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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
63/315

対の魔女1

 眼前に迫る、具現化した死の概念。

 即座に最大速度で高度を下げる。

 その刹那、赤い魔女の左手の平からパイルが飛び出した。

「あああああっ!?」

 回避が間に合わない。無理やり姿勢をかえて機体を振り回して直撃だけは回避するが、頭部の装甲をごっそり抉られた。

 頭が破損して機能停止しなかっただけマシだ。

 だが、機能停止しなかったが故にアルは顔を抉られる痛みをモロに体感する事になる。

 勿論それは幻痛。存在しない痛みだ。自分の体が本当に抉られた訳ではない。

「くっ!」

 顔を押さえて痛みに堪えながら、プレスライフルで反撃に出る。

 それを左手を払うだけで放たれた弾丸を弾き飛ばすと、再び左腕を構え、赤い魔女はアルへと迫る。

 流石に痛みで思考が乱れている今、高速モードを使って逃げるというのは操作ミスの事を考えれば避けるべきだ。

 思考を乱されながらも防御モードに切り替え、その攻撃を防御術式で受け止める。

 術式が展開した防壁に爪を突き立て、手の平に空いた穴から連続してパイルを突き出し、防壁を破壊しアルトエミスを穿たんと迫る。

「はっ、はっ……」

 息が荒くなる。痛みがまやかしだと言うのも頭では分かっているし、少し時間がたてば痛みは引いていく。

 だが目を見開き前を見れば、今度は防御術式を突き破らんと攻撃を繰り返す魔女の姿。

 杭が放たれる度に、操縦席が大きく揺れる。

 術式もだんだんと効力を失っていき、防壁が砕け始める。

 このままではやられる。

 高速モードに切り替えての離脱、というのも考える。だがそれではタイミングを誤れば串刺しにされる。

「あ、アディンさんなら……!」

 できる。やってみせる。だが、自分はアディン・アハットではない。

 タイミングをあわせての回避など、そんなシビアな操作をやる自信はない。

 やがて、防御術式も限界を迎える。

 アマティスタの光線のように命中する範囲が広いものならば耐えきれただろうが、この敵は爪で固定して全く同じ場所を集中攻撃し来ている。

 どんなものでも一点集中攻撃を受ければいつかは破壊される。今、まさにそれが起きようとしていた。

「ひっ……」

 思考が恐怖に染まる。

 目の前で罅割れ、砕けて行く防壁。

 ついに、敵のパイルが防壁を突破し、防壁が砕け散った。

 にやり、と魔女の口元が釣り上がるのが見える。

 今度は逃がさないと言わんばかりに素早く左手を伸ばす魔女。

 やられる。そうアルが諦めかけた時、魔女の身体が真横に吹っ飛んだ。

「アル、今のうちに下がって!」

「あっ、は、はい!」

 トリアのヘスティオンが何かを手に取り、それを赤い魔女めがけて投げつける。

 魔女はそれをパイルを突き出して迎撃する。が、直後にそれは大爆発を起こす。

「まさか、あれは……」

「スクロール弾。を詰めたマガジン。勿体無いけど、爆発の威力は折り紙つ……え?」

 爆発が消失した。

 マガジンを貫いた左腕のパイルの具合を確認するような動作をした後、それを右手で磨ぎ直す魔女。

 何が起きたのか理解できなかった。

 本来ならば突き出した左腕くらいは巻き込むほどの爆発を起こすはずだったのに、実際にはパイルの先端部分を少し熔かしたくらいで、武器としての機能を奪うほどの損傷すら与えられていない。

 ふと見ると魔女の周囲に浮いているプレート状の水晶体が浮いている。

 そのプレート状の水晶体は魔女の周囲を回りながら、その背中へと収まる。

「ブリッジ! 相手の判別できてますか!?」

『センサーでは観測できない。特徴を!』

「赤くてほぼ人間みたいな体型。左腕にパイル、背中になんかプレート状の水晶体がいくつか」

『何!? それはカルブンクスルだ!』

 トリアの報告を受け、ガドルが叫ぶ。

『そうか。ならさっきの閃光は……! 頭上に気を付けろ。サピュルスが狙っているはずだ!』

「え、まさか魔女が二体もいるんですか!?」

『そういう魔女なんだよ。パイルによる近接戦と魔法をかき消す水晶プレートのカルブンクスル。遠距離戦特化のサピュルス。この二体は常に同時に現れる! それに、互いの役割を理解して連携まで取る』

