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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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対の魔女3

 シュデムの口にした言葉。その言葉の意味をエリマはよく理解できなかった。

 ただ砲というだけあり、それがなんらかの武器であり、何かを射出するものであるという事だけは理解できた。

「で、その荷電粒子砲ってのはなんなんだ」

「細かい説明をすっ飛ばすと、超すげー水鉄砲である」

「は? 水鉄砲だあ? そんなもんでヘクスイェーガーが落とされたってのか!?」

「理論的には、という話である。超高圧の水は金属すら貫通させるのは、貴様も知っているであろう。凡人眼鏡」

 事実、熱に弱い金属の加工には水を使った加工機器が使用される。また水属性攻撃魔法の大半は、超高圧の水をぶつけて相手を切断または貫通させるものである。

 そのどちらも原理としては水鉄砲とかわらない。変わるのは水を噴射する勢いとその圧力。

 シュデムの言葉からはそれよりも更に凄いものである、と言う事が読みとれた。

「レールガン同様に、イスナイン家から見つかった本に記述があったのだがな。レールガン以上に電気を食うバカみたいな砲である。だがその分威力はえげつない」

「……どれくらいだ」

「着弾地点は原子ごと消失する。よって物理的な防御は無意味であるな」

 それを聞いていたエリマも、通信を繋いでいたブリッジも凍りつく。

 そんな攻撃。万が一防御術式を展開できないバトルコスモスが狙われたらひとたまりもない。

 今はまだヴィール機が注意を反らしてくれている。それもいつまで持つか。

「正直、流石の魔女でも荷電粒子砲を装備できるとは思わなかったのである」

「いや、あいつ等に常識なんて通じないだろう」

「そうであるが、荷電粒子砲はそもそも直進し難い。おまけに莫大な反動があり、使い勝手は最悪の部類だ。特に直進し難いというのは問題でな。大気によって減衰し、荷電粒子が拡散しやすく、星の磁気によって歪曲する。直進しないモノを、流石の魔女とはいえ再現してくるとは思わなかったのである」

「じゃあ、奴の荷電粒子砲が直進してるのはなんでだ!」

「なんらかの手段で荷電粒子の収束率を上げて減衰し難く拡散もし難い状態のモノを、磁気の影響を計算して撃ちだしているとしか……」

「はっきりしないな!」

「吾輩機械工学科! 魔女の事は専門外である!!」

 そりゃそうだ。実際シュデムは魔女の能力ではなく、あくまでも荷電粒子砲について語っただけである。

『とりあえず纏めてくれ』

「弾速速くて避けられない。当たると即死。ぶっちゃけ対抗手段などありはしないのであるな! はっはっは」

『いや、シュデム。助かった。荷電粒子砲って奴は大気によって減衰するんだよな?』

「む? そうであるが」

『だったら。防御術式なんて展開しなくても魔法で防げる』

 アルツの言葉にエリマとシュデムは思わず顔を見合わせて考え込む。

「あっ!」

「アレであるな!!」




 敵の攻撃の正体が判ったところで、それが目視と同時に当たっているような超高速で飛来する攻撃で、かつ防御術式で展開される障壁以外ではまず防御不可能な攻撃では、攻略のしようがない。

