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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
30/315

新しい可能性の模索

 アディン・アハットによる人体模型強奪事件から数日。

 格納庫の主たるエリマはじめアルツおよびシュデムは過労によって自室待機を強制されていた中でそれは起きた。

 何となくで格納庫に顔を出したトリアとヴィールは、久々に会ったアディンが人体模型とにらめっこしながら機械いじりをしているという妙な光景に出くわす。

 頭にはクエスチョンマークがいくつも浮かぶ。

「ここはスペースをあけておいて……。よし。これなら動くか」

「おい、アディン。何をしてんだ」

「何って。見ての通りだけど」

「いやいや。そうじゃなくてだな……。ていうか帰ってたんなら何か言えよ。相棒」

「悪い、相棒。ちょっとやってしまいたい事があってな」

 ヴィールと会話しつつ、手を止めずに小さな機械を組み上げていく。

 ブラックボックスの改造に使う何かのパーツか、とも思ったがどうも違う。

 組み込むにしては大き過ぎる。というか明らかに人型をしている。

「アディン、何これ」

「ちょっとアルと一緒にシプレースに行ってただろ。そこで頼まれごとしてなー」

「それが……これ?」

 アルは覗き込んでなおアディンが組み上げているものが理解できず首をかしげる。

 何せ球体の関節はあるものの自分で曲げたり捻ったりといった動きができないようになっている。

 早い話が球体関節のデッサン人形だ。

 しかし人型ではあるが普通の人間の形をしているか、と言われるとそれは違う。

 決定的なのは頭部にあたる部分がまるごと欠損している事だろう。

「ヘクスイェーガーの小型化、か」

「むしろ先祖がえりと言うべき。でも何か違う」

「良く気付いたなアル。こいつは全く新しいものだ。何せエーテルコンバーターを搭載しないし、マナを通さず動かすつもりだからな」

「は? それは無理なんじゃないか。だって……」

 ヘクスイェーガーの動力はすべてマナで賄われている。空気中のエーテルをコンバーターを通してそれをマナに変換し、直接動力とすることで稼動する。

 化石燃料に乏しい空の陸地に住む人類にとってはこれ以上にない無限動力。万能のエネルギー源である。

 が、その万能さゆえに人類の技術はある意味では停滞した。

 ありとあらゆる機械はマナで稼動するようになり、それ以外のエネルギー源による稼動は廃れるか――そもそも使おうともしていない。

「動力をマナに頼り切った現状の人類の科学技術じゃ、万が一に弱過ぎる。そうなった時の代替動力のテストともう一つ。ちょっとアルの親父さんに頼まれごとしてなー」

「イスナイン嬢の、ってお前何しにシプレースに行ったんだよ」

 当然の指摘であるが、アディンは笑って誤魔化した。

 二人っきりで女子の親に会いに行く、というのはまるで恋人へのあいさつのようだと捉えられてもしかたない。

 実際はそんな甘いものではなく、アルが笑顔でキレるわ彼女の父親は父親で娘の将来を心配しているようで空回りしているわで、あまり居心地は良くなかった。

 あとはアルの二人の姉だろうか。エルアのほうはよくわからないが、ムビリのほうは今後とも付き合っていく事になりそうだと思っている。距離感が近過ぎるきらいはあるが。

 思い返すと新鮮だった。けど思い返すとどっと疲れる一泊二日であった。

「それで、依頼されたのが対強獣用の装備開発な訳だけど、とりあえずこれで動かしてみるか。トリア、頼めるか」

「え、これ動くの?」

 動力を供給するはずのエーテルコンバーターを搭載していないのに、どうやって動かすのかという疑問はあったが、シートがあり操作するレバーやペダルなども取り付けられており一通り操作系統は完成しているように見えた。

 本当にこんなものが動くのだろうか。半信半疑でトリアはシートに座って見る。

「……お尻が痛い」

「ああ。悪い。簡易的なものだからフレームの上にクッション置いただけだから強い衝撃には耐えられないかも」

「座る場所くらいはしっかりしておいてほしかった。それで、どうやって動かすの」

「右脚のペダルで回転数を上げて出力アップ。左足はブレーキ。左手のレバースティックは進行方向の指定とコネクターに接続した武器の選択。右手は細かい照準調整とオプション装備のトリガーだな。細かい動きはこれから詰めていくとして、実際に動くかどうかだけ見たいんだ」

