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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
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獣の森へ1

 アディン達は学園に戻るなりすぐさま行動に出た。

 エリマを中心とした鍛冶科の過半数と機械工学科の半数は帰還した機体のメンテナンスをはじめ、シュデムを中心とした残りの鍛冶科と機械工学科はブラックボックスと新型プレスガンの運用データの解析と改善点の洗い出しを行う。

 アルツの魔法科は、というとブラックボックスに組み込んだ術式の見直しと、過去の記録から遭遇した魔女の洗い出しとその対策の立案を行っていた。

 一見すると魔女対策は魔法科の仕事ではないようにも思えるが、魔女には魔法による攻撃が有効であるがその中でも相性というものがある。それの研究も魔法科およびその延長にある魔法研究家の仕事である。

「しかし……あれだな。実に頭の痛い話であるな」

 格納庫に急遽呼び出されたガドル・ストールは目の前の光景を見ながらわざと周囲に聞こえるよう、思った事をそのまま口にした。

 ある程度噂話やヴィールとの日常会話で事情は知っていたが、まさか学生が新型ヘクスイェーガーを作り上げてしまうとは思ってもいなかったし、まさかそれが実戦に耐えうるレベルの完成度になるとは誰が想像できようか。

 だがそれはいい。何せもう国王陛下が許可を出してしまっている。諦めがつく。

 問題は、一度魔女を退けた場所であるビルケ島周辺に再び魔女が出現したということだ。

「それで、特徴はどうだったんだ」

「なんていうか、神々しい感じだったな。頭と腕に翼のあって天使っぽいっちゃあ天使っぽかった」

「ふむ……自分は見たことがないな」

 ヴィールからの話を聞いても、ガドルはその魔女に心当たりがなかった。

 第一騎士団に所属し、それなりの数の魔女と戦ったガドルではあるが魔女に対して神々しいなどと感じた事は一度もなかった。

 何より頭と腕に翼がある魔女というのは聞いた事がなかった。

「今魔法科が学園内の資料片っ端から洗ってる最中。それで見つかればいいんだけどな」

「ふむ……。自分も軍に問い合わせてみよう。しかしな」

 格納庫を所せましと走り回る学生たちと、整備を受ける見慣れた二機と見知らぬ一機のヘクスイェーガー。

 何時の間にこんなものを作ったのだ、というよりも、あの少年は何時の間にここまでの人数を掻き集めていたのだろうという感が強い。

 いや、恐らく掻き集めたのではなく巻き込まれたのだろうが。

「ここの在学生は化け物ばかりなのか、と思う時があるよ」

「ああ。それは俺も思う時がある」

「問題児が何を。いや、その中でもお前は可愛いほうか」

 二人して思い浮かべるのはアディンの姿であった。

 しばらくしてガドルは格納庫を駆けまわる生徒たちの中にアディンの姿がない事に気付く。

「ヴィール。アディン・アハットはどうした」

「アディンか? アディンはイスナイン嬢に連れていかれて今頃森のほうへ行ってるんじゃないかな」

「森? 森だと」

「なんでもスクロールに使う素材を採取に行くって言ってたな」

「最近は強獣被害も少ないと聞くが、あの場所が危険地帯には違いないだろう」

 そう言いつつも流石に二人だけで森に挑むのは無謀ではないのか、とガドルは思うのであった。



 所変わって。アディンとアルは王都ウィスティリアから少し離れた場所にある防衛都市シプレースに来ていた。

 この都市は王都ほどではないにしろそれなりの規模を持ち、人の往来も多い活気にあふれた都市で、都市といえばウィスティリアしか知らないアディンにとっては王都とは異なった賑わいを見せるシプレースの光景は物珍しいもので、その全てが興味の対象であった。

 何と言ってもウィスティリアと違って道路がちゃんと整備されていて解り易い。

 まあ、ウィスティリアが無秩序な発展をしすぎていると言った方が正しいのであるが。

「アディンさん、あまりきょろきょろしないでください。ただでさえ武装していない人間は目立つんですから」

「すまない。田舎者丸出しだったな。けど、俺の目からすれば何もかもが珍しくて、つい」

 アルの言ったように、大通りを歩く人間の多くは鎧を着こんでいたり、剣を携えていたりと何かしらの武器を持っている。

 ヘクスイェーガーが登場した現代においてそれは時代錯誤のようにも見えるし、何より町の雰囲気からして浮いていた。

 しかしアディンから見れば異様な光景であったとしてもここの人間にとっては見慣れたものであるらしく、むしろ武器や防具を身に付けていないアディンとアルのほうが衆目を集めていた。

 注目されると言う事には慣れているアディンではあるが、普段のそれとはまた違っている。

 言語化するのならば、お前等何しにきた、といった所だろうか。

「シプレースは隣接するシプレース大森林に強獣を封じ込めておくための最前線の都市ですからね。それと戦うための武器や防具を装備した人間が歩いている方が自然なんですよ」

「きょう、じゅう……?」

 聞き慣れない言葉に首をかしげるアディン。

 アディンのいた島では聞かない名前だった。

「もしかしてアディンさん。強獣を知らないんですか?」

「ああ。さっぱり。欠片も聞いたことがない」

「えっと、簡単に言うとすごく強い害獣ですね。イノシシとかオオカミとかよりも強い化け物です」

「化け物だったらもっと効率のいい戦い方があるんじゃないか。たとえば」

「ヘクスイェーガーですか?」

「ああ。そうだが……」

 強い敵がいるならばそれこそ武器を手に戦うのではなく、全身が強固な装甲で覆われたヘクスイェーガーを使えばいいようなものだ。

 だが少し考えると、そうはいかない理由がいくつか推測できる。

 まず確定といって良いのはヘクスイェーガーの脚部構造だ。量産機であるヘスティオンおよびその上位機種であるラキシスの脚部は昨日が簡易的であり接地はできても歩行はできない。