「要約すると、超ヤバい状況ってこと、か。アル、ごめん。私はブリッジに行く。それまで持ちこたえて」

「えっ!? 一人でですか!?」

「先輩置いていくし」

「戦力にならないですって!」

『オイ、その通りだがその良いようは流石のあたしも傷付くぞ』

 だが事実である。

 むしろ魔女が相手では、ふらふらとした動きでアル達の邪魔になりかねない。

 口では文句を言いつつも、すでに機体はバトルコスモスに収容済みである。

「ともかく、ヨロシク。アディン達もこっちに来てるし大丈夫」

「え、あ。もう!」

 トリア機が奥に引っ込んだのを視界の端にとらえつつ、魔女カルブンクスルの猛攻を避ける。

 普段は通常モードのままで動き、避ける一瞬だけ高速モードに切り替える。こうすることで身体にかかる負荷を減らそうとしているのだが、急加速と急停止を繰り返す都合上結局身体には負荷がかかっている。

 それでもずっと加速したままの状態夜はマシである。

 右へ左へ、と絶え間なく攻撃を避け続ける。だがそれが精いっぱいで反撃の隙がない。

 パイルのある左腕は勿論警戒すべきだが、ただの腕である右腕の一撃も相手が魔女である以上致命傷になりかねない。

 魔法での反撃。それも考えはしたが、術式を構築する為に思考を割けるほどの余裕がない。

「このっ!」

 ワイヤーを射出する。

 射出されたワイヤーはカルブンクスルの腕に絡まり、その動きを制限する。

 即座にユニットを切り離し、その隙に距離を稼ぐ。

「対空砲、お願いします!」

 アルの号令と共に、魔女を狙える位置にある対空砲が一斉に弾丸を放つ。

 今度は魔女にも有効打を与えら得るようにスクロール弾を使用した弾幕だ。

 が、それをカルブンクスルは真正面から迎え撃つ。

 背中の水晶プレートが本体から離れると、それらが広範囲に展開。高速回転しはじめる。

 やがてスクロール弾の弾幕が着弾。だがそれが大規模な爆発を起こすことはなく、小規模な炎を上げてはすぐに消失した。

 先ほどと同じ現象だ。

 恐らく、いや確実に水晶プレートが魔法の効果を妨害している。

 確証を得るために、アルは即座に使える≪ファイヤボール≫をカルブンクスルめがけて放つ。

 だが、やはり命中する前に消滅する。

「魔法を無効化する能力……! 厄介この上ない」

『――――――!!』

 身体に絡んだワイヤーを引きちぎりながら、鼓膜を震わす不快な音。

 魔女の叫び。それと共に左腕を突き出し、攻撃を仕掛けてくる。

 条件反射的に後退させるが、その瞬間に目の前の魔女が嘲笑った。

「!?」

 悪寒が走る。それとほぼ同時。

 アルトエミスの右半身が消失した。

「あああああああああああッ!!」

 狙われていたのだ。もう一体の魔女に。

 かろうじて操縦席は外れ、即死は免れた。

 半身を失うという激痛。

 ただの少女がこの痛みに耐えられる訳もない。

『アル、聞こえるかアル! 艦のことはいい。下がれ!』

「あ、ああ……」

 震える身体を抱き、まだ半身があると確かめる。

 それでもまだ、痛みが残る。

 痛みと恐怖で動きを止めてしまう。

 なんとか抵抗しようとした時、一瞬光が見えた。それと同時に今度は左脚を失う。

 続けて左腕が失われる。

「い、あ、あああああああ!!」

 呼吸は荒く、思考も纏まらない。

 そんな状態であることを見透かしたのか、四肢を失った姿が滑稽に映ったのか、赤い魔女は笑う。

 笑いながら、左手をアルトエミスの胸に押し当てて、笑う。

 愉しそうに。いな、これからやる事を愉しんでいる。それがどういうことかを理解している。

 そうでなければ、わざわざ操縦席の真上を掴んだりはしないだろう。

「やられる……!」

 死を覚悟した。

 だが、その瞬間は訪れない。

 操縦席を揺さぶる衝撃に目を閉じ、しばらくして自分が死んでいない事を確かめたアルはゆっくりと目を開けた。

 そこには、自分を守るように背を向ける二機の機体の姿があった。




 間一髪。まさにその言葉が正しい状況だろう。

 ヘカティアのスカートアーマーを投げつけて引きはがしたが、おかげで貴重なパーツを失うことになった。だが仲間の命とは比べるまでもない。こんな使い方ならば誰も文句を言わないだろう。

