#01-10 新たな生活
顔合わせ以降、管理局には咲良と共に結構な頻度で顔を出しているが、実践的なことは一切行わず既に4月の末になった。
ゴールデンウィークには特別な訓練を行うらしいというので少し楽しみであるが、一度も戦闘という戦闘をしないのも面白くない。
大学生活の方は、それなりに友人(基本的には他学科の女子)はできたものの、講義の関係上常に一緒に行動する咲良にべったりになってしまっている。時々、紘奈たちが突撃してくる以外は、うちにいる時間以外は咲良と一緒にいる気がするが、遊朱としては咲良と一緒にいると落ち着くので悪くないかなと思っている。
「遊朱、今日はどうするの?」
「今日も戦闘訓練かな?まだ、“武具能力”とやらも発現してないし……」
「でも何か兆候みたいなのは見えてるんでしょ?」
「あんまりはっきりしたものじゃないからまだ何とも。これのような気がする、ってだけで」
「じゃあ、今日も手合わせする?」
「うん、お願い。あ、でも、少し買い物に寄ってからにしょうかな?」
「何か買いたいものがあるの?」
「服を少し見たいの。あとは本屋さんとかかなぁ」
「じゃあ、一緒にいこっか」
「いいの?」
「うん。私が服を選んであげる」
「まだ買うとは言ってないよ?」
授業終わりの教室のいつもの席で笑いあう二人だが、この二人に一月の間なんとか接触を試みようとした勇気ある男子たちは、遊朱に天然で躱され、最近は咲良に意図して阻まれているためもはや眺めるのが精いっぱいという様子。
そこへ、一人の美少女が加わる。
「ねえ、それボクも行っていいですか?あ、デート邪魔しちゃ悪いかな?」
「あ、真琴ちゃん。大学一緒だったんだ」
「え?言ってなかったっけ?」
「真琴は学部どこだっけ?」
「経営学部だよ?二人とも買い物行ってから訓練行くんだよね?」
「うん。私はそのつもり。咲良ちゃんと手合わせするの楽しいし」
「遊朱さんは視た目から想像できないほどにバーサーカーですからね……」
「真琴も一緒に訓練する?」
「できればおねがいしたいな、って。うちの班も人少ないので小恋さんが空いてるときぐらいしか手合わせできないですし」
「じゃあ、一緒にお買い物行って管理局にいこっか。咲良とのデートはいつでもできるしね?」
「ええ、そうね」
「相変わらずのラブラブなんですから」
「でも、私、真琴ちゃんがどんな服選ぶのか少し興味あるかも」
「そうね。主に売り場とか」
「咲良さん、まさかこのボクに紳士服を着せる気ですか!?」
「それもちょっと見て見たいかも?」
「うーん……それはまたの機会のお楽しみってことで。それで、どうやっていきますか?バスですか?」
「私の車で。今日もう講義ないのよね?」
「ええ」
「私たちもないね」
「じゃあ、すぐ行きましょうか」
向かう先はワールドゲート近くのショッピングモール。
駐車場に入れると高いので、近くの管理局の駐車場に停め、荷物を一度ロッカーにおいてから再集合した。
真琴は事情を知らない人間から見ればただの美少女(外見は完全に女子、声も高めで一人称も“ボク”なので基本気づかれない)なので、綺麗どころが3人集まっている。
そういうわけで、余計なナンパがやたらと引っかかるが、真琴が片っ端から心を折っていいっているため2人には被害はなかった。
「あはは、さっきの2人組、ボクが男だって知った途端凍りつきましたよ!」
「私たちは助かってるけど、真琴はそれでいいの?」
「いいんですよ。だって、こんなにかわいいお二人の目から見てもボクは可愛いでしょ?」
「ええ」
「うん、可愛いね」
「なら問題ありません。あ、あの白いワンピースとか遊朱さんに似合いそうですよ!」
「ほんとね。遊朱、着てみる?」
「え?私の意思は?」
咲良に試着室に引きずり込まれ、なぜかジャストのサイズを持って来た真琴がそれを咲良に手渡す。
「では、ボクは外で待ってますので」
「わかった」
「……いや、咲良さんも試着室から出ましょうよ」
「でも、遊朱はあんまり気にしてないよ?」
「うん?」
「いや、遊朱さんはせめてカーテン閉めてから脱ぎましょうよ!」
