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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
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追跡者、来る

 第二戦闘配置。

 ざっくりと噛み砕いた表現をすると、戦闘になる可能性が高いから備えろ、だ。

 語弊がある表現であるが、学生ばかり――というか正規の軍人である人間がガドル以外存在しないこのバトルコスモスではそのくらい噛み砕いた表現をしておいた方が命令の伝達がしやすい。

 現在の状態――あくまでも戦闘になる可能性が高い、という状況ではあるが、真っ先に敵の存在に気付いたブリッジは緊張状態にあった。

「嫌な勘はあたりやすいか。有難くもないッ! 速度は上げられるか?」

「無理ニャ。魔導砲を撃った影響で出力が安定してないニャ!」

「こっちも調整しようといろいろやってるが、駄目だ。あれ不良品じゃないのか?」

 アルツは乱高下するマナの供給量を調整しつつ、悪態を付く。これが安定しないとエーテルリバウンダーに回せる出力も確保できず、速度も出すことができない。

 こういう不具合も実際動かしてみないと判らなかっただろう。実際に戦闘になる前に見つけられて良かった、とガドルやアルツは前向きに考える。

「敵機なおも接近。このままだと追いつかれます」

「解ってる。そっちは判別可能範囲に入ったらでいい。この艦の有効半径なら敵がこちらを射程に捉える前に判断くらいできるだろう」

「いえ、その。既に判別可能距離に入っているんです。でも、何か変で」

「何故もっと早く言わない! いや、叱責はあとだ。変、とはなんだ」

「エーテルの反応が妙なんです。データベースにある機体のいずれとも合致しません」

「何?!」

「おい、それって……!」

 彼等の脳裏に浮かぶのは、先日第十二班と接触した所属不明機。

 それ以外の可能性も当然あるだろう。例えば登録にない他国の新型機だったり、民間に払い下げられて改造された機体であるだとか。

 だが、それらが編隊を組んで真っ直ぐ突っ込んでくるなんてこと、あり得ない。

「クソッ、鼻のいい連中だな!」

「無理もないですよ。これだけの質量を動かすエーテルリバウンダーですよ? エーテルが乱れない訳がないじゃないですか」

 つまり、相手はバトルコスモスが移動する為に乱しまくったエーテルの流れをセンサーで捕まえて追いかけてきている、と言うことだ。

 これではどうやっても逃げ切れない。何より今速度を出そうにもエーテルリバウンダーへの供給を増やせるほど安定した状態ではない。

「これでは隠密行動など不可能だな」

「この大きさの戦艦で隠密行動とか、そもそも無理だと思うけどニャー」

「このままでは追いつかれます。どうします、艦長」

「こっちの戦力で動かせるのは最大で五機、か」

 それは第十二班の機体に加えガドルのラキシスも含めた数である。

 だがそれをやるとブリッジには戦闘経験がなく戦闘時における判断を下せる人間がいなくなる。それは最悪の結果を招きかねない。

 故にガドルが出るのは最終手段である。

『へーい、話は聞かせてもらった。そんなこんなでお困りなブリッジクルー諸君に朗報であるな!!』

 やったらハイテンションな声で格納庫からの通信が入る。

 言うまでもなく、シュデムである。

『実は思うところがあってシルキーの特別仕様を作っていたのだが、その試作機を二つほどヘスティオンに搭載したのである。あ、ごめん。完全に事後承諾だったわ』

「……今は良い。それで、なんでそれが朗報になるんだ。シュデム・セイツェマン」

 また事後報告か、とガドルは痛み出した胃のあたりをさする。

『シルキーはマナを受信して動くまっすぃーんである。つまりそれそのものがマナを宿した物体と言う事になるのである。まあ、この辺りの説明は詳しく説明するとややこしくなるので割愛させていただくが。で、そのシルキー経由で機体を動かせないか、と思ったのでやっちゃいましたてへぺろー』

