まずは人材確保から2
アルツの協力を得られた事で新型プレスガンの開発は一気に加速した。
弾丸を発射する為の空気圧はアルツが新たに組んだ術式でさらに強力なものになり、かつ今まで逃げていたエネルギーすら放出されるベクトルを指定することで当初の想定よりもさらに射程と威力が増強された。
それはいい。だが問題は、それが未だ机上の空論の域を出ないということだ。
どういうことか。
嬉しい誤算とも言うべきなのだろうが、アルツの構築した術式は当初の予定よりも強力な空気圧と圧力を生んでおり、複数回の発射に耐えられないという結果をもたらしていた。
「おかげで試作第一号は大爆発したわけだが」
試射場として使った演習場の地面は大きく抉れていた。
これが火薬を使ったわけでも破壊力のある魔法を放ったわけでもなく、圧縮された空気の暴発によるものだというのだから恐ろしい。
内部から一気に解放された空気は、プレスガンを砕きその破片を周囲に撒き散らし、爆心地周辺にいくつもの穴をあけている。
試射に立ち会ったエリマは頭をかいてどうするかとため息をつき、アルツはアルツでさっそく術式の再構築をはじめ手元のスクラップ帳に凄まじい勢いで新しい術式を書き記して行く。
何が悪いのか、と言われると材質の強度が術式に対して低すぎるのが悪い。またはアルツの組んだ術式が強すぎるのが悪い。
結局はこれにつきる。
「で、ちなみに発案者としてはこの結果、どう思う?」
試験に立ち会ったのは当然エリマやアルツだけではない。当然、プレスガンの考案者であるトリアや今回の計画の立案者であるアルもこの場にいた。
アルは、というと冷静に状況を受け止めているが、自分のすぐそばまでプレスガンの破片が飛んできた為か顔が青い。
一方のトリアは左手で右肘を抱え、額を人差し指で叩きながら考え事をしていた。
「既存の素材じゃ駄目ってことかも」
ぼそっとトリアはそう呟いた。確かにその可能性は十分にある。
だがその新しい素材を作るのにも時間がかかる。そして新素材の開発はニアイコールでコストの高騰を招く。
トリア達の目指すものはコストは据え置きでの性能向上だ。多少のコストアップは仕方ないとしても、大幅な増加は避けたいところだ。
「だよなあ。じゃあいっそのこと全部エアリウムにするかあ?」
「それが一番手っ取り早いかもしれませんけど、流石に武器にエアリウムってのはいくらなんでも許可が下りないと思いますよ」
「ヘスティオン五機送ってくるお人が、プレスガンに使う程度のエアリウムをケチると思うかぁ?」
「それは、えっと……」
エリマの言うお人とは、当然レヴァンダの事である。
ついこの間も国王直々に、アディンとエリマが行った新機能の実験での暴発事故の後始末用の費用とヘスティオンが五機格納庫に送られてきたばかりだった。
軽く豪邸が建つくらいの金はかかっているはずだし、そもそも実験用の機体として五機も搬入されるというのは異例中の異例だ。
アディンの名前を出して申請を出せばいくらでも追加の資材と資金を送ってくれるスポンサーとなっているレヴァンダのことだ。エアリウムが欲しいといえば、二つ返事で送ってくるのだろう。
実際に面会した事のあるアルとトリアはその様が容易に想像できた。
あの人はそういう人だ、という確信がある。
「とりあえずそれはおいておく。素材の問題なのは間違いない。かといって空気圧を抑えたくはない」
「でもどちらかを解決しないと完成しないですよね」
「なので、素材の構成を変えてみる。組み方によって強度は変化するはず」
いまいちトリアのいう言葉の意味を理解しかねる一同であったが、トリアはかがんで地面に絵を描く。
「例えば――ハチの巣みたいな構造にすればどうかと」
「っ!?」
それにエリマが真っ先に反応した。
「そうか。この構造ならば中を空洞にしてコストを抑えつつ強度を確保できる。ってことはつまり、今よりも強度の高い素材を使えば強度問題は解決だ」
「うん? ならこの術式はいらないのか」
