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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
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まずは人材確保から3

調子がよかったので1日で投稿分が完成しました

 ブレイクスルー。それそのものは前進や進歩を意味する言葉だ。

 だが同時にそれは、今まで障壁となっていた事象の突破という意味も持っている。

 そんな存在を、アディンはずっと探していた。待っていた。

 そしてアディンはその鍵を隠し持っているのがエリマであると睨んでいた。

 彼女が出し渋っている、アディンですら引くだろうと言われる人物。その人物Xが今アディンの目の前にいる。

「フハハハハ! 吾輩の力が必要と聞いてわざわざこの吾輩が来てやったぞ凡人眼鏡!」

「誰が眼鏡だハイテンションマッドサイエンティスト」

「えっと、この人は?」

 エリマの言った通り、アディンですら引くほどのハイテンションの男の笑い声が格納庫に響く。

 白衣を纏い、右目は眼帯左目はモノクル。

 いかにもな見た目がなんというか、何とも表現しがたい雰囲気だ。

「うむ。見慣れぬ顔だな。初対面とみた。ならば名乗らねばならぬ。そうとも。その耳穴かっぽじって聞くがよい新顔少年。未来に燦然と輝くであろう偉大なる、そして高貴なる偉大なる我が名を! 吾輩こそこのクエルチア騎士学園最強の偉大なる頭脳……あ、いや。最高に偉大なる頭脳を持つ、千年に一度。否、億年に一度の大・天・才! 神をもひれ伏すであろう機械工学科にその人ありと謳われる偉大なるシュデム・セイツェマンである! 将来オークションに出すためのサインをねだるのならば無名の学生Aに甘んじている今が狙い目であるぞ? 何せ将来が約束されている偉大なる吾輩のサインである。学生時代のものとなればその付加価値は計りしれぬ。あ、いや。書いたサインがオークションに出されてると知ったらテンションだだ下がりで地獄の底すら突き抜けかねぬが」

「な、引いただろ」

 あまりにも余計な言葉が多すぎて名前が入ってこない。

 とりあえず、偉大という言葉を使い過ぎであるとは言いたかった。

「やれやれ凡人眼鏡。吾輩の名前について訊ねられたのだから応えてやるのが筋ではないかね。吾輩、筋を通さない大人にはなりたくないと思っているのである」

 みるみるエリマの額に青筋を浮かんでいく。それだけで格納庫の空気がひりついたものになっていく。

 思わず作業の手が止まりかけるが、エリマが一睨みするとすぐさま手が動きだす。

 いつものパターンではあるが、今回のエリマはいつにもまして気が立っている。流石にその威圧感を前にして、この格納庫にいる人間は誰も口をはさむ事が出来なかった。

「おいアディン。本当にこいつの力が必要なのか?」

「え、あ。はい。えっと……」

「シュデム・セイツェマンな」

「えっと。正直今のままでは手詰まりに近い状態なんで、外からの刺激がないと新しいアイデアもでそうにないんですよね」

「フフフ。流石学園一の問題児とされるアディン・アハットであるな。目の付けどころが違う。吾輩の手にかかればどんな難題もたちまち解決なのである。あ、でも恋愛相談はナシでお願いしたいところ。何せ、吾輩研究と機械いじりが恋人なもので。……ぽっ」

「頬を染めるな気持ち悪い」

 エリマがまるで汚物を見るような目でシュデムを見ている。

 そんな視線を気付かないのか、シュデムは自身を抱いてくねくねと気持ち悪い動きをしている。

 正直、アディンが見ていても気持ち悪い光景だった。

「まあアディンの言う事もわからんでもない。だからといってこのレベルの人間を引きいれるのには周りに悪影響じゃないかとあたしは思うがね」

「それは、その……流石にそんな気もしてきました」

「酷いのである!! まあ確かにこの大・天・才に合わせられるレベルの頭脳と技術力をもった人間がいるとは到底思えないのである。そこな凡人眼鏡とて技術は吾輩にも劣らぬが、オツムが全然足りていないのである!」

「よし。その喧嘩買った。誰かスパナかレンチもってこい。とびきり重たいやつ。今すぐこいつのドタマカチ割って改造してやる」

「は、話が全然進まない……」

 この状況をどうしたものかと頭をかくアディン。

 この二人の相性が致命的といっていいほどに悪い。

 口を開けば言葉の応酬。ノーガードの殴り合いが繰り広げられる。

 アディン自身もまさか周囲を振り回す立場から振り回される側にまわるなど思いもしなかったし、経験がなかった為にこういう時にどうすればいいのかというのがわからずただ天井を見上げるだけだ。

「あ、そうだ。シュデム先輩。このアイデアスケッチなんですけど」

「うむ? なんであるかこの紙束……は……? いや、待て。なんなのだこれは。ふざけるのも大概にするのである。これは、既存の概念に対する冒涜なのである!」

 アディンの見せたアイデアスケッチは、アルとトリアが描いたもの。つまりエリマが興味を示したものと同じものだ。

 それに対してシュデムが見せた反応は、言葉の上では否定的だがその表情は、笑っていた。

 描かれたものは現時点ではどれも実現していない技術。いわば机上の空論でしかないもの。だがしかし、シュデムはそれを見て明らかに興奮しているようであった。

「こんなもの、夢物語だと一蹴されても可笑しくはないものであるというのに、それを実現させようとしているのであるか?」

「勿論。現状は机上の空論に過ぎない事でも、いつかは完成すると信じてますよ。俺は」

「わかった。お前。バカなのだな」

 にっと笑うシュデムに、アディンも笑みで返す。

「このなかのいくつかは吾輩も考えついていたのである。この世紀の大・天・才と同じ結論を出すとはなかなかに見どころのある人材であるな。で、あれば……。アディン・アハット! 詳しい話を聞かせるがよい!」