「おい、シュデム。それって……」

『あ、うむ。無人機、というやつであるな。まあ試作機と言ったようにまともな動きができる保障は全くないのであるが、囮くらいは出来るのではなかろうか』

「確認する。二機、出せるのだな?」

『今一機の接続が終わったのである。換装作業時間は十分程度、と。……ふむ。二機目は五分で終わらせて見せるである』

『ちょ、シュデム先輩。そりゃ無茶ですよ!』

『無理かどうかはやってみてから言うである! なんなら凡人眼鏡んところから人連れてきてでもやるのである!』

『狭いんすから、俺らでやるしかないでしょぉ!?』

 作業担当者の悲痛な叫びが聞こえた。

 だが、良い知らせではある。

 たった二機だけである。だがされど二機だ戦力が増えた。

『ともかく、簡単なテストとプレスガンが使えるかどうかだけ確かめたら出すんで、ヨロシク!』

「おい、シュデム。操作は誰がやるんだ! シルキー経由なら誰かが操作するんだろ?」

『決まってるであろう。吾輩と凡人眼鏡であるな』

「……よし、解った。敵を引き付けてから各機発進させる。それと、あまり艦載機との距離を離すな」

「? どうしてニャ?」

「嫌な勘は当たるものだ。人間にも気付かれたんだぞ。奴等に気付かれていない訳がないだろう」

 その言葉に一瞬、ブリッジの空気が凍った。




 格納庫では試作型シルキーの搭載を終えたヘスティオンがクレーンで吊るされた状態で、動作テストをしていた。

「しっかし、何時の間にこんなの作ってたんだお前」

「やることがある。そういって引きこもってたのは伊達ではないのであるな。ちゃんとヘクスイェーガーの眼とこのバイザーを連動させてある。これで状況を見てシルキーを操作するのである」

「わかったわかった。だが、どうしたこんなものを?」

「決まっているであろう。この艦、でかすぎるのである。それをカバーするには無人機でもない限り守りきれない。ならば、こうやって遠隔操作できる機体を用意するのも策の一つである。まあ、アルツ・エナムに協力を仰げなかった故、術式は荒い。ダメージフィードバックがない分無茶はできるであるが、戦場の恐怖は本物。いけるか?」