 生身の人間が武器をかついで戦うことでその進攻を抑えていることから見ても、強獣は陸棲生物が多いのだろう。かつ、大きさも人間で対応可能なサイズであることは想像できる。

 と、なればヘクスイェーガーでは大き過ぎる。

 何よりも戦いの場となるのが森林地帯となれば、ヘクスイェーガーの図体は邪魔にしかならない。

「使わないんじゃなくて使えないのか」

「はい。それにここにいる人たちは騎士ではなく、傭兵だとか強獣専門のハンターだったりで収入が安定しないのでヘクスイェーガーを運用し続けるだけの資金を確保し辛いというのも理由の一つですね」

「それに、この都市には機体を待機させておけるだけの施設もなさそうだしな」

 少し周囲を見渡して見てもほとんどの建物は高さが一定でどれも低め。待機状態のヘクスイェーガーですら格納していられないほどだ。

 いくらかある大きめの建物も、宿屋であったりいくつかあるハンターギルドの本部であったりとヘクスイェーガーの運用できるような施設ではない。

「それで、だ。何故通りに完全武装の人間が多いのかは解った。どうしてアルはこの街に俺を連れて来たんだ?」

「実はですね。ここ私の実家がある街なんですよね」

「……は?」

 いまいち話が飲み込めない。要領を得ないというか、アディンは自身が置かれているこの状態を適切に表現できる言葉を探してみたが自身の持つボキャブラリーの限界に突き当たる。

 やっと捻りだした表現が、頭の上に疑問符がいくうも浮かんでいる、である。

 実に漫画的な表現だ。もっとマシな表現法はないものかと自嘲する。

「私の実家は代々強獣と戦う事を生業としてきた家でして。まあ私も例にもれずその訓練をさせられた訳なんですよ」

「はあ」

 ますます解らない。疑問符の数は増えるばかりだ。

「ですが私は、そんな血なまぐさい家業は継ぎたくないと直訴して学園に進学することができたのです。が」

「が?」

「この前魔女との戦闘で名前が出ちゃったじゃないですか」

 魔女との戦闘そのものは珍しい話ではないが、アディン達のケースは非情にレアケースであり、前代未聞。

 学生が魔女を討伐した。しかも小隊規模の戦力で。

 それはもう盛大に報道されあっという間に国中に広まった。

「そしたらウチの両親が、そんな力のある人間と知り合いならば一度連れてこい、なんて言い出しまして」

「え、あー……うん。ちょっと話が嫌な方向に行ってるぞぅ」

「理由は言われませんでしたが、多分婿養子にしたいとかそういう話なんでしょうね。ウチ、それなりの財力もありますし、未婚の姉も二人」

「なんでそれを先に言わなかった?」

「言ったらついてきてくれました?」

「ついてくかよ!」

「……だからですよ」

 完全に乾ききった笑い声と光を失った遠い目をしたアルを見ると、深く追求する気も起らなかった。

 疲れきっている。こんな状態の彼女を責めるのはいくらなんでもかわいそうに思えたのだ。

「てっきり森に材料を取りに行く、なんて言ってたからただの材料採取かと思ってたが……」

「ああ、いえ。それもやります。ただその、私としてはできるだけ回避したかった実家への帰省が強制的に決まってしまったもので」

「でもそんなに嫌なら断ればよかったじゃないか」

「……学費と研究費、親持ちなんです」

「あっ……」

 財布を握られていてどうしても断れなかった。そういうところだろう。

 学生である以上アルが個人で行っているスクロールの研究ができるような収入は存在しない。何せ魔法関係の物品は値が張る。

 アルバイトなどをしていればまだ多少なりとも収入はあるだろうが、研究のための時間を確保しようとすればアルバイトなどしている時間などなくなる。

 以前から値の張る研究をしているとは思っていたが、後に親の財力があったというのならば納得だ。

「……はあ。心底嫌な予感しかしてないけど、まあ仲間のためだ」

「本当にありがとうございます。できるだけ良い方向に話をもっていけるように私も頑張ります」

 面倒なことになったものだ、と嘆息しつつアルの案内で街を行く。

 武器や防具の専門店が建ち並ぶ通りを抜け、すこし開けた場所に出る。

 中央に噴水があり、十字に道が伸びている事からここがこの都市の中心部なのだろう、と勝手に想像する。

「こっちですよ」

 こうしてアルに案内されていると、初めて王都を訪れて迷い迷ったあの時の事を思い出す。

 アルの後をついて回ったのを昨日の事のように思い出せる。

 そしてやたら豪華な学生寮を見せられ、顔をひきつらせた事も。

「あ、見えてきました。あれです」

「あれ……?」

 アルの指さすほうを見ると、大きな屋敷があった。

 王宮というほどではないがそれでも立派な屋敷。

 周りの建物と高さを合わせるため上にはさほど大きくはないももの、横にはとにかく大きい。

 その大きさの衝撃たるや、初めて学生寮を見た時のそれに匹敵する。

「どうですか、私の実家は」

「え、あ、うん。そうだな、とりあえずあれだ。すっごいデジャヴ」

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