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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
61/315

対人戦

最近の悩みは、もっと見てもらいたいから検索タグを追加したいと思っても、追加したらしたで今後の展開のネタバレになりかねないので追加できないということです。

 後部ハッチから飛び出た四機の機体は、それぞれが予定通りの配置につく。

 トリアはすぐにバトルコスモスの背後に待機し、それよりもやや前の位置にアルが待機。アディンとヴィールはそのまま敵の方へと向かう。

 アディン達の遥か後方。バトルコスモス中央の左右から二機のヘスティオンが出撃する。

 その動きはよたよたと非常に頼りない。言ってしまえばド素人の動きだ。

 実際、その二機を動かしているのはド素人だが。

「先輩達、そんなのでいけるんですか?」

『心配ないのである。ちゃんと盾くらいにはなるであるな』

『お前、さっき後輩が泣きついて来たの忘れたのか……?』

『知らん。戦う、傷つく、壊れる。これは当たり前のことである。んな事でいちいちギャーギャー言ってたらこれから先やってけないのである。まあ遊び半分でぶっ壊すと流石にアレであるが』

『そりゃそうだ。アディン、ヴィール。すまないがこっちは見ての通りまともにやり合う事は無理だ。前はお前等二人だけに任せる事になる』

「了解。遅れるなよ、ヴィール」

「ぬかせ!」

 アストライアとアルトエミスが並んで飛行する。

 つい先日アストライアでアルトエミスと戦ったアディンとしては複雑なものがある。だが、今はそれを考えていられるほどの余裕はない。

 相手はほぼ間違いなく、飛燕小隊と出会った時に交戦した敵と同じ組織のものだ。ならば、少しの油断が即座に死へ繋がる。

 一度意識してしまえば、死のイメージというものは否応なく付きまとい、足を引っ張る。

「アディン。正直に話してくれ。ヤバいのか?」

「ヤバいな。激ヤバだ。だが接近してしまえばどうということはないはずだ」

「と、いうと?」

「奴等の装備だよ。突撃槍は距離がないと威力が出せない。シールドバッシュも突き出す距離がなけりゃ威力は低い」

「なるほどな。でもそれ、こっちも攻撃できないよな」

「そこを何とかするしかないだろ」

「マジかー」

 アディン達が遭遇した機体が、そのままの装備で出てくるのならばアディンが言ったような戦い方で相手の攻撃力を大幅に殺ぐ事ができる。

 問題は、相手が魔法を使ってきた時。それと至近距離での対抗手段を持っていた場合だ。

 それに注意すべき点がある。

 未確認の一機。それと分離したというエイのような形状と言われた機体。交戦した事がない相手というのはどうしても不安になる。

 ある意味では魔女より恐ろしいと感じる。

 奴等は不倶戴天の敵。倒さなければこちらが殺られる。非常に解り易い。それに行動も単純である。

 だが、相手が人間の時はどうだ。

 相手は思考し、的確に攻撃を仕掛けてくる。そもそも交戦する意図すら不明。対話はできるが、それが成立するかも不明。

(明確な脅威があるのに、人同士で殺し合うのかよ……)

