が心許なく、失敗する可能性の方が高い。

仮に出来たはとしても自分達の機体を大きく損傷させ、爆発で魔女を倒せなかった場合間違いなく全滅する。

そこまで分の悪い賭けを、どうしてもアルは選ぶことが出来なかった。

「さて、どうする。相棒」

「なんで俺に聞くんだヴィール」

「お前、こういう時何かしら策を用意してそうだからさ」

「……無いこともないが、かなり分が悪い」

「あるんですか!?」

打開策を考え抜いてなお妙案の出ないアルにとっては、あるいはこの場にいるアディン以外の三人にとってはアディンに何か策があるというのは朗報であった。

ただ、気になるのはアディンの言う分の悪いという部分がトリアは気掛かりで、眉を潜めた。

「アストライアを今の俺の全力で再起動させる」

「は? ちょ、待て。この状況でか?」

「分が悪いって言ったろ。これが一つ目の理由だ」

全方位を囲まれた状態で機体を再起動させる。それは単純にその間は無防備になると言うだけでなく、機体を浮かしておく事すら出来ないということである。

それがどれだけ危険なことであるか。ヘクスイェーガーを操る者ならば理解していないはずがない。

「次に余剰マナを全方位に放射する。これで包囲網は一時的にだが完全に消失するはずだ」

「……まって。それはつまり私達も巻き込むってこと?」

「ああ。しかも全力での放出がどれだけの威力になるかは俺にも想像できない。防御術式を最大出力で張ったとしても耐えきれるかどうかわからない」

「それが、二つ目って訳か」

「そして最後。使い魔を一掃した直後に一斉攻撃でマルジャーンを撃破する」

「……それ、失敗するかもしれないし、そもそも私達が全滅したら分断も何もないですよね」

「だから分が悪いって言ったんだ」

アストライアの再起動に攻撃を受けてはいけない。

再起動に成功したとしても、直後の広範囲を巻き込んだマナ放出に三機のアルトエミスか耐えきらなくてはならなず、かつ一斉攻撃でマルジャーンを撃破出来なかった場合はただ消耗するだけとなる。

アルが考えていたものと異なり、確実に一度は使い魔の包囲網を崩せるのは大きな利点ではある。

だが。どうやったとしても、このままでは消耗し尽くしてやられるだけだ。

「……反省ならあとで出来ます。アディンさん、やってください」

「アル!」

「ならトリアさん、何か案がありますか?」

「……いや。うん。ごめん。確かに生きて帰ってから考えればいい話だ」

「纏まったな。俺も覚悟はできた。アディン、やってくれ!」

息を深く吸い込み、一度気持ちを落ち着かせる。

「よし。行くぞ!」

そして、アディン達の大博打が始まった。

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