地味に常識が欠如している2人を一番非常識な格好の奴が叱るというよくわからない構図だったものの、その後も3人でショッピングを楽しみ、そろそろ管理局に向かおうかという会話をしながらお茶を飲んでいた。
「今からだと、二時間ぐらいは手合わせできますね?」
「今度のお休みにチーム組んで戦うみたいだからしっかりチェックしとかないと」
「出動する機会があればその時にお二人と合わせてみようと思ってたんですが、最近出動もないですからねぇ―――ん?」
ピピピ――というアラートが3人の携帯端末から鳴る。
この付近で影獣が発生する可能性があるという合図だ。
ワールドゲートから少し離れた場所に出現する場合、ある程度終末因子が蓄積されてから、影獣としての形を成す。そして、形ができる瞬間にはかなり大きな負のエネルギーが発生するため観測できるという仕組みなのだが、これが鳴ったという事はあまり猶予はないという事である。
「場所は?」
「ここからだと――管理局の向こう側ですね」
「行く?」
「一端管理局に荷物置いて、着替えましょう」
「それがいいですね」
「もう服が崩壊するのは嫌ですから」
3人娘は全力疾走で管理局に戻り、それぞれのロッカールームで着替えて受付へ向かう。
既に、防衛班が一班分揃っており、部隊長から説明を受けていた。
「どうすればいいの?」
「とりあえず、部隊長がいないから――巽さん!」
「あ、よかった。――いや、よくないか。新人3人じゃ少し心配だけど……ごめん、出てくれる?」
「わかりました」
「リーダーは役職持ってる咲良でよろしくね。基本的に防衛班の事は無視して戦っていいから。数はLv.2とLv.1がそこそこ」
「わかりました。すぐに出ます。私前衛、後ろに遊朱、後衛は真琴」
「わかった」「わかりました!」
「オペレータは私がします。チャンネルはこちらで合わせますので無線のスイッチ切らないでくださいね?あー、もう。こんな時に人出払ってるなんて!」
愛菜が急いで資料と機材を持って奥の部屋に駆け込む。
「じゃあ、いこうか」
防衛班を置き去りに、先行する3人。基本的に防衛班の仕事は一般市民を守ることなので攻撃に参加することは推奨されていない。また、特化戦闘班の邪魔になると判断され場合、遠隔で彼らの使う武器――灰柩がロックされ使用不可になる。
『発生地点はこの先北に200メートルです』
「全員黒柩展開」
そう言いつつ真っ先に太刀を展開し、走り出す咲良。
それを追う遊朱、真琴もそれぞれ展開し一気に加速する。
「真琴ちゃんの武器は……銃?」
「はい!これでも器用なんで、両手同時に撃ちますよ!後衛はお任せ下さい!」
『全員“知覚”と“敏捷”の強化能力を持っているせいかナビゲートしなくてもすぐに距離縮まりましたね』
「あ、いた」
「え?どこですか?」
「向こうの路地裏――あ、違う。あ、ああ、そういうこと、かな?」
「遊朱?」
「遊朱さんが壊れた!?」
『いえ、これは……』
「咲良、5秒後に二本先の路地裏に狗2体」
「!!――了解」
咲良が駆けだし、2人もそれに続く。
「なんか一気に疲れた顔になってますが、大丈夫ですか?」
「大丈、夫。これ、結構頭使うというか―――慣れたからもう大丈夫」
「無茶苦茶ですね」
「白水、接敵――と二体討伐」
「15秒後北西のコンビニの屋根の上にLv.2とLv.1が6!」
「す、すごいですね」
「でもこれあんまり先は見えないよ?20秒ぐらいが限界かも」
『遊朱さんの武具能力の解析終了、記録中に該当する能力なし、よってこの能力は“星見”と登録します』
「知覚系のほぼ最上位じゃないですか!」
『とりあえず、これで期待の新人3人のデータもそろったわけですし』
「来るよ!」
先制で攻撃したのは真琴の双銃で、的確に3体の頭をぶち抜き戦闘不能にする。
「咲良さん、遊朱さん、雑魚は任せて」
「了解」
「よろしくね、っと」
遊朱は大きく跳躍し、牙をむくLv.2を飛び越える。
「咲良、そっちは任せた」
「そっち、ってことは、まさか……」
「もう一匹、出るよ」
黒い靄の集合から大きな体の狼が出現する。
目の前に飛び込んできた遊朱を獲物と認識し、躊躇なく襲い掛かる。




