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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
21/315

未知数の試作機

 エリマ・ヴェイフ、アルツ・エイフ、シュデム・セイツェマン。

 この三人の協力者を得た事により、事実上アディンは第十二班の面々に加え過半数以上の鍛冶科、魔法科、機械工学科の三学科の生徒という膨大な数の協力者を得ることができた。

 これによって当初の目的であり最大の目的である新型ヘクスイェーガーの完成は一気に現実味を帯びてきた。

「マジで解決しやがったのか……」

「ふふん。凡人眼鏡よ。この大・天・才に不可能はないのである。どうだ。恐れ入ったか」

「お前だけの力じゃねえだろう。そもそもなんだこの無茶苦茶な要求は」

 アルツがシュデムから受け取った仕様書をテーブルに叩きつける。

 そこに書かれている一文をみたエリマは思わず目を向く。


 想定以上にマナ供給量が増えちゃったんで、うまいこと外に放出するような術式書いて!


 非常に読みづらい文字ではあるが、間違いなくシュデムの文字であった。

 その一文を見たと途端に頭痛がした。

 具体的な指示ではなく、なんとかして、である。

 技術屋ならば誰もが嫌う無茶振りを、一応は技術畑の人間であるはずのシュデムが行っているのだ。

(あ、いや。こいつの場合は無茶振りしたって平然とこなすからそれが無茶振りだと認識してない可能性があるな)

 大天才と豪語するだけはあって、シュデムの能力は非常に高い。そこはエリマも素直に評価している。

 だがしかし、流石になんとかしてはないだろうと思わざるを得なかった。

「アルツ、お前も無理なら無理だとこいつに言って良かったんだぞ」

「そこは魔法科の意地だ。実際、なんとかなった訳だが」

「ほほう。そりゃあ楽しみだ」

 エリマが心底楽しそうに笑いながらアルツの背中をバンバン叩く。

 アルツとしてはかなり幸福度の高い瞬間であろう。

 だが幸福度で言えばこの場にいる人間誰しもが、十数年という人生の中で最も幸福感を感じている。

 それは、この感覚に勝る幸福など早々出会えないかもしれないというほどのものだ。

「……いかに吾輩の頭脳が優れていたとしても、このような機体は作れなかったのである。ここは素直に感謝を述べておこう。アルツ・エイフ。そしてエリ……んんっ。凡人眼鏡」

「テメェ、わざわざ言いなおしやがったな! おい、スパナ持ってこい。いや、やっぱドリルだ。こいつの脳天穴あけて中身確かめてやる!!」

「お、おい。落ち着けってエリマ!」

 ドリルは流石に渡さなかったが、机の上にあったスパナを握りしめて振りあげたエリマをアルツが必死に抑える。

 それをケラケラと笑ってからかうシュデム。

 流石のアルツもエリマを抑えるのをやめてやろうかと思ったりしたが、流血沙汰は洒落にならない。今すぐ手を離したい気持ちを抑えつつ、エリマも抑える。

 そこへ、第十二班の四人がやって来るが、三人のこの状態を見てアディン以外の三人が首をかしげた。

 ただ一人、アディンだけはエリマの性格もシュデムの性格も良く知っている為、この状況を見ても、どうせシュデムが余計な事を言ったんだろうな、程度にしか思わなかった。

「えっと。とりあえず三人とも。俺達を呼び出したってことは」

「例の物が完成した、ということでいいんですよね」

「んあ? ああ。そうだな。アディン。お前の要望通りかどうかはあたしには判らんが、形にはなった」

「アルとトリアのほうも一応は形になってる。まあ試射はしてないからどうにもな」

「心配ないのである。吾輩もチェックしたが、魔法的な部分以外は問題なかったのである。ああ、もちろん魔法的な部分以外というのは、その分野が専門外である故チェック出来なかったという意味であって、決してアルツの術式に問題があったという訳ではないのでそこんところヨロシクベイビー」