 今はかろうじて防御モードによって耐えることはできているが、頻度が多くなると防ぎ切れない。

「クソっ……」

 とはいえ、いちいちモードの切り替えなどしていては、攻撃に転じる事が出来ない。

 隙を見てプレスマシンガンで反撃を試みるが、その弾丸も右腕の筒に吸い込まれ分解されてしまう。

 自分の攻撃が通用しない相手に、ヴィールは焦りを感じてしまう。

『ヴィール。敵の攻撃の正体は……』

「聞いてた。荷電粒子砲とかいうのだろ。んなもんどうやって防げばいいんだ」

『≪エアシールド≫の多重展開で防御可能、とアルツ先輩が言ってる』

「……何だって?」

 トリアの言葉に思わず聞き返す。

『シュデム先輩の話によると、荷電粒子砲は大気の影響を受けて拡散する、らしい。だから空気の層を作る≪エアシールド≫を重ねがけすれば……』

「それにぶち当たった荷電粒子砲は拡散して効果を失う、ってことか。でもどれくらい必要なんだ。俺はアディンじゃないからそこまで上手くやれる自信なんてないぞ」

『わからない。でもそれで防げる。防ぎ切れなくても、大幅に威力を落とせるはず』

「そうか。なら!」

 ≪エアシールド≫を機体の前面に多重展開する。

 機体の操作に影響しない限界まで展開された≪エアシールド≫は、アルトエミスの前の景色をゆがませる。

 そこへサピュルスの荷電粒子砲の閃光が直撃する。が、その閃光は拡散し、消滅した。

 屈折率すら変わるほど圧縮された空気だ。それならば荷電粒子砲の一撃とて容易には撃ち抜けない、ということだ。

『――――――!?』

 今まで、自身の攻撃が防御されると言う事はあっても、無効化されるという経験はなかったのだろう。サピュルスに明らかな動揺が見える。

 その隙を突き、ヴィールは一気に接近して背後からしがみつき、ワイヤーでサピュルスの身体を拘束する。

 そもそもサピュルスは接近戦はカルブンクスルに任せ、自身は後方からの狙撃を担当する魔女である。しがみつかれるという経験もなかったのだろう。

 背後からしがみついてしまえば、荷電粒子砲による攻撃は受けない。

 しかもワイヤーとアルトエミス本体の膂力によって抑え込まれ、抵抗もままならない。

「行くぞ、トリア!!」

『いつでも』

 サピュルスを抑えたまま、急降下していく。

 行き先は勿論、魔導砲の射線上。

 自分の意思とは関係なく加速していく事に焦ったのか、サピュルスがもがく。全身から放電し、反撃を試みるがヴィールはそれに耐える。

 本来は強烈な加速から操縦者を守るための術式が、荷電粒子砲の運用を可能とするほどの高電圧からもヴィールを守っているのだ。

 無論、ヴィールとてそこまで考えて無茶をやっている訳ではない。電流による反撃など予想外もいいところである。

 だが、死んでいないのならば、それだけで勝機はある。

『見えた。照準、よし。いつでもいける』

「よし、トリア。撃てッ!!」

 そう叫ぶと共に、サピュルスを解放し、その背中を思いっきり蹴り飛ばして離脱。距離が開くと即座に≪ファイヤミサイル≫を放ち、注意を自身のほうに向かせる。

『――――――!!』

 無数の炎が着弾。その爆炎を手で払いながら、怒りの咆哮を上げる。

 だが、その直後。背後から迫るマナの奔流に気付き振り返るが、時すでに遅し。

 サピュルスはその奔流と大爆発に呑みこまれた。

『ヴィール、生きてる!?』

「ああ。悪いな。トラウマ掘り返すような事させて」

『……まあ、あのバカみたいな無茶をしないとは信じてた』

「よし、アディンの援護に行く。トリアは……」

『二人ならやれるでしょう。アルの様子を見てくる』

 モフモフからはトリアを引きとめようとする声も聞こえて来たが、そこは気にする必要はないだろう。

 機体と装備の状態を確認し、アディンの元を目指し急降下していく。

「無茶やらかすなよ、アディン。お前はそそっかしいからな」




 カルブンクスルとの超至近距離戦闘は常に気を張った状態で行われていた。

 何よりも痛いのが、武器を完全に失ったと言う事だろう。

 プレスライフルはまだ使えるが、使わせてもらえるような間合いではない。

 魔法ならどうか、というのも距離が近過ぎてこちらもダメージを負いかねない。

 何よりも水晶プレートによって魔法はかき消される。

 よって、アストライアは防戦を強いられる。

 文字通り、一挙手一投足に注視し、それに徒手空拳で対応する。

 右手が放たれれば左手で払いのけ、左手が開けばパイルを放たれる前に上に弾き、蹴りが来ればこちらも≪ハードボディ≫で強化した蹴りを放って対処する。

 あまりよくない展開である。

 魔女は完全に欠損しなければすぐに再生することができる為、たとえ殴り合いで傷つこうとも、損傷を上回る再生によってダメージを帳消しにできる。

 一方、ヘクスイェーガーは徒手空拳での戦闘など想定されていない。あくまでもその四肢は武器を使う為の腕であり、姿勢制御と接地のための脚部である。

