#01-12 赤の休日
4/15の分です……
間に合いませんでした……申し訳ない
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武具の能力の発現によって遊朱は爆発的に戦闘能力を上げていった。ステータスのタイプ的には平均的で欠点がない様なタイプだったのだが、予知による超人的な反応やさらに強化されることになる。
元々、異常なまでにセンスは良かったためか成長も早く、経験が圧倒的に足りていない以外は隊長たちにも迫るものとなった。また、その訓練に嬉々として付き合っている咲良も大きく成長していた。
訓練所で汗だくになりながら打ち合っている咲良と遊朱を、ため息をつきながら若葉が制止する。
「あなたたちね、あんまり対人戦闘に慣れてもらっても困るんだけど」
「じゃあ、シミュレーター使わせてくださいよ、若葉さん」
「あなたたち、Lv.2をソロで狩るのにLv.2以下の設定しかできないシミュレーターが何の役に立つの?」
「そう言われれば」
「まあ、いいわ。明日から訓練合宿なんだから、今日は早めに帰りなさい」
「わかりました」
「それで、隊長。どこへ行くんですか?」
「言ってなかったっけ?私たちの目的地は、第四世界よ」
「え?界外だったんですか?」
「そうよ。だからそれ用の準備はしておいてね?」
「そういうのはもっと早く言ってください」
「うん、山奥にでも籠って合宿するのかと思ってた」
「遊朱って、考え方結構古風よね……」
「じゃあ、遊朱。荷物も多いだろうし、朝迎えに行くね?」
「え?いいの?」
「いいのいいの」
「というか、咲良。あなた私が想定していなかったレベルで遊朱のこと大好きよね」
「仕方ないじゃないですか、こんなにかわいいんですから」
「そうかな?」
「可愛いのはいいんだけど……最近君たちの間に友情以上の何かを感じることがあるのよね」
「そうでしょうか?」「そうかも?」
若葉はもう一つため息をつくとさっさと帰る支度をするように伝えた。
先日のLv.2の複数出現以降、戦闘する機会もなかったため、管理局内の空気はだいぶ緩んでいる。
そんな中でやる気があるのはいいのだが、少しやる気がありすぎるような気もする。
「若葉さん、データの記録終わりましたよ。二人とも新人とは思えないほどですね」
「そうだね。ああ、愛菜。同行してもらうことになるから、灰柩の申請通しておいたわよ。護身用ね」
「ありがとうございます。しばらく使ってなかったので少し調整も必要ですね」
「まあ、その辺は任せるけど。で、今回はうちの班と、都賀班長のところから早乙女と、後は誰が同行する予定?」
「D班から前川副隊長が同行してくださるようです」
「それはありがたいわね。私も久々に体動かしたいし」
「一応衛生兵なんですから前に出ないでくださいね」
「善処するわ」
「まあ、言ってもどうせ聞かないのはわかってるんですけどね。なんでうちの班は狂戦士ばっかりそろうんでしょうか」
「さあ?」
◆
翌朝、約束通りの時間に咲良が遊朱のうちを訪ねる。
遊朱は遊朱で待ちきれなかったのか、すでに玄関でスタンバイしていた。
「じゃあ、お母さんいってきます」
そういって出てきた遊朱の荷物を車に積みながら咲良が問いかける。
「そういえば、遊朱の両親って遊朱が管理局にいること知ってるんだよね?」
「そのはずだよ?でもガンガン前に出て戦っているとは思わないだろうけど」
「そうね。普通の格好しているとてもそうには見えないわ」
「そんなにかな?」
他愛もない話をしながら順調に車は進み、駐車場に停めたのち、隊室に入り、着替えを済ませる。
そして、携行用の鞄を用意してエントランスで待っていると、若葉よりも先に真琴がやってきた。
「お二人とも、早いですね。おはようございます」
「おはよう、真琴」「おはよ、真琴ちゃん」
「今日はいいお天気ですし、絶好の合宿日和ですね!ところで、お二人はどこへ行くか聞いてますか?」
「第四世界だって」
「え?ほんとですか?――どうりでパスポートもってこいとか書いてあるわけですね」
「でも第四世界ってなにかあるの?何もないから“虚無の世界”なんて呼ばれてたとは思うんだけど」
「よく勉強してるね、遊朱ちゃん」
「あ、前川さん」
前方から同じように荷物を持った前川が3人に合流する。
「若葉さんたちはもうすぐ来るよ」
「そうですか、そろそろ出発ですね」
「それで、第四世界の話なんですけど、小恋先輩」
「ああ、それね。たしかに“虚無の世界”なんて言われてる通り、たぶん3人が思っているよりも何にもないよ。でも、何にもないがゆえに“終末因子”が入りやすくもあるんだよ」
「それってつまり……」
「Lv.1、Lv.2ぐらいならうじゃうじゃいるね」
「わぁー……思ったより辛そうですね」
「楽しそうね」「楽しそうですね」
「……えっと、お二人元も正気ですか?」
「この反応は私も予想外かな?」
そして、数分遅れて若葉と愛菜が合流する。
「ごめん、待たせたね。さ、いこう」
宿泊施設は向こうにあるらしく、今日からのゴールデンウィークの間はそこに泊まるらしい。機材なども無効にすでに準備しているのか若葉と愛菜の持ち物は最小限だ。
観光客からの奇異なものを見る目線を受けながら、専用のカウンターで審査を受け、ゲートの近くまでやってくる。
遊朱にとってはこれが初めてのワールドゲートになるが、その行き先が第四世界になるとは、驚きだった。
観光地ではないが、中継地点として必ず通る第四世界。そこには多くの中継地点を管理する役割として、管理局の本部が設置されている。住んでいる人間も多少はいるが、基本的には何もない世界。
遊朱が咲良たちとともにゲートをくぐると、そこには今までと同じようなターミナルの風景があった。
隣にもその隣にもゲートがあり、床にはGATE No.20401第2世界“日本国東京”と大きく書かれている。
「ここが?」
「あ、向かいのゲートくぐれば第1世界の東京ですね?」
「残念だけど、今日はダメだよ。さ、ついてきて」
ゲートが並ぶ間をすり抜け、局員用の通路へと入る。
しばらく進むと窓があり、そこから見える風景を見て遊朱は息をのんだ。
そこには本当に何もない白紙の世界が広がっている。
太陽とか月とかそういう概念もなく、今この場所は室内に設置された蛍光灯によって影が出来ているが、そもそも影もできないだろう。
「感動的でしょう?何もなさ過ぎて」
「そうですね。なんか頭おかしくなりそうです」
「そうだね。これは流石に精神的にきついものがあるかな」
「でも大丈夫、ほら、あそこ」
何もないはずの白い白い世界の上に黒い影が落ちた。
影なんてできるはずもないので、確実に影獣だろう。
「とりあえず、ここは重要な拠点だから、あの黒いシミを掃除するのが私たちの仕事だね」
「みなさん、先に部屋割り当てるのでついてきてください。そのあとはお昼まで延々狩りですので」
「うわぁ……ハードだねぇ」