 四肢を破壊され、見るも無残な姿となったアルのアルトエミスに背を向け、アストライアとヴィールのアルトエミスが赤い魔女と対峙する。

「ヴィール、アルを連れてってくれ。その状態じゃ自力で戻れない」

「了解だ。すぐ戻るからな!」

 大破したアル機を抱え、ヴィール機がバトルコスモスへと向かう。

 その真横を閃光が通り過ぎる。

 何度も何度も。閃光はヴィール機を襲う。

 だがなんとか全てを回避し、バトルコスモスへとヴィール機は着艦する。

「頭上からの狙撃に、目の前には魔法を無効化する近接特化の敵。面倒な」

 衝撃を受けてからの復帰にやや時間はあったが、カルブンクスルは標的をアル機からアストライアへと変更したようで、アディンのほうを向いて叫ぶ。

 そして、突撃。

 左腕を伸ばし、まずはパイルの一撃を。

 それを敵機から奪ったキャストブレードで払う。あわよくばそのまま相手のパイルを切断出来れば、とも思ったがそう上手くはいかない。

 カルブンクスルは射出したままのパイルを内側へと押し込み、キャストブレードをへし折ろうとしてきたのだ。

 外に払おうとするアストライアと、内に押し込もうとするカルブンクスルの動きは静止していた。

 力が完全に拮抗している。ならば問題となるのは得物の強度。その点、敵から奪った武器は信用できないものだった。

 右手に力を入れるが、握った柄から伝わる振動がもう得物が限界なのだと告げていた。

「チッ」

 やがてキャストブレードが砕ける。その寸前に柄から手を離し、後退。

 アストライアが後退すると同時に、パイルが勢いよく振り抜かれる。

 もし後退していなければ胸装甲をごっそり持っていかれるか、頭の破損まであり得た軌道であった。

 直後。閃光が肩を掠める。

 擦り傷程度の損傷だが、同時に傷口を焼かれたような痛みがある。

「っぁ! 熱があるのか、アレには!」

 直撃しなかっただけ有難い。

 だが、これで相手の行動パターンがすこしばかり読めて来た。

 魔女共通の弱点である魔法を無効化できるカルブンクスルが前衛を務め、接近戦を展開。その攻撃を嫌って距離を取れば遠距離に待機したもう一体の魔女サピュルスによる狙撃で撃墜される。

 これによって対峙した者は否応なくカルブンクスルとの近接戦を強要され、逃げることも許されないという極限状態を強いられる事になる。

 厄介なことだ。

「だが、動きまわれば死にはしない!」

 高速モードに切り替え、カルブンクスルの背後に回る。

 そしてまずは一撃。ぐっと右の拳を握りしめ、全力で頭部を殴りつける。

 一撃。されど一撃。

 アストライアの出せる限りの全力の一撃である。殴られ、弾けるように吹っ飛ばされたカルブンクスルはすぐさま姿勢を立て直す。

 何が起きたのか理解できていないのか、周囲を見渡すような動作をする。

 再び加速しようとした瞬間、アディンは背筋が凍るような感覚を覚え、咄嗟に防御モードへと切り替えた。

 瞬間、防御術式が展開され、そこへ閃光が直撃する。

「ぐっ……! 足を止めたらこれかよ!」

 単発ではない。照射だ。

 現状回せる出力をすべて防御術式に回し、攻撃に耐える。

 展開された防壁の耐久値がみるみる削られ、警告音が鳴り響く。

 だがここで解除してどうなる。高速モードに切り替えて避けようとしても、頭上まで迫った光を避けられる訳ではない。

 が、ふと光が収まる。

 攻撃が終わったのだ。ただし――サピュルスの攻撃は、である。

『――――――!!』

「っ!?」

 眼前に迫る赤い魔女。その左手が迫る。

 だが、あえて前に出てカルブンクスルの左手首を掴んで抑え込み、パイルに当たらない位置で固定させる。

 即座に右手による攻撃に移る。その前に、左手にもったキャストブレードを逆手に持ち直し、それを一気に振りあげる。

 だが、振りきれない。

 キャストブレードの切っ先は確かに相手の右腕を突き刺した。だがそのまま強引に押し込んでくる。

「ぐっ……こいつ、怯みすらしない!」

 左手のパイルは勿論だが、右手の鋭利な爪も無視できるものではない。

 なんとか振り下ろされる事だけは避けているが、指先が届くような至近距離でぐっと握られるだけで装甲を持っていかれるだろう。

 相手の攻撃手段を奪った状態、とは思えない。むしろこちらが両手を塞がれてしまっている。

「ならば、このまま手首をへし折ってやる!」

 右手に供給するマナの量を増やし、握力を強化していく。

 すると、こちらの意図を理解したのか、カルブンクスルは両脚を曲げながら胸のあたりまで上げ、全身の力を使ってアストライアの胸を蹴り飛ばした。

「がっ!? どんな関節構造してんだ!」

 蹴り飛ばされた瞬間に両手を離してしまい、武器を失う。

 自分の右腕に刺さったキャストブレードを引き抜き、それを捨ててアストライアへと迫る。

 パイルによる攻撃ではなく、全身を使った格闘攻撃。

 両手で薙ぎ、蹴りあげ、脚を振り下ろし、両手を組んで振り下ろす。

 ギリギリのタイミングでそれらを回避するが、何度も掠め装甲が削れていく。

 安全な距離まで下がる訳にもいかず、下がったところで魔法を使っての攻撃は無効化され、カルブンクスルから離れれば狙撃される。

「トリア、ヴィール。早くしてくれ……!」

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