 いくら≪ハードボディ≫で装甲強度を強化しているとはいえ、何度も殴ったり蹴ったりを繰り返していればいつかはその装甲が砕ける。当然、フレームもだ。

 しかし武器を使えないのだから、戦うにはこうするしかない。

「分割思考、並列演算」

 打開策はないか、と思考を巡らせる。

 相手の攻撃は苛烈を極め、それへの対応に大部分の思考を持っていかれる。

 それでもなお、どうにかならないかともがく。

 ――演算完了。過去の記憶から打開案と思われるものを確認。

 ――術式開始。機体制御開始。

 攻撃を捌きながら、一瞬の隙を探す。

 腕を突き出し、それを払ったタイミング。駄目だ。こちらも手薄になる。

 蹴りを蹴りで迎え撃つタイミング。これも駄目。姿勢が崩れすぎている。

 ならばどこだ。

 左手のパイルを突き出す瞬間。それを身を反らして回避した。

 ――発動。今。

 反らした身を戻しながら、その勢いのまま右の拳をカルブンクスルの腹めがけて突き放つ。

 接触した瞬間。確かな手応えがあった。

 魔法とはまた違う、別の感覚。もっと源流のようなものを感じる。

「何が、起きたんだ……?」

 感覚としては確かにかつて感じた事のあるものである。

 だが、自分でありながら今それをやってのけたのは自分ではない。

 ――解説。マナを拳に密集させ、それをそのまま射出。

 ――回顧。シプレース大森林にて未確認の強獣との戦闘で使用したものと同原理。また魔導砲に類似する。

 ――提案。この攻撃法をマナショットと呼称。

 ――確定。以後、マナショットと呼称する。

「よし。とりあえず分割思考、演算終了。戦闘に集中する」

 かつてシプレースで使った事のあるあのマナの一撃。

 かつて母親に教わった緊急時の攻撃手段の一つで、それに名前などなかった。が、今後使う事があるのならば名前というものは必要になってくるだろう。

 何せこれは、魔法ではない。魔法のように術式を構成する時間を必要としない。

 これは――この状況において、これ以上にない武器になる。

「反撃開始だ」

 両手にマナを集中させ、殴りかかる。

 それをカルブンクスルが受け止めようと手を伸ばす。が、当たる瞬間に集中していたマナが放出され、受け止めた手の機能を破壊する。

 続いてもう一撃。今度は防御も間に合わず、ボディへと突き刺さる。

 怯んで距離を取るカルブンクスル。その瞬間にマナを指先に一点集中させ、狙いを定めて放出した。

 属性を持たない、魔法にすらなっていないその閃光。それを受け止めようと、水晶プレートを展開するが、魔法ですらないそれは無効化される事なく、カルブンクスルの肩を貫いた。

『――――――!?!?』

 肩を押さえ、困惑する様子を見せる。

 直後。遥か上空で何かが爆発した。

「なんだ……?」

『――――!!』

 その爆発を見たカルブンクスルが慌てた様子でその爆発のほうへと向かっていく。

 それを追いかけ、機体を加速させる。

 上空で何があったのかなど知らない。だが、きっともう一体の魔女に攻撃したに違いない。

 ならば、そこに魔女をいかせる訳にはいかない。

 挑発程度にしかならないが、プレスライフルでカルブンクスルを攻撃する。

 何度もその身に弾丸が当たり、身体を少しずつ砕いていく。

 にもかかわらず、赤い魔女はアディンへ反撃しようともせず、一直線に爆発の起きた場所へと向かう。

 妙な動きだ、と警戒しながらも攻撃の手は休めない。

 が、視界の端に降下してくるアルトエミスが映り、思わず動きを止めてしまった。

「アディン!? どうしてここに」

「ヴィールか! あの爆発は?」

「魔導砲で青い魔女を撃墜したんだよ。それよりお前」

「そうだ。魔女が上空に……」

『――――――!!』

 刹那。大気を振わせる絶叫を聞いた。

 声のするほうに視線を向けると、身体を大部分を崩壊させながらも両腕に青い魔女を抱える赤い魔女がいた。

 抱えられたサピュルスは半身を失い今もなお崩壊を続けているが、魔女ですら消失させる魔導砲の直撃を受けたにしては損傷が少ない。

「まさか……あのマナバーストの中に突っ込んで救いだしたのか?」

「魔女が? まさか!」

「奴等は連携する魔女だろ。だったら、そう言う事をしても不思議じゃない」

 赤い魔女は、対となる青い魔女を抱えたままアディン達に背を向けて飛び去る。

 咄嗟にヴィールが逃げるカルブンクスルに銃口を向けるが、アディンは銃を下げさせる。

「弾の無駄だ。やめとけ」

「……くそっ」

「あの傷だからな。放っておいてもそう長持ちはしないさ。それよりアルが心配だ。戻るぞ」

 釈然としない終わり方であった。

 状況から見てもアディン達が魔女に勝った。それは揺るがないだろう。

 だが、倒せたわけではない。確実な撃破が出来ている訳ではない。

 それに、先に仕掛けて来た武装集団の事もある。警戒だけは解かないようにしながら、二機はバトルコスモスに向かい飛んだ。

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