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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第五章 魔神編
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入国

三機の機体が雲海から次々と飛び出してくる。

ヴァナディス、アルトエミス、ヘカティアだ。

「こちらヴァナディス。敵はまだ残っていますが、発見した母艦は全て沈めました」

『了解した。こちらも今オウカ側と話がついた。あとは警備部隊に任されよ、との返答だ。各機帰還後、アル・イスナインは自分に直接報告。ラミター・パラヴィーナは休め』

ガドルの指示に従い、バトルコスモスに向かう三機。

その後ろからはオウカ国の警備部隊が次々と雲海の中に飛び込んで行く姿が見える。

戦いは終わった。そう実感した瞬間、ラミターは急に手が震えだした。

「お疲れ様でした、ラミターさん。今日はゆっくり休んでください」

「こんなことが続くんスね……」

「魔女を相手にするよりはマシですよ」

「っ……!」

ラミターにとっては十分に恐怖を感じる状況であった。

だが魔女との戦いはそれ以上であると聞かされれば、萎縮もする。

「まあ、私達は結構な頻度で魔女と戦ってますからね。感覚か麻痺してるだけかもしれません」

などと複雑な顔をしながら言うアルに、何と言葉をかけようかとラミターが迷っている間にヴァナディスはデッキに降り立ち、そのまま格納庫へと向かうのであった。

出撃した機体達が次々と着艦し、全機収容を確認した後、バトルコスモスはオウカ国の港バイカへ向けてゆっくりと進む。



港町バイカ。

いくつか存在するオウカ国の出入口にして、西部最大の軍港を有する軍事拠点でもある。

かといって軍事色が強いか、というとそんなことはなく、むしろどんな国にも見られるように観光客を相手にした商品を扱う商店や、朝入ってきたばかりの鮮魚を提供する飲食店などが軒を連ねる観光都市としての(おもむき)が強い。

「何処を見ても間抜け面ばかりよな」

人々で賑わう大通りを猫背気味の男が歩く。

いかにもな不審者という雰囲気ではないものの、自然と人々は彼を避けていく。

顔付きが理由か。否。

痩せぎすではあるが、顔は整っていて、もう少し肉付きがよければ誰もが認める美男子と呼ばれるだろう。

では悪臭か。それも否。

身なりは整っており、とても悪臭を放つようには思えない。

では何故避けられるのか。

それは単純に――怖いからだ。

理解はできないが、その男には近付きたくないと思わせる何かがあり、その理解できないという不安が男に対する恐怖に変換され、人々は自然と男を避ける。

「まあ、我等は役目を果たすのみよな」

そう感情のない声で呟きながら通りを抜けて、裏路地へと消えていった。



バトルコスモスが軍港にたどり着くなり、彼等を迎えたのは二人の国王であった。

一人は彼等をここへ呼びつけた張本人であるレヴァンダ。そしてもう一人は言うまでもなくオウカ国女王ルー・オウカである。

「長旅ご苦労。そしてようこそ、オウカへ。歓迎しよう」

「ルー女王自らとは、恐縮です」

デッキにまで現れた女王にガドルは敬礼して畏まる。

他一同も同様であるが、シュデムだけはいつも通り白衣のポケットに両手を突っ込んで不満そうな顔をしていた。

理由は勿論、作業が全部止まったからだ。

一度出撃させた以上は機体のメンテナンスは不可欠。特に稼働部が多い人型の機体は壊れやすい。

さらにこの艦はワンオフ仕様の機体ばかりでメンテナンスの手間はヘスティオンだけの部隊の比ではない。

ただでさえ時間のかかる整備を止められるのはたまったものではない。

「レンナ・ムラクモ以下飛燕小隊各員只今帰還しました」

「ご苦労。帰還早々で悪いが、次の任務を与える」

「お前たちもだ。ガドル。ブリーフィングルームを使わせてもらうぞ。それと、あのアトロフォスについての説明もしてもらおうか」

デッキから見える格納庫の一角が目に入ったらしく、レヴァンダは目以外は満面の笑みをガドルに向けた。

勿論、ガドルは思いっきり目線を反らした。

「まあいいだろう。ガドル。ウーノ・アハットを呼んでくれ。あとはシュデム・セイツェマン、アル・イスナインもだ」

「レンナ。貴女も来なさい」

「はあ……」

ガドルをはじめとしたウィスタリア王国出身者が指名されるのは理解できるが、何故オウカ国出身である自分まで指名される理由が理解できずにレンナはなんとも気の抜けた返事をしてしまう。