 覚悟を問う。

 直接戦うわけではない。だが、目で見る風景は本物だ。

 今まで戦いを見て来ただけの人間が、実際に戦えるのか。

 シュデムはそう問いかけて来た。

「やるしか、ねえだろ。運用試験が実戦でぶっつけ本番とか、あたし達の作るモノは呪われてるのかね」

「そういえばブラックボックスの時もそうであったな……」

 シュデムの操作を受け、プレスガンを持った腕が動いて目の前に吊るされた的へペイント弾を発射した。

 これで攻撃もできる。囮としては十分な出来だろう。

「第十二班、各機後部ハッチ前に待機。シルキー搭載のヘスティオンはどうします」

「中央部左右ハッチから一機ずつ出すのである。タイミングはブリッジの指示待ちで」

「プレスガンの弾、交換急げよ」

 バイザーを受け取り、それを装着する。

 リンクした視界でみる景色は新鮮、というか気持ちが悪い。

 視点が違いすぎる。

「これが、あいつらの視点なのか?」

「奴等の場合、疑似神経接続によて自分の体という認識があるだけマシである。これみたく、視点と肉体の乖離は間違いなく不具合を生じさせるのである」

「まあ、今だけ持てばいい。そういうこったな」




 格納庫の中を移動し、後部デッキで待機する四機の操縦席で、アディン達は出撃を待っていた。

 アディンとヴィールはいつも通り。アルは追加分のセンサーの機能にリミッターをかけた四号機仕様と同じ程度の機体になっている。

 トリアは、というとヘカティアの装甲の取りつけが間に合わない為今回はヘスティオンで艦の直掩にあたる。

 狙撃での援護なら問題ないだろう、ということだ。

「なんでヘカティアのスカートアーマーなんて持ってきたんだ?」

「この裏に予備マガジン仕込んでおけば交換楽だから。それに簡単なシールドにもなるし。捨てやすいし」

 それを聞いた整備担当の顔が青くなる。

 ヘカティアのスカートアーマーを一つ作る金額を知っている彼等ならではの反応だろう。

 だが台所事情を気にして命を落としては意味がない。実際の戦闘になったら容赦なく捨てるだろう。きっと実戦経験のある人間なら誰だってそうする。

「形状は違うけど、全部で三つあるからアルとヴィールも使う?」

「そうするか」

「弾切れは怖いですからね」

 こうしてスカートアーマーはフロント部の二枚以外、戦闘中に破棄される事がほぼ確定した。

 整備担当者が機体の脚元で慟哭し、格納庫にいるシュデムに泣きながら連絡している。

「なんか足元が騒がしいな」

「数億が、数億が、って叫んでる気がする」

 実際にサイドアーマー二枚とリアアーマー一枚の材料費を合わせると二桁億ほどかかっている。

 それをぽいぽい気軽に捨てられたらたまったものではない。

「さて。出撃前に各自装備確認してください」

 キャストブレードを装備し、各々が特異な距離のプレスガンを手に取る。

 アディンとアルはプレスライフル。トリアはプレスナイパーライフル。ヴィールはプレスマシンガン。

 装備一つで個性がはっきりと分かれている。

「トリア。久々のヘスティオンでの実戦になるけど、大丈夫か」

「そんなに心配ならアストライアに乗せてくれるの?」

「一人乗りなんだ。無茶を言うなよ。まあ、それだけ言えれば大丈夫そうだな」

「近づかれなきゃね」

「了解だ。アル、どう戦う?」

「アディンさんとヴィールさんは突っ込んで片っ端から落としてください。私も出来るだけ前にでて援護しますが、私は艦の近くでトリアさんの援護とスポッターをします。一応、マニュアル操作でセンサー類のオンオフができるみたいなので」

「了解だ。でも相手は九機だろ。こっち、前に居るのが二機だけじゃキツくないか?」

『ガドルだ。第十二班各員、いいか』

「はい。こちら班長アル・イスナインです。どうぞ」

『相手のほうが数が多い。敵機を必ずしも撃墜する必要性はない。戦闘を続行できないほどのダメージを与えてやればよっぽどな相手でない限りは撤退するだろう。対象の排除または撤退を確認後、すぐ艦の直掩に入ってくれ』

「直掩、ですか? 戦闘終了ではなく?」

 妙な事をいうものだ、と頭の上にクエスチョンマークが浮かぶアルだったが、トリアは気付いたようだ。

「アッチにも気付かれてる?」

『そうだ。トリア・サラーサ。何せこの艦、動くだけでとんでもない距離と範囲のエーテルを乱すらしくてな。それをたどって攻め入られる可能性が高い』

「マジか……魔女まで来るのかよ」

『現時点では可能性の話だ。ヴィール。お前はそこの荒れ馬の手綱をしっかり握っててくれ。このままだと胃が持たない。最近胃薬が増えてな……』

「ぜ、善処シマス……」

 アディンを暴れさせるな、と言う事なのだろうが、アディンとすれば本気で暴走し始めたアディンを止められる気はしないし、最初からやる気がない。

 アディン・アハットという少年は、首輪を付けたままリードを引きちぎって走り出すくらいのほうが、面白い結果をもたらす人間なのだから。

『敵機、視認可能距離に到達。形状、記憶にありません! ですが飛燕小隊と交戦したと思われる機体と同型の機体のような……? あれっ!?』

『どうした。状況の報告はしっかりしろ』

『ふ、増えました。反応増えました! 以前交戦した人型が八。形状違いが一。それぞれの背中についてたエイみたいなのもヘクスイェーガーで、こいつらが九!』

「おいおいおい」

「マジで……?」

 ヴィールとトリアが引きつる。

 覚悟していた数の二倍。対するこちらは前線で戦うのが二機のみ。

 圧倒的な戦力差。これをどうする。どう覆す。

『状況が変わった。だが、やってもらわねばならん。すまんが、出てくれ』

「了解しました。援護、お願いしますね。第十二班、総員出撃!」

 深く考える余裕などなく、四機の機体は空へと飛び出して行った。

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