 訳も分からずに殺されてやるつもりはない。だが、だからといってアディン達は相手を倒すことができるのだろうか。

 思考を巡らせる。

 ――警告。戦意の喪失は自身の死に直結する。

 思考の一つが、そう答えた。複数の思考がそれを肯定した。

「その通りだ。解ってる。だが……」

 理屈の問題ではない。感情の問題だ。

 考えている暇はない。

 こうしている間にも、敵との距離は相対的に近づいていくのだから。



 ギル・ブランキアが率いる部隊からも、巨大な戦艦の姿ははっきりと捉える事が出来ていた。

 尤もその戦艦が大き過ぎるというのもある。

「隊長、このままベイル隊は突撃しますか?」

「いや待て。アターカ各機は俺についてこい。このまま突っ込む。ベイル各機はこっちの足が潰れたら即座に回収してくれ」

「了解しました。ご武運を」

 ギルのヴァンクールに続き、八機のアターカが加速する。

「たった二機? 舐められたものだ!」

「隊長、あの機体は……!」

「アストライア、か。骨董品が何を」

「それにあれはデータにあったアルトエミスとかいう新型です!」

「骨董品と新型が同時配備されている。一体どんな部隊なんだ……いや、戦ってみれば解る。行くぞ!」

 ヴァンクールを加速させた瞬間、隣に居たアターカの左肩の装甲が吹っ飛んだ。

 一瞬何が起きたのか、と意識がそれるが、即座にギルは思考を切り替えて対応する。

「各機、シールドを使え! 出来るだけ機体を盾の外に出すな。今度は肩装甲だけじゃ済まんぞ」

 アターカの肩装甲を吹き飛ばしたのが敵の狙撃である、と理解するのには僅かではあるが時間を必要とした。

 何せこちらからは見えていない位置からの攻撃だ。考えられる可能性はいくらでもある。

 だが、状況を考えるとそれ以外にない。

 以前の戦闘でアストライアの魔法を受けた機体はシールドごと腕を吹き飛ばされていた。もし魔法による攻撃であるならば肩装甲程度では済まなかったはずだ。

 この状況に、以前の部隊からの報告にあった情報を合わせれば、自然とそういう結論に至る。

「ヘクスイェーガーで狙撃、か。なかなかに酔狂な奴がいる。ますます気になるなあ、あの部隊!」

「楽しそうに言ってる場合ですか。あの狙撃手、腕は確かですよ!」

「お前はオウカの輸送機に仕掛けた時にいたのか。それで?」

「僚機の頭が吹っ飛びました」

「頭はヘクスイェーガー共通の弱点だぞ。そう簡単に飛ぶものではないはずだが」

 まぐれ当たり、ということはあるかもしれない。だがしかし。こちらからは視認できない距離から、面積の小さい頭部を狙って撃ち抜いたとするならばそれは脅威だ。

 狙撃手の腕だけではない。その距離を減衰しない攻撃手段があるという事もだ。

 さてどうする、と思考を巡らせる間にも距離は縮まり、シールドが弾丸を弾く金属音と衝撃が絶え間なく操縦席に伝わってくる。

 こちらからは碌に姿が見えないような距離。それをこうも的確に命中させてくる相手。

 そして今眼前にいるのは一撃でシールドごとアターカの腕を破壊するような火力をもった機体。

 数では勝る。だが圧倒的な火力というのは士気を下げるには十分だ。

「接触するぞ。俺はアストライアのほうを抑える。二機ついてこい。あとはアルトエミスの相手だ。絶えず動きまわれよ。止まると撃たれるぞ!」

 キャストブレードを構え、ギルは迫るアストライアを睨みつける。

 シールドを前に突き出して半身を隠しつつ、一気に加速させる。それに応えるかのようにアストライアも剣を抜き、一直線にヴァンクールめがけて突っ込んでくる。

「いいね! 実にいい! そういうノリの良さ、好きだぜえッ!」

 身体を捻りながら、相手から見えないような位置からキャストブレードを振りあげる。

 その刃とアストライアが振り下ろした刃がぶつかる。

「ッ!?」

 アストライアの動きに、ギルは目を見開いて驚愕した。

「てめぇ……! 最初からッ!」

 本体を狙ったのではなく、最初から振りあげたキャストブレードを叩き落とす為に剣を振り下ろしてきていた。

 しかも刃同士に衝突でギルの右手に激しい痛みが走る。まるで指を折られたような、強烈な痛みだ。

「押し負けた……!? このヴァンクールが! 諜報部め。調べるなら膂力の差も調べておけ!」

 直接ぶつけあったキャストブレード同士に破損はない。

 だが、それを握る指が衝突の衝撃と強引押し込まれた影響でフレームごと破損していた。人間で言うなら、骨折である。

 単純に強度の問題、というものではない。膂力が拮抗していれば少なくとも押し負ける事はなかっただろう。

「だが、まだだ!」

 折れたのは小指の関節。人間なら握力が半減するような損傷であるが機械であるヘクスイェーガーにおいては全く関係ない。むしろ小指が折れて力が逃げた事によって手首まで破損してしまうという最悪の事態が回避できた。

