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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第五章 魔神編
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燃えるオウカ 4

眼前に広がる巨大な穴。

魔神シオウルを弾き飛ばした光の柱が生み出したそれは、奈落の底に繋がっているようにも、冥界の入り口のようにも見え、見るものに深淵への恐怖を想起させる。

「トリアさん、何か見えますか」

「何も。まさに深淵って感じ」

「こっちもなにも聞こえない。静かすぎるな」

シオウルが弾き飛ばされてからとしばらく経ったが、目立った動きはない。

この静寂こそが不気味で、穴を覗き込んでも何も見えず、耳を済ませても何も聞こえないという異常さ。

確実になにかある。何かがいる。

「あっ、魔神が……」

ラミターがシオウルが再び穴に向かっていこうとするのに気付き声をあげる。

シオウルは穴の上空で静止すると、下腹部の砲門を開く。

「あれは報告にあった……だとしたら不味いぞ!」

「アル!」

「総員、全速で後退! 対閃光防御!」

アルの号令にすぐ反応できたのは、事前にそれがどういうものかを知っていたウーノと異変に気付いたヴィールとトリア以外ではタロスユニットを装備したアトロフォスを駆るディウフのみ。

学生たちは意味もわからず棒立ちの状態であったが、後退してきたアル達にワイヤーで引っ張られ強引に後退させられる。

直後にシオウルの下腹部から閃光が放たれ、周囲が一瞬白く染まる。

穴に吸い込まれていく閃光を中心とし、その周辺の木々が燃え始め、岩肌が溶け出す。

それだけでその閃光がとんでもない熱量をもったものであると嫌でも理解させられる。

だが驚愕するのはその閃光を押し退ける何かが地の底から()()()()()()()()()いうことである。

「……嘘だろ」

ただただ言葉を失う。

実物を見たことがなかったとはいえ、その攻撃力については痕跡から理解していたつもりであった。

だからこそ、それに耐えられる存在がいるとは考えもしなかったのだ。

『――――!!』

閃光が消えると共にシオウルが吼えたように見えた。

それに応えるように地の底から現れたそれは四枚の花弁を開き、その姿を(あらわ)にする。

「あれが魔神……なの?」

まるで人の姿をした花。そう形容するのが相応しいそれに、一種の神々しさのようなものを感じ、先ほどまでとはまた違う沈黙が生まれる。

下半身が癒着したその姿も相まって胸像のような印象を抱かせたのだろう。だが、決してそのようなものではない。

「っ! 各機攻撃開始! 攻撃目標、地下から出現した魔神!」

号令が飛ぶ。

瞬間、無人のヘスティオン達が一斉にプレスガンを構え、スクロール弾を目標めがけて放つ。

次々と着弾し、魔女すら直撃すれば無事ではすまない爆発が起きるも、花のような魔神は気にとめる気配すらなく、傷一つ見当たらない。

「ビクともしねぇ」

「魔神は魔神に任せるしか……」

「いえ、そんな事はありません。この世界に存在する限り壊れないものはありません」

そう。アルが言うとおりこの世に存在している限り、ありとあらゆるものは滅びからは逃れられない。

それはたとえ再生能力を有しているとしても、魔神が人の手によって産み出された存在である限り例外ではない。

「エリマさん、シオウルの破片から推定される破壊に必要な火力は判りましたか?」

『一応は。ただ失敗したら取り返しがつかないぞ』

「は? 取り返しがつかないってどういう……」

『割り込んですまんな。エリマとシュデム、そして俺の三人で割り出した必要火力はヘクスイェーガー一機分だ』

そうアルツが告げたが、その言葉に疑問符を浮かべる。

ヘクスイェーガー一機分の火力で倒せるわけがない。

『ああ、勘違いしてるようだが、ヘクスイェーガー一機をマナバーストさせた時並の火力って話だ』

「マジかよ……」

「スクロール弾じゃ足りないんスか?」

「あれは確かに強力なものですが、ヘクスイェーガー一機のマナバーストに比べたら非力なものですよ」

『おまけにあの大きさともなると傷はついても完全破壊は不可能だな』