アルツはこの少しの間に新しい術式を書き終えていた。
それを受け取ったトリアはにっこりと笑う。
「これはこれで使える。アディンと相談してアイディアを貰ってくる」
そう言い残し、トリアはあっという間に走り去って行った。
「あいつ、何気にアディンの事好きだよな」
「でも本人はアディン自身には興味がないって言ってましたよ?」
「あたしから見れば、そうは見えないけどなあ。何かとアディンアディン言ってるし」
「そう、ですかね?」
アルはぱっと来てないような感じで、トリアにそういった素振りがなかったかと思いだそうとして見るが思い当たるような事はなく首をかしげる。
むしろ思い浮かぶのはアディンとトリアが意見をぶつけ合い、アイデアスケッチを量産する光景だ。
その大半がエリマの前に持ってこられ、そして実現可能かの鍛冶科全体での会議になるまでセットで想像できた。
「そういうエリマ先輩はどうなんですか?」
「あたしか? あたしはそんな浮ついた話はないね。ははは」
と胸を張って笑い飛ばす横で、アルツの顔が明らかに曇った。
(アルツ先輩。頑張ってください……)
アルツの想いはしばらくエリマに伝わりそうにない。そう思うアルであった。
一方そのころ。ヴィールは校舎の屋上に寝転がっていた。
何故ならば他の三人はそれぞれ何らかの新兵器や新技術の開発に携わり忙しくしているが、それらに関わらないヴィールは彼等がその作業にいそしんでいる間はやるべきことがない。
しいて言うならば訓練といったところだが、正直一人でやっても仕方ない。
「基礎体力は……必要ないな」
アディンの実験に付き合って、その失敗による爆発から逃げる為にとにかく走る事が多く、体力は勝手にできている。
おかげで咄嗟の状況判断能力と瞬発力。そして何よりも回避能力は向上した。よって肉体の強化は今更やらなくても大丈夫だろうと判断した。
では普通に勉強でもするか、とはならない。
平均点を取り続け、落第さえしなければそれでいいと考えるヴィールにとって勉強というのはただ面倒なものでしかない。
よって、ただこうして無駄に時間を費やしている。
「しっかしなあ。みんな好き勝手やりすぎだぜ」
騎士科の授業には一応出席しているが、それ以外の時間は騎士科とは直接関わりのない学科のところで過ごしている。
結果的にアディン等三人は騎士科との繋がりが薄くなっている。少なくともヴィールはそう感じている。
まあ、アディンに限って言えばサギールと顔を合わせなくていいというのもあるだろうが。
「どうした、そんなに黄昏てさ」
「おう? アディンか。どうしたんだ。格納庫で作業してなくていいのか」
「エリマ先輩がアルとトリアのほうの実験に付き合ってるから作業もクソもなくてな」
ようは、何もできないから暇を潰しに来た、という訳だ。
アディンはヴィールの隣に座りこむと手元のスクラップ帳を開く。
「それは?」
「アルとトリアのアイデアを箇条書きにしたもの。結構ぶっ飛んだのもあるから見てみるか?」
「うーん」
いつもならば興味がないと断る所だが、気が向いたというか魔が刺したというべきか。
「ちょっと興味あるかも」
アディンから受け取ったスクラップ帳に目を通すと、確かにとんでもないことが書かれていた。
「脚部の完全撤廃って……これどっちのアイデアだ」
「トリアだな。脚部を完全に無くして、丸ごとエーテルリバウンダーに換装するって話だ」
「無茶苦茶だな。絶対まともな操縦できねえぞ」
「だと思う。まあ全部マニュアルで操縦するっていうんならそう難しいことじゃないんだろうがな」
「いや。そもそもヘクスイェーガーの操縦にマニュアルとかねえだろ」
「そう思ったんだけど、エリマ先輩が面白がっちゃって。一応先輩には俺のほうに回ってもらいたいから、別の班が試作中」
「え、マジでやってんのこれ」
面白がってやるにしてはやや規模の大きな話である。
