#01-11 期待の新人
「遊朱!気を付けて!―――やっ!」
遊朱のことを気に掛けつつ、咲良は狼の前を斬り飛ばした。
激しく噴き出す黒い液体。しかし、それも少しの間で徐々に足が治っていくのがわかる。
「咲良さんの“浄化”の能力ありでこの回復力とは、さすがLv.2ですね!」
すぐにでも援護に入りたい真琴だったが、依然として増加し続ける狗を減らし続けるのに精いっぱいだった。
『咲良さん、最大活性度92%。平均も80%代ですね』
「よし、記録更新」
『遊朱さん、大丈夫ですか』
「だいじょーぶです!」
Lv.2の前足がアスファルトを削り取るのをふわりと回避しながら、空中で槍を構える。
「行け!」
着地と同時に地を蹴り、突撃。
真っ直ぐ狙うのは、前回と同じく胸。
しかし、敵の方もそう簡単にやられてくれるわけもなく、遊朱の動きに合わせてその大きな前足で前方を払う。
しかし、その行動をすでに視ていた遊朱は、急加速し、Lv.2のサイドに回り込むと槍の刃で腹を引き裂いた。
呻く狼に容赦なく追撃をかける遊朱。
前面に回り込むと胸部へ一撃。さらに、脚の数か所へ連続して斬撃を叩き込む。
全身から黒い血を流しのた打ち回るLv.2。
「うーん……普通の動物なら動けなくなるぐらい腱とかそういうところ狙ったんですけど、普通に動きますね」
「うわぁ……あなた悪魔ですか、遊朱さん」
軽く引いている真琴。一方咲良は、遊朱に負けじと攻勢に出ていた。
この狼の動きのパターンはある程度予測できる。
一番隙が大きいのは、大きく前足を振るう攻撃をした直後だ。そして、その攻撃が今まさに来た。
身体を横に移動させ、加速。
一気に胸の下まで潜り込んで斬り上げる。
「遊朱は、攻め続けてたわね?」
斬り上げてからすぐに太刀を構え直し、右前脚を斬り飛ばす。
痛覚があるのかどうかはわからないが、とりあえず苦しんでいる。つまり、隙だらけだ。
一瞬距離を開けたところに、一時的に余裕のできた真琴がエーテルエネルギーの弾丸をLv.2の頭に叩き込む。
「ありがと、真琴」
「いえいえ」
咲良は大きく怯んだ、狼の首を斬り落とした。
咲良がLv.2を仕留めた時点で、遊朱の戦闘も終盤に近付いていた。
こちらの攻撃は当たらず、ほぼ必中の遊朱の攻撃を受ければ相当なダメージを負うという状況に狼は満身創痍だった。
『影獣が戦意喪失するっていうのは聞いたことないですね……』
「咲良の方も片付いたみたいだし、こっちもトドメかな?」
構えを変える。
先ほどまでより低い姿勢。
「弐の型――駆虎」
今までよりも速い速度と、逃れようとする体を押さえつける覇気。
喉元にその長い刃がずぶりと刺さり、そのまま食いちぎる様に刃を跳ね上げる。
『反応消滅。お疲れ様でした』
「Lv.1は?」
『そちらは大丈夫かと』
親の消滅によって一斉に散らばり始めたLv.1の狗たちを真琴は一匹たりとも逃すことはなかった。
連続使用がかなり難しい“視野”“観察”“隠蔽”の3つの能力を連続して使用し続け、狗たちが逃走する先へ回り込み一匹づつ射殺していった。
「こちら真琴。全部狩り終りましたよ」
『お疲れ様です。あとは防衛班に任せて帰投してください』
「はーい」
「真琴ちゃん、能力の連続使用きつくないの?私、“予知”の使い過ぎでかなり疲れたけれど」
「ボクは精神がかなり高いですから問題ないですよ。まあ、“予知”なんて負担かかりそうな能力は正直誰が使ってもキツイと思いますけど……」
「私には無理な芸当ね。2人とも能力を上手く使えて羨ましいわ」