「マジっスか」

アルとエリマの解説を聞いたラミターが顔をひきつらせる。

マナバーストによって破壊が可能ということは判明したが、それでも五体満足な魔神相手では致命傷になり得ないと言われればそういう反応にもなる。

「アル、下から何か来る。それも大量に――え?」

トリアの困惑したような声で、アルは魔神の現れた穴のほうを向く。

そしてトリアが困惑した理由を理解した。

穴から現れたのは無数のヘクスイェーガー。ただしそれは全うな姿をしておらず、本来のものと言えるパーツはごく一部。

それ以外の部位は(いぶ)した銀のような色をした何かで構成されている。

ぐねぐねと(うごめ)き、しかしその姿は本来の機体を元にした姿を再現している。

「な、なんスか、あれ」

「誰も解らないんから聞くだけ無駄だと思うんスけど」

「んなこた解ってるっス! でも、あんなの……」

「ラミター、ディウフ。お前らだけで会話すんな紛らわしい!」

姿こそ、形こそ自分達のよく知る機体を模している。

ヘスティオン、ズワウル、そしてアターカ。

現在のオウカ国で存在しうる機体ばかりであるが、最後の一機種が出現したことで今までは確実視されながらも推測の域をでなかった、これまで起きた一連の騒動がアドルミデラによるオウカ国への攻撃が原因である、という事が確定した。

だが同時に――この事態は彼等が魔神の力の制御に失敗したという事を証明していた。

『……たす、け……』

距離があるためかはっきりとは聞き取れなかったが、それはくすんだ銀色に飲まれた機体の操縦席からの声であった。

何が起きているかは想像のしようもないが、十中八九ろくなものではない。

「アドルミデラの人間が助けを求めた……?」

「トリアさん?」

「あいつ等は名誉のためなら自決や自爆も辞さない。敵にすら助けを求める程の事が……」

「やめてくれトリア嬢。それ以上は想像したくない」

生きた人間が中にいる。それを機体ごと取り込んだ何か。

ヴィールの言うとおり、中の状態は想像もしたくない。だが、同時に誰しもが最悪の想像をした。

――あれに触れたら自分も飲み込まれるのでは、と。

「各自、攻撃対象変更。穴から出てきた正体不明機(アンノウン)を攻撃。ただし、近接戦は厳禁!」

「ちょ、アル先輩。魔神のほうはいいんスか?!」

「ラミター、落ち着け。魔神は魔神に任せればいい」

「そんな、無責任な……」

「そう? あの正体不明機(アンノウン)を放置する方が不味いと思うけど?」

「想像したくないと言った手前あれだが、考えても見ろ。人間ごと機体を取り込むような奴を野放しにしたらどうなる?」

「それは……」

次々と機体を取り込み勢力を拡大させていく、というのは容易に想像できる。

かつ現状はまだヘクスイェーガーだけであるが、あのくすんだ銀色が無機物全てを取り込めるのだとしたらその拡大速度は爆発的とも言えるものになりうる。

「常に考えられる限りの最悪を考える。アディンさんならそうします」

「アタシ、その人の事詳しくないっスけど変わった人なんスね。楽観的のほうが楽しいのに」

「まあ、本人はほぼ必ずその最悪以上の最悪を呼び込むがな」

「そしてそれを覆すだけの力を持っていた」

「流石は私の息子」

「ちょ、待って欲しいっス。情報過多な上にそれだけ聞くとただのトラブルメイカーにしか聞こえないんスけど?」

強く否定できないアル達はわざとらしい笑い声ではぐらかした。

「ラミター、知らないんスか。この人たち()()第十二班スよ」

「あっ……なるほど。トラブルのマッチポンプしてたっていうあの」

「……聞き捨てならないが、今は追求してる場合じゃないな」

「片っ端から撃ち落とす」

ヘカティアが放った最初の弾丸が正体不明機(アンノウン)の胴体を直撃し、真っ二つにする。

「今の通常弾なんだけど……」

「なんか紙を指で突いたみたいな千切れ方をしたな」

「防御力はあまり高くない……?」

正体不明機(アンノウン)が一斉にヘカティアの方を向き、速度を上げる。

あれこれと考察している時間もなく、戦闘は始まった。

その戦力比は――考えるのもバカらしいほど圧倒的に不利である。




魔神達にとってヘクスイェーガーの攻撃など、言ってしまえば人間が蚊に刺されるようなものである。

痛くはない。だがかゆい(うっとうしい)