下半身丸ごと新造となるとかなりの規模の資材が必要となるはずだが、いくつもの企画が同時進行している異常資材はもとより資金も当然不足するはずだ。
「やっぱ不足分は」
「陛下のツケで」
無限に金が出てくるスポンサーがいるとやれる事が大きくなるな、と思うのと同時に、アディンには絶対与えてはならないものだなとヴィールは痛感した。
レヴァンダは笑い飛ばしているだろうが、その周囲の人間の胃に穴でもあくんじゃないだろうか。とくに財務関係の人間は。
「んで、こっちのは……サブアーム?」
「そっちはちょっと真剣に考えているけど、ちょっと複雑化しそうなんで保留。だってほら、人間は腕三つも四つもないからさ」
「ああ。なるほど」
ヘクスイェーガーの操縦は操縦する人間の意思が重要となる。
自身の身体を動かすかのようなイメージを持ってこそ、初めて五体を自由に操作できる。
逆に言えばイメージできない部位が追加されると、そこを動作させることは出来ないということである。
機械的な動作をする部位ならば機体のほうのサポートだけでどうにかできる。実際、テントウムシを装備した際は機体のほうで動作の処理を行っている。
だがサブアーム、つまりは本来の腕とは異なる第三の腕となると話は別だ。
人間の腕のような滑らかな動きを要求するのであれば、機械的な処理をすることは困難になる。ならば通常の腕と同様の操作方式にすれば、という話になりそうだが、そこでぶつかるのがヘクスイェーガーの操縦方法と言うわけだ。
「だが、もしサブアームが実用化されれば面白い事になるぞ」
にいっ、とアディンが悪戯っぽく笑う。
こういう笑い方をする時、アディンは大抵の場合先の事まで考えに考え妄想が膨らみまくっている時だ。
「まず単純に手数が増える。腕が増えれば攻撃回数が増えるというのは当たり前だ。それだけじゃない。懸架している装備をわざわざメインの腕を動かさずに手元に持ってくる事も可能になるし、目に見えない場所に隠せば不意打ちにも使える。ざっと考えただけでもこれだけの使い方ができる。それこそ使い方は人それぞれだろうけどな」
「でも、現状は難しいんだろ?」
「ああ。エリマ先輩も専門から外れるとかでお手上げだ」
「というかさ。お前等これだけやっててなんで学園からストップかからないんだ?」
「そりゃあ、陛下の名前を出せばイチコロよ」
そうだった、とヴィールは顔を覆う。
国王の名前に逆らえるほど度胸のある教諭はこの学園にはいない。というか、そんな人間などこの国にはいない。
一見傍若無人かつ不敬不遜の権化とも思えるアディンですら立場をわきまえてある程度下がった態度をとるほどだ。
――実際に面会した時のアディンの態度は不敬不遜そのものだったが。
「で、ヴィールは何かアイデアはないのか?」
「俺か? そうだな……」
スクラップ帳のページをめくりながらも、何かないかと考えを巡らせる。
メモが書かれたすべてのページをめくり終えた後、自分の考えを口に出す。
「使い魔ってさ。基本プレスガンの威力があれば一撃で倒せるんだよな」
「実際、試作型のもので十分通用するな」
「ならプレスガンをもっと小型で連射性の高いものにできないか? そうすれば取り回しもよく弾幕を展開して効率よく使い魔を撃ち落とせる」
「プレスガンの小型化か。一応やってはいるんだけど、連射性の向上は考えてなかったな。となるとその逆もありか。ありがとう、ヴィール。いいアイデアだった」
ヴィールの手元からスクラップ帳を取りあげると即座にヴィールとの会話を箇条書きにしていく。
「んで、話は変わるんだけどさ。アディンのやってるメインの実験。あれどうなんだ?」
「正直手詰まりだ。ただ、解決できそうな人間をエリマ先輩は知っているって言ってたけどさ……」
「どうしたんだ。知ってるなら話が早いじゃないか」
「なんか、俺でも引くレベルの人物なんだってさ」
「それは……なんていうか、その」
興味が湧くと同時に、その人物は本当に大丈夫なのだろうか。そうヴィールは思うのであった。