 だから、まだ戦える。手首が折れ、武器を振えなくなるまでは、戦える。

「覚悟しろ、アストライア。貴様の首。狩り獲り、我らの武勲とさせてもらう」

『ふざけんな……! 今の時代、人同士で争ってる場合じゃないだろうに!』

「なっ、若い声? まさか子供か!?」

 アストライアの搭乗者と繋がった。それほどまでに接近している。

 そこまで接近される事など滅多になかったギルは、不適な笑みを浮かべていた。

『子供で悪いか!』



「子供で悪いか!」

 アディンは叫びながら、キャストブレードを振りあげる。

 敵機とも会話できるほどの至近距離で、その大振りは決して小さくない隙を作る。

 当然、相手がその隙を見逃すはずがない。

『戦場はな、子供の出てくるような場所じゃないんだよ!』

「ここを戦場にしたのはアンタだろ!」

『獲物が目の前に居れば狩る。それが狩人の、イェーガーライダーの誇りだからな!』

「そんな理屈!」

 がら空きになった右脇腹めがけてシールドの先端が突き放たれる。

 だがそれは誘いである。

 切っ先が装甲を穿つよりも前に、肘と膝でシールドを挟み込み相手の動きを封じる。その上で左手に握ったプレスライフルを敵機の頭部に向ける。

 が、それが放たれるよりも先にシールドを放棄し、相手は信じられない角度で急加速して一気に距離を取る。

 追撃するようにプラスライフルを連射するが、悉く避けられてしまう。

「アディン、上下から来てる!」

「っ!」

 ヴィールの叫びではっとする。目の前の機体――おそらくエース機に気を取られ過ぎた。接近する二機の突撃槍装備機に気付くのが遅れた。

 肘と膝で挟み込んだシールドを離す。と、それを上から迫る敵機めがけて蹴りあげ、そのまま縦方向の回転をしつつ下から迫る敵機にプレスライフルの弾丸を連続して浴びせる。

 敵としても予想外の行動だったのか、シールドは敵機の胴体を直撃する。流石にそれで撃墜とまではいかなかったが、操縦席を揺らす強烈な振動で操縦者が気絶したのか、上から迫る機体は四肢をだらりとさせて動きを止めた。

 その際、やや違和感のある静止の仕方だったが、今は戦闘中でありそこにまで気を回す余裕などない。

 一方、下から迫った機体はプレスライフルの弾丸をシールドで受けるも、一発目の威力を殺し切れずシールドごと腕が弾かれ、続く二発目の弾丸で突撃槍。三発目で右肘の関節を穿たれ、四発目は右肩を破壊される。