 技術者たちの満足げな様子を見て、アルとトリアは自分たちの担当したものが形になった事を実感し、顔を見合わせて喜んだ。

 一方でアディンはというと、その視線を上に向ける。

「やっぱりお前はそっちのほうが気になるか」

「そりゃそうだろ。自分の機体がベースになってんだから」

 彼の視線の先には直立する一機のヘクスイェーガーがあった。

 それはかつての彼の乗機であり、初めて乗ったばかりで派手に壊した機体。

 しかしその姿はヘスティオンとは大きく異なり、どちらかといえばアストライアに似ている。

「技術試験用試作機。こいつの名前はない。実際に動かした訳じゃないから、理論上いくら問題がないと言っても事故の可能性がないわけじゃない」

「まあ、こればっかりは装甲はっつける前に運動テストしてないこっちの不手際でもあるんだがな。ていうか、テストパイロット候補がいろいろと飛び回ってて捕まらなかったってのも理由だけどな」

 アルツの目線がアディンを向くが、アディンはそれと目をあわさず機体のほうを見つめている。

 間違いなく聞こえていて聞こえていないフリをしていた。

「しっかし。変わった作りであるな。この脚部。旧型機同様に接地可能な足とは珍妙なオーダーをしたものである。まあ、この機体のコンセプトからして当然と言えば当然であるが」

「コンセプト? アディン、お前どんな機体を作ろうとしたんだよ」

「アストライアの完全量産型だけど?」

「は? アストライアの量産型はヘスティオンやラキシスじゃ……」

「おっと。ここは吾輩の出番であるな!」

 と、シュデムが一歩前に出てわざとらしく胸を張ったポーズをとる。

 エリマは、やっぱりそうなったか、と言った風にため息をつき、アルツも何とも言えない表情をみせる。

 そのどちらに共通するのも、呆れと諦めだ。

 実際止めたって止まる男ではない。特に何かの説明をしようとする時は。

「我が国で現行の主力機であるヘクスイェーガーであるヘスティオンとその上位機種であるラキシスであるが、それらがアストライアをベースに量産向けに調整した機体だと言う事は当然知っているという前提で話すのである」

「いや、それは常識でしょうに。セイツェマン先輩が言うまでもなく」

「だがしかしッ! ヘスティオンはアストライアの性能を引き継いだ量産機とは言えないのである。当然であるな。基本仕様だけは共通しているが、生産性と整備性を追求した結果性能が大分抑え気味になっているだけでなく、機体構造の単純化の結果アストライアが持っていた装甲そのものの堅牢さは失われているのである。所謂、当たらなければどうと言うことはない、という奴であるな。まあ実際に当たらなければどうということはないのであるが」

「こいつが話すと脱線しやすいから補足するが、アストライアに生産性と安定性を持たせた上に拡張性を確保したが若干の性能低下したのがヘスティオンって訳だ」

「おいそこな凡人眼鏡。吾輩の説明を邪魔するでないわ! いや、まあ。吾輩の説明が脱線しがちなのは認める所だが」

 理解の追いつかないヴィールが腕を組んで首をかしげる。

「うぉほん。で、ここにある試作機はアストライアの性能をパーフェクトに再現する事を目指したものなのである。その上で生産性も一定に保つのは一苦労だったのである」

「一苦労っていうか、九か十は苦労したんだが」

「お疲れ様です。本当に、ウチ最大の問題児がご迷惑をおかけします」

 ヴィールがエリマ達のほうを向いて頭を下げた。

 実にいい角度のお辞儀であった。

「試作型、というのはまだブラッシュアップが可能ではないかと我々が考えているからであるな。この点に関しては吾輩も凡人眼鏡と同意見である」

「無論、オレもな」

「こいつの名前に関してはアディン。お前に任せる。テストパイロットも当然お前だ」

「それに関しては異論ありませんよ。で、あっちの組みかけの機体は?」

 アディンが指さす方にはまだ装甲が取り付けられていない四機のヘクスイェーガーが並んでいた。

 まだ完全に組み上がっている訳ではなく、片腕や頭部などがまだ取り付けられていない。

 その機体の全身に張り巡らされたマナ伝達用パイプの数は二本。つまりは今目の前にある機体と同様の仕様の機体ということだ。

 しかし修理中の機体などなかったはず。

 つまりこの四機の機体は新規に組み上げられたものと言う事になる。

「性能テストを短期間で終わらせるには同じ仕様の機体が複数あった方が早いからな。ついでに組んでみた」

「まあ、厳密には同じ機体ではないのであるがな。今完成しているのが一号機。アディン・アハット用の機体である。二号機はセンサー感知範囲を強化したアル・イスナイン用。三号機は射撃用の補正能力を強化したトリア・サラーサ用。四号機はヴィール・アルバア用の汎用機なのである」

