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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
56/315

只今、積み込み作業真っ最中

 ズワウル各機の整備が完了し、飛燕小隊を送り出すその日。

 ラキシスの操縦席でガドルは死んだ目をしながら、機体をクエルチア騎士学園へ向かわせていた。

 その理由は彼の受けた勅命にある。

 わざわざ王城まで呼び出され、レヴァンダから勅令を受けた足で学園へ向かう道中、自身の駆るラキシスの操縦席で何度ため息をついたことか。

 誰にも聞かれていない事を確信し、息を大きく吸い込んで溜まりに溜まったストレスを吐き出す。

「拠点機能を持つ全長1キロの新造戦艦とかふざけてるのか!? しかもそれを学生に与えるなど正気じゃないッ! 特殊部隊の結成。それはいい。でもなんでそのお目付け役として俺が同乗することになってるんだ! あいつらをコントロールできる大人がこの国に居る訳ないだろう。誰だよ、こんな滅茶苦茶なこと言い出したの。いや、解ってる。解りたくないけど解ってる。あの方以外あり得ないだろ。需要の減った戦艦を新造するなんて言い出す酔狂な人間は」

 吐き出したら吐き出したで妙に冷静になってさらに気分が重たくなってきた。

 自身が受けた勅令をそのまま彼等に伝えれば、流石に混乱するだろう。

 いやそれはいい。問題は、何で自分が、周囲を振り回して暴れるアディン・アハット達のお目付けつけ役をしなければならないのか、である。

 以前からアディン・アハットには監視が付いていた。だったらわざわざ監視としてガドルが乗艦しなくても、以前からの人員が乗艦すればいいはずなのだ。

 アディンと出会ってからここまで、なんだかんだと振り回されてきてそれに慣れてきてはいた。だが今回ばかりは規模が違う。

 胃が痛かった。アディン関連の出来事史上最大に痛かった。

「うん……?」

 クエルチア騎士学園が見えて来たのと同時に、見慣れないものが格納庫の近くにあった。

 具体的にいうと、全長1キロくらいで砲身がついた艦船のような物体が。

「……」

 限界を越えた胃の痛みに目の前の景色が歪んでいった。




 ガドルのラキシスが全長1キロの遺物を見つけ、ストレスで眩暈を起こしていた頃。

 格納庫からいくつかの機体が運び出されていた。

「コスモス級戦艦、ねえ。これで何と戦うんだ?」

 資料を渡されたアルツは素直な感想を述べた。

 魔女と戦うのは当然である。だが、戦艦の巨体で、驚異的な機動力と運動性を誇る魔女に攻撃を当てることができるか、というとそれは難しいだろう。

 また全長1キロメートルという巨体は、たかだか10数メートルクラスのヘクスイェーガーを運用する母艦としては大き過ぎる。

「税金の無駄遣いな気がするんだが。あたしは」

「うむ、吾輩もちょっと運用可能な大きさではないと思うのである。第一、この規模の艦艇を守るには我々だけでは数が足りないであるな」

「なあアル。これ本当にあたし達が使っていい艦なのか?」

 当然の疑問だ。

 だがこれはあくまでも確認作業である。何せ、その艦を持ってきたのはアディン達であり、エリマ達に下されたのは勅令。つまり国王直々の命令である。

 これには最初から拒否権などないのだ。だが確認せずにはいられない。

 普段彼等が扱うのはせいぜい100メートル前後の輸送機。戦艦など扱ったことがないという不安。

 計画の全容を知った上で、それが実現可能なものなのかという疑念。

 それらを納得させる為に何らかの言葉が必要だったのが。

「大丈夫ですよ。使いやすいように改造していいって言ってましたし」

「……」

 ――そういう問題じゃあないんだよ。

 アルも、アディンに負けず劣らずで大分思考がぶっ飛んでいる事を再認識させられる。

「しっかし、ウチの国王陛下もとんでもない事考えるな。これ、全部ドッキングすると全長10キロぐらいになってんだけど」

 計画書を受け取ったエリマは苦笑する。

「ここまでの大きさになるともはや自衛能力を持った小島であるな。それにしては攻撃力が過剰だとも言えるが」

「むしろ移動可能な総合生産プラントといった感じがするな。オレは」