 姿勢を整えてすぐ、五発目と六発目を発射。盾をさらに弾き、隙だらけになった左肘の関節を破壊する。

 たった一瞬で一機が行動不能。もう一機が両腕を失い戦闘不能に持ちこまれる。相手にとっては悪夢のような瞬間だっただろう。

 だが、そのような悪夢を見せられてもなお、エース機は近づいてくる。

「まだ来るッ!」

『その若さでその腕。驚愕に値する! だが、それ故にっ! 貴様が我々の敵でしかない故に、その芽はここで間引く』

「また勝手な理由を! 俺たちは、あんた達と戦うつもりなんてないってのに!」

『こちらにはある! 我々には、貴様等全てが敵だ!!』

「こいつ……! 勝手な理屈を!」

 ここまでのやり取りでわかった事がある。

 今アディンが対峙しているこの敵は、言葉の通じる人間である。だがその思考は、アディンには理解できないものだ。

 それに言葉は理解できても、その意味が理解できない。

 言葉の端々にある怒りや憎しみ。だがそれはどうも薄っぺらい。

 確かに怒りや憎しみはある。存在しているのに、感じるのに、それに空虚さすらも感じる。

『それにな。その機体に乗っている以上俺らにとっての貴様は――貴様等にとっての魔女と同じなんだよ!』

「っ!? それはどういう……」

『死ね、アストライア!!』

 右手のキャストブレードを突き出し、加速して迫る。

 切っ先が燃えだす。

「やられるかよ!」

 後退しつつ、プレスライフルのマガジンをスクロール弾のものと入れ替える。

 交換したマガジンにはまだ弾が残っていたが、それを敵に投げつける。

 が、それが敵機に命中することはなく切っ先から放たれた炎の渦によって焼きつくされ、炎はなおもアディンへ迫る。

「目晦ましにもならないか!」

 その炎めがけてスクロール弾を放つ。

 放たれたスクロール弾はすぐさま魔法を発動させ、放たれた炎を撒きこみながら更に巨大な炎となって敵機へと向かう。

 流石にその異様な炎は危険だと判断したのか、突っ込んできていた敵機が踵を返す。

 炎が爆ぜ、周囲一帯を燃やし尽くすが、その炎は何も焼くことはなく、消えて行った。

「ヴィール。そっちはどうだ」

「六機同時はきついが、トリア嬢が上手くやってくれてる。プレスマシンガンで助かったよ、本当!」

 無数の弾丸を放ち、弾幕を展開する事で数では圧倒的に不利な状態でありながらも敵の接近を許さず、トリアの援護もありヴィールのアルトエミスは傷一つない状態であった。

 とはいえ、プレスマシンガンはその連射性能故にあっという間に弾切れを起こす。この状態もそう長くは続けていられないだろう。

『どこを見ている!』

「うわっ!?」

「アディン!?」

 浮いたまま機能を停止している友軍機から奪ったシールドを使ったシールドバッシュ。

 その直撃を受け、アストライアが吹っ飛ばされた。

 それでいてフレームにはダメージがないのだから、下手をすれば撃墜されていたかもしれないと考えると、性能に助けられたと言わざるを得ない。

()ちろよ!』

 体勢を立て直す暇がない。

 このままではやられる。そう思った瞬間、敵機が横からの衝撃を受けてバランスを崩す。

『ジャストミィィィィィィト!!』

『うるせええ変態!! アディン、ヴィール。援護する。囮にでもなんでも使ってくれ』

「エリマ先輩にシュデム先輩? 助かりました」

 肩に乗ったモフモフから聞こえた二人の声。

 頼もしいが、戦力としては頼りない援軍である。

『おうさ。とりあえずヴィール。マガジン持って来たぞ』

「助かります!」

 二機のヘスティオンからマガジンを受け取り、それをシールドとして使用しているヘカティアのスカートアーマーの裏に取りつける。

 マガジンの追加携帯が出来る事が便利であるということが本来想定していない形で証明されている事を目の当たりにした、開発者であるシュデムは複雑な心境であった。

 とはいえ、メインの機能が有用であると証明された以上、あとは実際に動くようにするだけである。そうシュデムは思考を前向きにする。尤もシュデムが後ろ向きな思考をすることそのものが珍しいが。

『うおっ、こっち来たである! 何これすっげー怖い!』

『つべこべ言う前に撃て!』

 戦闘のド素人である二人が遠隔で操る二機のヘスティオンの動きはぎこちないが、プレスガンのよる攻撃に専念することで牽制としての役割を果たしている。

 そこへヴィールが突っ込み、場をかき乱す。

 牽制によって動きを制限され、アルトエミスによって回避運動を強制される。そうやって動きが一瞬止まった瞬間。そこへ狙い澄ましたかのようにトリアの狙撃が装甲を吹き飛ばす。

 撃墜には至らない。だがそれでも確実に相手を疲弊させていく事ができている。

 このままいける。そう思いはじめていた。

 だが、トリアの狙撃が敵機の脚部を吹き飛ばした瞬間。事態は変化した。

『おぅ? あれは……』

「エイみたいなのが突っ込んでくる!」

「っていうかあれ、前面ブレードになってないか!?」

『避けろ!!』

 ヘクスイェーガーサイズのブレードがそのまま突っ込んでくる。そのように巨大な質量を受け止めきれる訳もなく、ヘスティオンが一機その刃の餌食となり空に散った。

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