 アディンの説明通り、右のペダルを踏み込むとモーターの回転数が上がって行く音と共にゆっくりと立ち上がる。

 左のレバースティックを操作すると、傾けた方向に足を動かして――――派手な音を立てて転んだ。それはもう見事な転倒ぶりだった。

 ほぼフレーム剥き出しの状態で転んだ揚句、勢いがそのままトリアの全身を打ちつける。

 幸い、これを見越してか操縦席の周囲にはエアバッグが仕込まれておりトリアが受けたダメージは見た目より酷くはないはずだが、それでも頭が揺れたのかややぐったりしている。

「大丈夫か、トリア」

「気持ち悪い……」

 意識はしっかりしているようで一安心。

「悪いトリア。まさかここまでバランス調整が難しいと思ってなくて」

「エリマ先輩達は」

「あ、駄目だ。あの三人今過労で強制的に休暇取ってもらってる」

 特に無理やり眠らされたシュデムはその時に首を痛めて他二人よりも長めに自宅待機を命じられている。勿論医者から。

 なんでも、気絶しているにも関わらず通常ではあり得ないほどの興奮状態を維持しており、それ以外は至って健康どころか良すぎるくらい。だが脳と心臓に負担がかかりすぎていて危険だった、とか。

 絶対トリアの持ってきたドリンクとやらの影響だろう。とは思ったが、アディンはそれを口にすることをやめた。

「ほれ、ちょっとはマシになるぜ」

「ありがとう」

 くらくらする頭と吐き出しそうな胃の内容物を堪えながら、トリアが操縦席から這い出してくるのにあわせ、ヴィールは水を差しだす。

 吐き気がある、特に戻しそうな時は水で押しこむのがいい。胃酸で焼けた食道を洗い流して被害を最低限に抑え込める。

 トリアは素直にヴィールから水を受け取り、一気に飲み干した。

「これ、魔法の類は使ってないんだよな」

「そうだなあ。バランサーもショックアブソーバーも純機械的にやってはみたけど、難しいもんだな」

「まだ頭がくらくらする……」

 頭頂高が3メートル前後の人型とは言え、それが横転するとなるとかなりの衝撃と遠心力が発生した。

 かるい脳震盪くらい起こして当たり前だ。しばらくすれば良くなるだろうから、とトリアは椅子に座り設計図の散らばるテーブルに突っ伏した。

「やっぱ機械関係ならあの二人だろ」

「その片割れがドクターストップ食らってんだよ。トリアのドリンク飲んだほうが」

「え、あれ飲んだの? いかにもな色しててヤバい臭いまでしてたのに」

「あれなんなんだ。トリア、そんな危険物作ったの?」

「いやいや。出来た物体は偶然の産物なんだ。オーガニック仕様のポーションのはずだったんだよ……」

「ふむ?」

 興味を抱き、ぐったりとしているトリアに代り事情を知っているらしきヴィールに話を聞いてみる事にした。

 なんでも根を詰め過ぎているエリマ等三人および格納庫常駐メンバーに栄養ドリンクの差し入れでも、とトリアとヴィールが話し合っていたのだが人数分集める為の金がない事に途中で気付いたのだとか。

 するとどうなるか、というと自作である。プロの薬剤師でもなんでもない人間が、薬用成分も多量に含まれている栄養ドリンクの製造をやろうとしたのだ。

 なおヴィールは反対した。反対したが、トリアがあっという間に材料を書き集めてできたのが、ケミカルXとでも言える、色・臭い・味と三拍子揃って生物的本能が危機感を覚える栄養ドリンクらしきものであった。

 それを格納庫に持っていくと、有難く受け取ってくれはしたがそれを飲んだのはシュデムだけ。結果、現在に至る。

「……それ、本当に身体に安全な物質しか入ってないんだよな」

「それは間違いない。似た姿の毒草があるハーブ類は使ってないからな。でもあれだな。可食物から工業廃棄物って出来るんだな……」

 産業廃棄物ではなく工業廃棄物ときたか、とアディンは顔をひきつらせた。

「何か資料にするようなものはなかったのか。ほら、レシピブックみたいなの」

「あるにはあったんだが、問題は調達する必要のある材料のほうでな。市販されてないわ、学園内の植物図鑑には載ってないから調べられないわでお手上げ。それ抜きでやった結果が」