 技術屋三人組はバトルコスモス受領に伴い与えられた資料に書かれた未建造の随伴艦についての資料に目を通して盛り上がっている。

 前代未聞。新技術。合体に必要な基部周り以外は自由に改造可能。

 現実的な問題はともかく、これらの言葉に胸躍らないはずがない。

「我々の機体まで搬入をお任せして申し訳ない。こちらも入念に打ち合わせをする必要があったので」

 レンナ達飛燕小隊が格納庫に顔を出す。

「いや、すごいな。アレ」

「新造艦を使うとは聞いていましたが、流石にあの大きさは予想外ですね」

 外にあるバトルコスモスの異様なまでの大きさにシオとエクウスがそれぞれ感想を述べる。

 ゴウトはというと、呆れたような困惑したような、複雑な感情が入り混じった顔でバトルコスモスを見ていた。

「自分たちの機体を運ぶついでです。とりあえずの目的地は一緒なんですし」

「我々としても心強い限りです。あのアルトエミスという機体。あの性能は実に頼もしい」

「そちらも災難でしたね。ウチの陛下から脅されたそうで」

「いや、まあ。仕方ない事であるとは思います。我々が大量破壊兵器を持ちこんでいる可能性も考慮した対応をするのは当然です。もしかして、聞いてしまいましたか?」

「いえ。ただ陛下の事は信用していますので」

 そう答えると、レンナは安堵した様子を見せる。よっぽどの機密なのだろう。

「一応は我々第十二班の四人以外、飛燕小隊の任務が継続中であるという事は伏せられています。もし戦闘になった場合は我々が対応します」

「はい。お願いします」

「お嬢。俺らも準備しましょうや」

「そうですね。では、失礼します」

 一礼し、レンナ達がバトルコスモスのほうへと向かっていった。

 彼等の荷物はほとんどない。それもそうだ。彼等本来の荷物は輸送機と共に失われているのだから。

 準備することなどほとんどないはずだが。

「さて、と。積み込みする資材、あとは何がありますか?」

「そうだな。えっと……」

 全員の視線が格納庫の一画を見つめる。

「あれ、かな」

「あー……」

 完全に積み込み忘れた強獣の死体。

 まだまだ使え得る部位が残っている以上、それも立派な資材だ。

「すっかり忘れてましたね」

 バトルコスモスに載せる機体はその殆どを既に搭載し終えている。今更降ろすのも手間である。

 と、どうしようかと悩んでいた時に、格納庫へ一機のラキシスが入ってきた。

『お前達、積み込み作業をやってるのか』

「ガドルさん! ちょうどよかった!」

『は?』

 アルにとっては非常にいいタイミング。そしてガドルにとっては最悪のタイミングであった。




 バトルコスモス内では本来戦艦として建造された艦船には不必要な施設である魚の養殖用設備――ようは生簀の前でアディンとヴィールは釣り糸を垂らしていた。完全なサボりである。

「この生簀、何がいるんだ」

「俺のがニジマス。ヴィールのがナマズだ」

「他の生簀はなんなんだ」

「食用だけじゃなく、研究用の生簀もあるからな。中は空のやつもあるんじゃないか」

 話をしていると、アディンの竿に動きがあった。

 リールを巻きながら、抵抗する魚の動きに合わせて竿を動かして魚を引き寄せる。

 水は透き通っていて魚影はしっかりと見え、もうすぐ釣りあげられる。

「よし、もうちょっと……」

「……何やってるの」

「どわっは!?」

 突然後から声をかけられて驚いた拍子に、アディンは足を滑らせて生簀に堕ちた。当然針にかかっていた魚にも逃げられる。

「と、トリア嬢。驚かせるなよ」

「姿が見えないと思ったらこんなところでサボってるそっちが悪い。艦内農場のチェックは終わらせておいたから」

「あ、ああ。ありがとう……」

 ずぶ濡れのアディンが生簀から這い出す。

「農場、どんな感じだった」

「室内農場だから作物ごとに適温を保っていられるのが利点かな。一年中ありとあらゆる野菜が食べられる。勿論、管理は必要だけど」

「それを言うならこの生簀も水の循環はともかく、餌の管理なんかも必要だな。それに完全養殖するつもりなら成長段階に別けての管理も必要だし。専属の管理スタッフが必要だな。こりゃあ俺たちだけじゃ管理しきれるかどうか。どうする、アディン」