「では、向かうとしようか」


場所をブリーフィングルームに移したところで、レヴァンダは適当な場所に座るなり足を組み頬杖をつく。

「陛下、流石に威厳がなさすぎると言いますか、もっと……」

「国王らしく、か? 馬鹿を言うな。しょっちゅう気を張っていられるか。ガドル、この態度はお前たちへの信頼だと思って欲しいな」

「……納得はしかねますが、言わんとする事は理解できます」

「んなことどうでも良いから話を始めてくれる? 私はともかく、整備班のこの子(シュデム)は忙しい筈だし」

「お前はもう少し私を敬え。まあ、構わんがな」

ウーノの言葉を受け、レヴァンダはため息をつきつつあきれた顔で話をはじめた。

「ウィスタリアとオウカ。二国間共同の技術開発部隊の設立が決まった。バトルコスモスはその旗艦となる」

「部隊? ではバトルコスモス以外の艦艇も加わる、と」

「ああ。具体的にはコスモス計画に基づく特務戦闘母艦が二隻」

「どちらもオウカで建造されたものだ。何せ小型化はうちの十八番だからな」

「なっ、陛下。コスモス計画とはウィスタリア単独の計画ではなかったのですか?!」

「そう叫ぶなガドル。コスモス計画の艦艇は皆大型艦。あの口うるさい大臣達がそう易々と新造艦を複数同時に造らせると思うか?」

レヴァンダの言うとおり、彼と大臣たちの関係はあまりよくない。

互いに国を想っての事だが意見のぶつかり合いは絶えず、レヴァンダ曰く平和ボケした大臣達は事ある毎に戦力増強の邪魔をしてくる。

「こちらとしてはオウカの金と資源で新造艦を入手できる」

「オウカとしてはウィスタリアの技術を得られる。特にプレスガン。あの技術を得られたのは大きい」

「プレスガンを売りたい奴等からすれば顧客がひとつ減ったと聞いて頭を抱えてるだろうな!」

レヴァンダが豪快に笑う。

(もしや、ただの嫌がらせで他国を巻き込んだのか?)

その可能性はないだろう、とガドルは一度は浮かんだ考えを否定した。

だがレヴァンダならば、と考えたときにはやはり()()()()()()と思ってしまう。

「そもそもコスモス計画とは慢性的な居住地不足を人工の大地で解決しようというのが最大の目的だ。衣食住の全てを内部で解決出来なくては話にならない。その実現に必要な技術ならば、たとえそれが自国の技術以外であっても利用する。今回は同盟国でもあるオウカだったというだけの話さ」

「艦艇造らせてたくせに脅しをかけてくるのだから、全く……」

「あの、脅しとはなんでしょうか」

「気にするな。細事だ」

とても穏やかとは思えない単語が飛び出しだが、当事者であるルーが細事と言っている為、誰もそれ以上追求できなかった。

ただ確かなのはレヴァンダがなにやらやらかしたという事くらいである。

尤も、その切っ掛けはこの場にもいるレンナが機密を喋ったからなのだが。

「コスモス計画はアキザクラ級特務戦闘母艦オオハルシャおよびキバナの完成により第二段階に進む。具体的には……」

「単機で高い戦闘力を持つ拠点防衛用の機体の開発。並びに従来機から性能を落とさずにコストを下げた新型量産機の開発」

「ちょっと待つのである!」

ここにきて不機嫌そうな顔をして沈黙し続けていたシュデムが声をあげた。

「単機での戦闘力向上は不可能ではない。事実アルトエミスは従来機を凌駕する性能を発揮しているのである。だがそれも()()()()()。それにその言い草からして従来機とはヘスティオンやラキシスではなくアルトエミスの事を指すのであろう? あれのコストダウンは限りなく不可能に近い。何より造れたとしても、アルトエミスを再現できない国の工廠では量産化など夢のまた夢である! 事実、あのアトロフォスとかいう機体。簡易版アルトエミスと言って差し支えない構造をしていたであるしな」