 シュデムの悲劇、である。

 料理の素人がレシピを見ずに妙なアレンジをしようとして大失敗をする、という話によく似ている。

「まあ警戒なしに飲んだのはシュデム先輩だけだから被害は最小限だったんじゃないか」

「うん、まあ……そうなんだろうけどなあ」

「すいませーん、ここにアディン・アハットさんはいらっしゃいますか?」

 二人の会話が途切れたタイミングで格納庫の入口に男性が立っていた。

 制服からして運送屋だろう。

 ヴィールは何事か、と首をかしげるがアディンは待っていたと言わんばかりに入口のほうへ駆けて行った。

「荷物どこに降ろしましょうか」

「えっと、とりあえずあのテーブルのあたりに」

 そんな会話が聞こえてきた直後、荷台から降ろされたものをみて格納庫重がざわついた。

 人力で運べる限界サイズに刻まれた甲殻類のような虫のようなものの塊。死体と言ってもいいだろう。

「梱包してくれてもよかったのになー」

「ちょ、ちょっとまてアディン! お前何注文したの!? 何これ、ねえ何これ!?」

 ヴィールがアディンに掴みかかり前後に揺らし、説明しろと迫る。

「ちょーっと試したい事があって取り寄せたんだよ。強獣」

「きょうじゅう? え、強獣ってあの?」

「その強獣」

 運送屋が積み荷をすべて運び終わり、一礼して去って行く。

 その間格納庫のすべての作業は止まり、静寂が広がる。

「はあああああああああああああああああッ!? 正気かオマエ!!」

 静寂を破ったのはヴィールの叫びだった。

 目の前に居る友人の頭のネジは数本外れていると思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。

 意味が解らない。解らな過ぎる。

「正気も正気。ちょーっとアルと一緒に出てる間に気になる発見をしたんで、試してみようと思って注文した」

「どこに!?」

「アルのお姉さんに」

「なんでだよ!!」

「まあまあ」

 諦めてヴィールが手を離すと、アディンは強獣の死体に手を突っ込んで肉――ではなく金属繊維を引き摺りだす。

 流石に素手ではなく手袋はつけているが、見た目はグロテスクなものを想像してしまう。

 だが強獣は純粋な生物ではない。そしてアディンの推測が正しいのであれば、強獣は金属生命体だ。

 一応は生き物に違いないが、根本的に人間が生物と認識できるものとは異なっている。

 取り出した繊維をじっくりと見つめ、角度を変え、握って、曲げて、何かを確かめている。

「ふむ。だいたいわかった」

 何がわかったのかがヴィール含めその場に居た誰もが理解できない。

「よし、と」

 取り出した繊維をいくらか束ねて、それを先ほど転倒した人型にとりつける。

 そしてそれを全身に張り付けていく。

 ちらちらと科学準備室から強奪した人体模型を見ながら、人間の筋肉の配置に近いように仕上げていく。

 尤も、ヘクスイェーガーほど綺麗な人型をしていないためその配置はやや適当な感がある。

「あ、しまった。どうやってこれ動くんだ」

 そう言うと再び死体から繊維を取り出しそれをテーブルの上に置いて観察する。

「な、なあ。アディン。何やってんだ?」

「うん? いやな。強獣の体組織て金属で間違いないんだけど、ほら。まるで筋繊維みたいだろ。だからこいつをヘクスイェーガーの稼動部に流用できないかなーって」

「……毎度毎度お前には驚かされるが、呆れて言葉がでないよ」

「それ聞き飽きた」

「でも実際、どうするんだそれ。動かし方わからないんだろ」

「そうなんだよなー」

 うーん、と腕を組んでテーブルの上の金属繊維を見つめる。

 と、休んでいた急にトリアががばっと起き上がりその金属繊維を手に取った。

「お、おお……すごい。これ」

「トリア嬢?」

「本当に筋肉みたい。筋肉なら電気信号だけど、これは何で動くのか。すごく気になる」

 話はしっかりと聞いていたらしく、今手にしているものが何かを知ってなお、まず普通に生活している上では見ないような珍しいもを見て興奮しているようだ。

「もういいのか」

「ちょっと気持ち悪いだけ。それ以外は問題ない」

「で、これをどうやって動かすかだよなあ。ぶっちゃけはっつけただけで繋がってないし」

「おいおい……」

 正直、手詰まりだった。

 稼動するのは間違いない。()()()()前はこの強獣も全身の繊維を伸縮させて動きまわっていたのだから。

 問題はその動かし方。どんな方法でこの金属繊維は伸縮していたのか、である。

 人間をはじめとする生物の身体を覆う筋肉は、電気信号によって伸縮するのだが、それがこの金属繊維にも適応できるか、というと疑問だ。

 ここから何をするにしても、まずは金属繊維の伸縮方法の解明が急がれた。

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