 ヴィールが訊ねても、アディンは身体を丸めて震えている。

「どうしよ、なんかすっげー寒い」

「自業自得」

 と、トリアにばっさり切り捨てられる。

「その他の設備は?」

「それぞれの専門の人がチェックしている。おおむね問題はなさそう。私達ヘクスイェーガー部隊はもうチェックできるような所は残ってないはず」

「チェックが全部終わったら離陸して目的地へ向かうんだったな。あとどれくらいで終わりそうなんだ」

「積みこむ資材はほとんど載せ終わってる。あとは乗員リストを作って、各員の通常時の担当箇所の割り振り。先に決めた私達以外の部屋割とかかな」

「そっちのほうは先輩たちに任せておいていいだろ。それより……」

 ガタガタ震えているアディンを着替えさせたほうがよさそうだ。



 すべての搭載作業を終え、乗員リストも作成され、出発の準備が出来たバトルコスモスのブリッジには手の空いている人間が集まっていた。

 アディン達第十二班の面々と、エリマ、アルツ、シュデムの技術屋三人組。そして、なぜかいるエルアとムビリである。

「……え、なんでいるんですか姉さん」

「勅令ニャ。なんでも強化外骨格も国家機密扱いでその開発に携わった人間もこの艦に乗ってるのニャ」

 と言うことらしい。

 実際に開発に関わっているのはテスターであるエルアだけなのだが、ムビリがいないと会話が成立しないので、今後付き合っていく為には必要不可欠な人員であった。

 それよりも、目の前には最大の問題が転がっていた。

「まずは、誰がこの艦を動かすか、という話であるな。当然第十二班は除外するのである」

 バトルコスモスは戦艦である。当然ながらそれを指揮する人間、つまり艦長が必要になる。それ以外にも観測員や操舵手。火器管制など様々な人員が担当しなければならない。

 簡単な操舵くらいならば輸送機を操縦できる人間ならば出来る。実際、アルは工廠からここまで舵を操って運んできたが、あくまでもかろうじて使えた、程度のもの。

 バトルコスモスは戦艦である以上、戦場に赴く事もあるだろう。そうなった場合、ちゃんと操舵を行える人間の操舵でないと、その巨体も相まってバトルコスモスはただの的になってしまう。

 そもそも、アルを始めとした第十二班の面々は戦闘時には自分の機体に乗って出撃してしまう為、操舵などできるはずがない。

 と、なれば自然と技術屋三人組に、となるが、それも難しい。

「凡人眼鏡と吾輩は補給や修理の関係でデッキで待機する必要があり、アルツ・エナムは操舵や指揮よりもここでマナの出力調整をやってもらう必要があるでな」

「ああ。確かに艦全体のマナ管理は魔法に長けてるオレの仕事だな。他の魔法科はどうする」

「平時は魔法研究施設と兼任で養殖場や農場の管理をローテーションでしてもらう。戦闘時は……各部対空砲座担当かな」

「じゃあ艦長と操舵は?」

「少なくともエルアさんは艦長無理ですね」

 アディンの言葉にエルアを含む全員が頷いた。

 無口を通り越してほぼ喋らないエルアでは艦長は無理だ。発言したとしても一言二言で、その真意が姉妹以外には伝わらない。

「じゃあムビリさんは……」

「おねーさんが指揮できると思う?」

 にっこり笑顔。しかしその笑みは明確な拒否表明である。

「まあ、操舵くらいならやってみるニャよ。いちおーこれでも昔はブイブイ言わせた事があるニャ」

「本当か、アル」

「は、はい。一応。技術面については問題ありません。ただ無茶な操縦もするので個人的には不安です」

「……具体的には?」

 不安になってアディンが訊ねたが、視線をそらすアルを見てなおさら不安になった。

 が、現状手の空いている人間で操舵を買って出るような人間もいそうにない。

「じゃあムビリさん、操舵をお願いします」

「了解ニャ。じゃあ艦長は誰になるのニャ?」

「うーん」

「おい、お前等。自分はお前達の雑用ではないのだがな」

 丁度ブリッジに入ってきたガドルに一同の視線が集まる。

 そしてエルア以外の全員が満面の笑みを浮かべる。

「ガドルのおっさんで異論ない人ー」

「「はーい」」

「は? え?」

「どうせおっさんも俺たちと一緒にこの艦に乗るんだろう」

「ああ。その通りだ。お前達はまだ未成年だから、一応上を納得させるために自分がこの艦を預かるという形をとっているはずだが」

「なら問題ないな」

「それじゃあよろしくお願いします」

「え、ちょ。アル・イスナイン?」

 こうして、バトルコスモスの艦長が決定した。本人の承諾もなく、強制的に。

 状況がさっぱり理解できていないガドルは困惑したまま、周囲に説明を求めようとするも誰もそれに答えてくれない。

「各員の配置状況、わかるかニャ?」

「全部署問題ないみたいですよ。マナ出力、上げてきます」

「お、おい。ちょっと待ってくれ。何がなんだか……」

 混乱するガドルをよそにアディン達はブリッジを去り、その場に残ったのは操舵桿を握るムビリ、マナ出力を調整するアルツのみ。

「じゃあ、艦長。よろしくお願いしますよ」

「は? 俺が……?」

 驚きのあまり素が出る。だがすぐに状況を理解したガドルは大きく息を吸い込んでは吐くを繰り返し、一端落ち着かせてから艦長席に座る。

「えーと。二人とも。今から叫ぶ事は聞かなかった事にしてほしい」

「? はい。構いませんが」

「了解ニャ」

「……すぅ」

 息を吸い込む。そして溜まったものを一気に吐き出す

「畜生やりながったなあいつ等! 完全に厄介事押しつけられてるじゃないか! 俺は騎士で、艦長なんてガラでもないのに、やりやがった、謀りやがったな!!」

「……」

 いつもと全く違う取り乱した様子に、気持ちが解らないでもないアルツは本当に聞かなかった事にしようと誓うのだった。

「艦長、準備できてるニャ。いつでも指示を」

「バトルコスモス離陸! パステークに向けて進路を取れ!」

「了解ニャー。各員、離陸の衝撃に気を付けるニャー。バトルコスモス、離陸発進ニャ!」

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