「え、じゃあもう一機は?」

「んなもん、決まってんだろ。パーツ取り用機兼予備機だ。最悪共食い修理で稼動分は確保するにしても、予備がないとどうしようもないからな」

 そうエリマが腕を組んだまま胸を張る。

 腕を組んでいたがために強調された胸部を凝視する視線に気付いていないようだが、凝視していた当の本人――アルツも周囲の冷ややかな視線に気付いていないようだった。

「ともあれ。これで一端の完成ってことか。やったじゃないかアディン」

「いいや。まだであるぞヴィール・アルバア。一番重要な作業が残っている」

「は? いや、でも。もう出来てるんだから……」

「そうだな。こいつと同意というのは癪だが、それをやらないとこの機体は完成しないな」

「あっ、んんっ。さあ、アディン。こいつに名前を付けてやってくれ」

 名前のない機体。

 それに名前を付ける事で、その機体は真の意味で完成する。

 エリマ達三人はその役目をアディンに任せると言った。

「ちなみに開発中はなんて名前で呼んでいたんですか」

「ブラックボックス。開発中はどんなものが飛び出すか判らなかったからな」

「うわー。参考にならない名前っすねー」

「仕方ないだろう。開発中は名前なんて一切気にしてられなかったわけだしな」

「ほんと、ここにいるバカのおかげでな」

 そう言ってエリマとアルツはシュデムを睨むが、当のシュデムは遺憾であると言わんばかりの大げさな動きで腕を組んで睨み返す。

「基礎設計ができているのならばあとは実行するのみ。で、あるのにちんたらちんたらやってるから吾輩がちょっとオートメーションなニューテクノロジーをもって作業のスピードアップを図っただけである。具体的に言うと作業効率三十割増しくらいに」

「それ三倍って言いません?」

「もしかして床に転がってる機械の残骸って……」

「吾輩が開発した多目的魔導式遠隔作業用端末、その一作目であるシルキーなのである! まあ出力調整を間違った結果御覧の通りオーバーヒートを起こして再起不能になったのであるが」

 確かに作業用のアームのようなパーツも見えるが、もはやそれは無残に破壊された鉄くずのようにしか見えなかった。

 アームが折れているのは強い衝撃が加わった為であろうが、本体のほうはオーバーヒートで故障したというより、内側から勢いよく爆発したように見える壊れ方をしている。

 恐らくマナバーストが起きたのだろう。しかしシュデムが作ったというのならばそんなことが起きるであろうか、とアディンは考えを巡らせる。

 しばらく考えた後、出力の上げ過ぎによる循環不全によるものであろうと結論付けそれ以上を考えるのをやめた。そこらの問題はシュデム自身が勝手に解決する事で、実際シュデム自身が勝手に解決策を見つけ次回作に活かすだろう。

 それよりも今は目の前に入る名無しのヘクスイェーガーの名前だ。

 未だにこれが試作機であるという事を考慮し、その名前を考えなければならない。

 ウィスタリア王国の正式採用機には皆各国の神話に登場する神にちなんだ名前が付けられている。

 が、この試作機は国が正式に認めた機体ではない。よって神々を由来とした名前を付けることはできない。

 これを考え出すとなかなか難しい。

「珍しい。アディンが考え込んでる」

「写真撮っとくか。イスナイン嬢、カメラはあるか」

「ありませんよ、そんなの」

「残念だ。きっと未来永劫語り継がれるものになっただろうに」

「お前等なあ……」

 真面目に考えているというのに、と視線を送ってみるが三人は笑って誤魔化した。

「ま、急ぐもんでもない。それまではブラックボックスってことで通すか」

「そのまま正式名称になりそうだけどな」

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