「ええ、それはもう勿論たっぷりと。悪巧みの算段といきましょう」

 学園の問題児二人が手を組んだ。

 この瞬間に立ち会ったエリマはその光景を見なかった事にし、保健室へと胃薬を取りに向かった。

 格納庫に残ったアディンとシュデムはその場にいた手の空いている生徒たちを集め、彼等の言うところの悪巧みの準備を始めるのであった。


 悪巧みといっても具体的に何をするか、と言う話であるが、まずは目の前にある改造機の改良、あるいは新型プレスガンの改良という解り易い目標がある。

 シュデムは何か思うところがあるのか現在進行形で手が加えられているプレスガンには目もくれず、改造されたヘスティオンを舐めるように観察しつつその設計図を穴が開くほど見つめた後、何か納得したかのように頷いて簡単に絵を描いていく。

「これは……」

「単純な話なのである。ヘクスイェーガーにとってのマナとは、人間にとっての血液のようなものなのである。ならば血管を太くすればマナの循環効率が上がり、基礎性能は上がるのである」

「それはわかるんですけど、なぜ循環用パイプが二本なんですか」

「単純にスペースの問題である。ヘスティオンは外装オプションの拡張性には富んでいるが、一方で内装にはほとんど余裕がない作りをしているのである。これはまあ、アレも同じであるが」

 シュデムの目線の先にはアストライアがあり、アディンが操縦したその後から殆ど手が付けられておらず傷ついた装甲が痛々しい。

「少し穿った言い方をすれば数十年もの間、この国の技術者は装備の充実ばかりを優先し内装は蔑ろにしてきたということであるな」

「確かに、ヘスティオンはアストライアの簡易量産機ですもんね」

「で、本題である。以前この改造機に加えた新機能が原因で両腕がアイキャンフライしたそうであるが、その原因が循環不全であると吾輩は見た」

「循環不全?」

「出せる出力がそのままに必要とされるマナが多く必要になった結果、起動できないままにマナが蓄積。マナバーストを起こしてボーン、というわけである。なので送れるマナの量を増やしてやる事で解決しようとしたのであるがこれにも問題が出てしまったのである」

「……単純な出力不足、ですか」

「その通り。なので単純にエーテルコンバーターを増設することでこれを解決するのである。そして増設した循環パイプ。これで恐らくではあるが、ロケットパンチ問題は解決するはずである」

「いや、ちょ、待ってください。今さらっととんでもない事言いましたよね」

 流石にアディンもエーテルコンバーターの増設というアイデアがなかったわけではない。ただし、それは無理があると判断して選択肢としては除外していた。

 だがさも当然のようにシュデムは言って見せた。

「ふむ。アディン・アハットよ。エーテルコンバーターを搭載するスペースがない、重量バランスが崩れるなどと思っているのではないだろうな」

「いや、確かにその通りですが」

「甘い。リンゴと蜂蜜をあわせてカレーに突っ込むくらい甘いのである。チョコレートやコーヒーのビターさもプラスしてこそ真に美味いカレーが完成するというもの。カレーは甘口がお好みで? 吾輩は中辛くらいがよいのである。いや、話が大幅にずれてしまった」

 むしろしょっちゅう関係のない話を突っ込んでくるので脱線しなかった事がないと思わないでもないが、そこを指摘すると間違いなくこじれるのでアディンはその点に関してはスルーを決め込んだ。

 そうすることがこの人と一番うまくやって行くために必要なのだとこの数分で理解した。

 周囲にいる鍛冶科の生徒たちはシュデムの言動にすっかり疲れ果てているが、シュデムはそれでもその言動を止めることはない。

 恐らくこれが彼の素なのだろう。

「現実的な問題として、今お前のやろうとしていることはヘスティオンのエーテルコンバーターではパワーが足りないのである。正直言ってしまえばお前が魔女と戦った時に出していたアストライアの変換効率は欲しいのであるがそれを単独で搭載しようとすると、当然ながらとんでもない大きさのものが必要になってくる。ならどうするか。単純に二つ付けてしまえばいいのである。それに伴い増加した重量をカバーする為に機動術式にも若干の手を加えて姿勢バランスを調整する。あとは実際にテストして細かなバランス調整や各部の装甲追加などを行っていくのである」

「さらっといいますけど、それ大分手間かかりますよ?」

「なぁに。この今世紀最大の偉大なる大・天・才シュデム・セイツェマンがいるのならば工期は通常の三分の一以下である。心配することはない!! そう、泥船に乗ったつもりでいるといいのだ! フハハハハハっはっうぇっふぉ、げっほ……やべ、唾液が気管に、げほっ」

「ツッコミませんからね、俺」

 盛大にむせるシュデムを横目に、アディンは整備されていない傷だらけのアストライアを見つめる。

 もしあの時、もっとうまくアストライアを使えていれば。そう思わなかったことはない。

 だがあの機体は今のアディンには荷が重い。

 実際に操縦した後だからこそ、そう確信していた。

 だからこその新機体開発。自分に合わせられる機体で、かつ自分を置き去りにした性能を出さない機体。

 今のアディンに必要なのはそういったヘクスイェーガーであり、この国には存在しないものであった。

 だがはたしてそれは完成するのだろうか。

 シュデムのこの様子をみるとそんな不安すら感じる。

 ともあれ、鍛冶科の生徒といつのまにかシュデムが呼びつけていた機械工学科の生徒達がさっそく作業に取り掛かり始めていた。

 駄目でももともと。そんな気持ちでアディンはその作業を見守る事にした。


◆


 一方同時刻の保健室。

「先生。あたしの胃、大丈夫でしょうか……」

「そういうのは保健室じゃなく、病院で検査してね」

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