「ボクの場合は精神面が強い代わりにフィジカル面が微妙ですから、咲良さんが羨ましいですけど」
「こういうのはバランスがいい方が強いのよ。つまり遊朱みたいなのが最高」
「え?私?」
『あの、とりあえず、帰ってきてくださいねー』
「あ、ごめんなさい、巽さん」
報告もしないといけないので真っ直ぐ管理局への戻る。
管理局への帰り道で走る防衛班とすれ違ったが、向こうには戦闘終了の連絡は言ってなかったのだろうか。
何故か全員が武装状態だったのだが。
「ただ今戻りました」
「お帰り!咲良!遊朱!」
「わわ!?若葉さん!?」
「いや、びっくりしたわ。少し大阪まで行ってる間に実戦デビューしてるんだもん。しかも、3人でLv.2を2体とLv.1を25体。びっくりするほどいい成績ね!うん怪我もないみたいだし!」
咲良と遊朱を抱きしめたまま、彼女の能力である“治癒”と“活性”を発動しているようで2人の身体から小さな傷や疲労が消えていく。
「一応、ボクもいるんだけど――まあ、ボクは抱きしめられるわけにはいかないか……」
「一応男だもんね、あんた。でも、私の見込んだ通り結構いいチームだったみたいね。遊朱の武具能力も発現した様だし。都賀班長にもいい報告しておくわね」
「お願いします」
「とりあえず、報告書は私と愛菜でやっておくからシャワー浴びてきなさいな」
「えっと、このまま咲良と模擬戦してもいいですか?どうせ汗かくので」
「え!?遊朱さん、正気ですか!?」
「うーん、今テンションあがってるから。疲労消してもらったし……」
「私は構わないけど……遊朱の“予知”がどれだけ厄介なのか体感してみたいし」
「相変わらず狂戦士ね……でも、今日の所はやめておきなさい。能力発現したばかりだと精神に負担が大きいから。私の能力じゃ精神力を回復する効果はあんまり見込めないのよね」
「強力な能力ですけど、そういう欠点があるんですね……」
「そう、自分に使えないとかね」
「じゃあ、お風呂行きましょうか。咲良」
「ええ」
「じゃあボクはいったん別行動ですねー。それでは後程」
管理局には局員用にシャワールームや大浴場が設置されている。といっても、大浴場の方はあまり利用者がいないのだが。
特に女性用となればほとんど貸切状態で、湯につかった遊朱はすっかり脱力していた。
「ふわー……疲れはないけど、やっぱりなんかいいねー……」
「そうね。というか、大丈夫?」
「寝ちゃいそう……」
「寝ちゃったら私はどうすればいいの?」
「担いで外に出してくれるとうれしい……というか起こして」
訓練終わりに大浴場に来るのが遊朱と咲良の密かなブームなのだが、ここで他の人間を見たことはほとんどない。
「さくら、さくら」
「どうしたの?――って、きゃ!?」
「咲良、やわらかーい」
「え、ちょ、遊朱!?酔ってるの!?」
「酔ってないよ」
「どうして急にこんな……」
「嫌だった?」
「そうでもないけど……」
「実は前から気になってたんだよね。咲良胸大きいから触ってみたくて。私もこれぐらい欲しいなー」
「でも、戦闘の邪魔になるよ?あと、班長はもっと大きいし」
「うーん……若葉さんほどはいらないけど、私ももう少しぐらいは成長させたい」
「そもそも肉つかないって言ってたでしょう?難しいんじゃないの?」
「あー、それも理由か……」
「そろそろ上がりましょうか。班長も待ってるし」
「そうだね」
「で、今のは正気だったの?」
「どっちだと思う?」
「どっちでも遊朱の事は好きよ」
「―――うわ、それずるいよ咲良」