無視したところで実害はなく、ただただ不快なだけ。

それよりも眼前にいる相手(魔神)のほうがよっぽど危険である。

と、なれば周囲を飛び回るヘクスイェーガー(羽虫)など相手にせず、魔神のみを相手にしようと考える。

『……!』

『――――!!』

シオウルが吠えた。

同時に額の周辺が瞬き、閃光が放たれた。

極めて短い時間。瞬きすればそれが攻撃であったという事すら認識できないようなわずかな時間で放たれたそれは、魔神アルテリア――それと同等の戦闘力を得た分身体の身体を容易に貫通した。

だがしかし、()()()()()()()の損傷ではすぐに再生してしまい決定打にはならない。

あくまでも牽制。あるいは挑発。

アルテリアの分身体もそれは理解している。

ならば、と四枚のバインダーを全てシオウルに向けて返礼する。

四つのバインダーから連続して放たれる閃光の雨がシオウルに殺到するが、シオウルは当たらないと判断したものや掠める程度のものは無視し、直撃しそうな攻撃のみを拳で叩き落として防ぎ切った。

互いに挨拶代わりの攻撃が終わると、シオウルが一気に距離を詰めた。

接近戦を得意とするシオウルと、圧倒的な攻撃範囲と弾幕によって接近される前に敵を倒すアルテリア。

現在の距離ではアルテリア分身体のほうに分があるが、距離を詰めることができればシオウルは一撃必殺を狙える。

事実シオウルは閃光の弾幕を捌きながら距離を積めていき、アルテリアもまたそれに気付き弾幕の密度をあげる。

『――!』

だが突然、弾幕が途切れた。

それを好機とみてか、シオウルは一気に加速。距離を積めて必殺の一撃を放つ。

『…………』

『――――』

確かにそれは必殺の一撃だった。

速度がのり、狙った位置も致命傷になりうる場所であり、確実に機能を停止させることのできる一撃だった。

だが、それはわかりきった攻撃でもあった。

シオウルの放った貫手(ぬきて)はアルテリアの全身から延びる触手によって縛り付けられ勢いが死に、普通ならば貫通まではしない触手が、自身の速度を利用されたことにより下腹部から背中へ抜けていた。

分かりやすいブラフにひっかかった。

そう気付いたところで遅い。

無数の触手がシオウルの全身を締め上げ、その圧力に装甲が歪み、砕け始める。

締め上げる力は増していき、身動き一つ取れなくなったのを確かめたアルテリアは四つのバインダーを全てシオウルに向けた。

『――――!』

必滅の意志を持ち放たれた四つの閃光が一つに混じりあい、巨大な閃光の渦となった。

閃光の渦はシオウルを撃ち抜き、拘束していた触手を焼き付くしてなお勢いを衰えさせず、拘束から解放されたシオウルの装甲を直接焼きはじめる。

焼かれた装甲が再生するよりも焼け(ただ)れ熔ける速度の方が早く、その身は少しずつではあるが破壊されていく。

シオウルは熱線に焼かれながらも、その奔流の中を(さかのぼ)り、執念深くアルテリアに近付こうとする。

が、突如諦めたかのように動きを止めた。

直後。アルテリアのバインダーが()()()()()()()()()

混乱した様子のアルテリアにシオウルが急接近し、貫手を構える。

それに反応し触手で攻撃を阻もうとし、実際にその致命傷になりうる一撃は放たれると同時に絡めとられて胸に触れる直前で止まった。

先程とにた状況である。だからこそアルテリアもシオウルを再び拘束しようと触手を伸ばす。

だがそれらがシオウルに触れるよりも早く、アルテリアの胸部装甲に()()()()()()()()()()()()()()()

『――――!!』

シオウルが触手を引きちぎりながら吠える。

それはどこか歓喜に満ちたような叫びであり、同時に自分をここまでいたぶったアルテリアの模造品へ叩きつける死刑宣告であった。

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