「確かに、工廠では再現はできなかった。だが簡易版は造れる。つまりは技術としてはそう大きく遅れはとっていない」

「では拠点防衛用機体はどうするのであるか」

「単独で高火力を出せる機体であり、工廠でも造れる機体ならなんでもいい」

「無理難題を言うであるな……」

「アトロフォスを勝手に改造した罰則だ」

そう言われると弱い。シュデムは諦めてレヴァンダの命令を受け入れた。

「コスモス計画についてはこのくらいにしておいて、行方不明になったアディン・アハットについてだが、魔神シオウルと共に行動しているのなら最優先で捜索すべきだと私は考える」

「では、どうするのです?」

「あえて()()()()

そうレヴァンダが告げた瞬間にウーノがその胸ぐらをつかんだ。

その形相は悪鬼か何か。怒りに満ち満ちた、とても一国の王に向けるようなものではない。

「落ち着け、ウーノ・アハット。探さないとは言わない。だが、あてもなく探し回るのが無駄だという話だ」

「黙っているのも飽きた。私から説明しよう」

胸ぐらを掴んだまま、ウーノの視線はルー向けられた。

「魔神の存在が確認された以上、世界各地にある伝説や伝承はかなり正確な情報ソースになると判断した。そして、魔神同士が争ったという記録を見つけた」

「魔神同士が、ですか?」

「魔神の力を抑え込むには魔神の力、と言うことだろう。記述のある四体のうち唯一シオウルだけがすべての魔神と戦った、とあった。原因は魔神の暴走。あるいは悪意のある何者かの制御下にあるか。その点を踏まえ、シオウルは魔神に対するカウンターとしての役割を持たされているのではないか、と我々は推測している。つまり……」

「アドルミデラに魔神を使用すれば、自ずとシオウルは現れる、と」

「そう言うことだ。故に、現在は確実にシオウルを呼び出すための準備期間、という事だ。納得してもらえたか?」

「……一応。で、期間は?」

「アドルミデラの所在地がわかり次第、としか言えん。その間に徹底的に戦力を増強させる」

ここでようやくウーノが手を離す。

「つまりは、アドルミデラを追い詰めればアディンさんにも近付ける、という事ですね」

「その通りだ、アル・イスナイン。そして、その切り込み隊長がお前の部隊になる」

「はい?!」

突然の話でアルはすっとんきょうな声をあげてしまう。

「当然だろう。お前たちの機体が一番突破力があるんだ」

確かに現状アルトエミスとその改造機を有するバトルコスモスの戦闘力は突出している。それを使わない理由はない。

「さて、少々長くなったな。とりあえずはオウカにしばらくは滞在。その間に新たに編入されるメンバーとの親交を深め、隊としての錬度をあげてほしい。そして、新兵器の開発もな」



その魔神は、眠っていた。だが確かに感じていた。

己と敵対する存在が近づいているのを。

だが、動くことはなかった。と、いうよりは動けなかった。

その魔神には自分で動こうとする意思がなかったから。

意思がなく、自ら動くことができないその魔神はただその時を待っている。

「美しいな、アルテリア」

魔神の名はアルテリア。

シールドを兼ねる花弁のような四つのバインダーと、突撃槍のような形状をした下半身を持つ、異形の魔神。

彼あるいは彼女は声をかけてくる男を認識していない。

あくまでも魔神は機械。直接操り指示を出す人間がいなければなにもできないし、認識もしない。

だが。アルテリアは感じている。

近づいている。自信を脅かしかねない何かが近づいているのだと。

「お前の出番はまだ先だ。手札はまだ見せることはできんのでな」

そう告げられた直後、魔神は咆哮し覚醒。

拘束具を引きちぎろうと暴れだす。

「……まさか、近付いているのか?」

流石に尋常ではない反応に男も気付く。

直後に空間が歪み、巨大な腕が飛び出した。

「ここを嗅ぎ付けたか、魔神シオウル!」

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