7-2
その間にジューメは右足の付け根を縄できつく縛り、左腕も同じようにした。躊躇いなく木の枝を抜くと自身の手に炎を纏わせ、傷口を撫でる。炎に焼かれて血は止まり、軟膏を置くと、縄を解いた。兵は脂汗を額に浮かべながら顔を上げた。
「おい、お前の鎧のマント、破るぞ」
「……好きにしろ」
投げ捨てるように言う彼に、ジューメはマントを遠慮なくはぎ取ると対角線に裂いた。適当な大きさの木の枝を拾い上げると、残りの布きれを細くちぎり、兵の左腕へ手を伸ばす。
「……ユー、この布きれ、こいつの口に押し込んどけ」
「え……?」
「今から骨を弄る、間違って舌を噛むかもしれないからな」
ユーは戸惑いながら、ジューメに渡された布きれと兵を交互に見た。彼はどこか面倒くさそうに眉を寄せ、右腕をユーに伸ばす。
「さっさと渡せ、自分で噛める」
恐る恐る近寄り、それを渡した。彼が布を口に咥えたのを確認し、ジューメは左腕を握る。骨の形を確かめながら添え木を縛り付けていき、三角に裂いたマントを縛るとそれを三角巾にし、首にかけた。短い時間で行われたそれに、兵は布きれを吐き出すとジューメを見る。
「別に、オレはタダで助けたつもりはないぜ。……てめぇらの親玉のところ、連れていけ」
「断る」
あまりにも早い返答に、一瞬、会話を聞いていたヴェントは意味を理解できなかった。冷たく見上げる彼の瞳に、ジューメは口角を上げるように笑う。
「オレは、助けてくれと懇願した覚えはない。お前たちが勝手に治療しただけだ」
「だよなぁ? まぁ、あんまりあっけなく割られても、信用ならねぇ。そうこなくっちゃあな」
楽しそうに言うジューメに舌打ちをし、いつの間にか自身の前に膝をついて、見上げるように顔を覗き込んでくるユーへ視線を向けた。彼はわずかに肩を震わせるが、モジモジと手を動かし、目を上げる。
「えっと、名前を聞いてもいい? なんだろう、ずっと……兵隊さんって呼ぶのも、なんかイヤだし……あ、ボクはウィユ=オスキュリート。こっちはヴェント=ラミティで、こっちはジューメ=エンファー!」
兵は、全く、無反応だった。それにユーはがっくりと肩を落とし、立ち上がると、トボトボとジューメとヴェントに近づいていく。
「……ミール=フェーブル」
それは、聞こえるか聞こえないかの声量だったが、ユーは顔を上げると勢いよく振り返った。それから再び彼の前に座り込み、顔を上げる。
「ミールさん! えと、ボクはみんなからユーって呼ばれてるよ。ウィユって、言いにくいでしょ?」
「ユー、あんまり心を許すな。一応、お前の命を狙ってるやつらなんだぞ」
ジューメはそう言って、ユーの体をヒョイと持ち上げた。そのまま空を見上げ、深く息を吐き出す。
朝からは煙ザコに襲われ、かと思えば龍と戦い、会話をし。気が付けばすでに、太陽は山の向こうに傾きつつあった。
「ヴェント、魚を採れるか」
「え? うん、たぶん」
「じゃあ、近くに川があるから、お前は魚を採ってくれ。オレは獣を狩りに行く、ユーはこいつを見張ってろ」
そう言ったジューメを、信じられないと言わんばかりに目を見開き、ヴェントは凝視した。ユーはキョトンとし、ミールは何も言わず、ただ三人を見ている。
「こんな怪我だ。……わざわざ動いて、傷口開くほどバカじゃないだろ。それに、ユーを相手になら特に」
ミールは視線を逸らすことなく、無表情のまま、こちらを見ていた。なおもヴェントは心配そうに顔を歪めるが、ジューメはそんな彼の背を軽く押す。
「……大人しく、していろよ?」
「……は、自分の体の状態ぐらい、てめぇが一番わかるさ」
舌打ちと共にそっぽを向く彼に、ジューメは口角を上げ、ヴェントと共にその場を後にした。




