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5-2

 しばらく黙っていたヴェントだが、顔を上げると傍に眠っているユーを見つめた。ふと表情を和らげ、首を振る。

「ボクは、戻らないよ。ユーと一緒にいる」

「あいつらはウィユ……ユー? が首都の外れにいたから、追えたんだと。聞いている限り、ユーは確実に狙われているが、他の集落にはわざわざ手を伸ばさないんじゃないか」

「ううん、狙われてるとか、そうじゃないとか。そういうんじゃないんだ」

 ユーの銀色の髪を撫で、ずり落ちている毛布を肩までかけ直すと、ヴェントは起こさないように彼の体を倒した。モゾモゾと体を丸めて毛布の中にすっぽり隠れていくユーに微笑み、ジューメへ視線を戻す。

「ユーは、ボクの大切な友達だよ。だから心配だし、今……ボクがユーから離れると、きっと、すごく傷つくと思う。そしてそれを、ユーは隠すよ。……それに」

 と、ヴェントは静かに目を伏せた。ジューメはその目に、自嘲の色が宿るのを確かに見る。

「他の人と違う辛さを……少しは、解ってあげられるつもりだから」

「……そうかよ。なら」

 ジューメに放られる長細いものを、ヴェントは躊躇いなく受け取っていた。それは先ほど、彼が手入れをしていた長剣で、柄を握ると丁寧に鞘から取り出す。

「自分の身は自分で守れ。……心得は」

「独学でなら。……でも最近触れてなかったから、少しだけ、相手をお願いしてもいい?」

 そう言うヴェントの瞳は、真剣で。ジューメも目を光らせたが、肩をすくめると目を閉じてしまった。それにヴェントは不服そうに顔を歪めるが、それを気にも留めずにジューメは横になる。

「とりあえず、今は寝ておけ。今のところは大丈夫かもしれないが、お前も強かに全身を打ちつけているから、後々具合が悪くなる可能性がある。安静にして、夜中に平気そうだったら、その時に手合わせをしてやるよ」

 背を向けてしまうジューメに、ヴェントは目を伏せながらも剣を一度しまうと、自分も横になって目を閉じるのだった。

 

 目を覚ますと、日はとっくに落ち、空には星が輝いていた。ユーは起きる気配がなく、ジューメを見ると、彼はすでに支度を終えている。

「そのまま、朝まで寝るかと思ったぞ」

「普段だったら、そうかも」

 笑い、剣を手にした。ジューメは大剣の代わりにヴェントの剣と同じようなものを腰に下げており、翼を広げると外に出る。ヴェントもそれに続こうとするが、眠っているユーを不安そうに振り返った。

「安心しろ、ここから離れるわけじゃないし、入り口も塞ぐ」

 どうやるのだろうとジューメを見つめていると、彼は自身の周りにいくつも炎の球を浮かべた。それを入り口の傍に移動させると、そこから腕をまっすぐに上げる。

 炎の球から柱が立ち、入り口に炎の柵を立てていた。ヴェントはそれを呆然と見つめ、ふと、間近で見ているにも関わらず全く熱くないことに気が付く。

「……は。見ての通り、オレも大概普通じゃないんでな。さて、軽く打ち合おうか。力を使っても構わないぞ」 

 ジューメの言葉に、眉を寄せながらも、ヴェントは剣を構えた。ジューメはその構えを見て、脇を開くように少しだけ弄ると、自身も剣を構える。

「姿勢もそんなに悪くないな。……集落の中で、得物を使う機会が? お前たち風の竜人ならば、剣を使うよりも風を使った方が」

「ボクは、風を使えないから」

 ジューメの言葉を遮るように言われたそれは、それ以上の追及を許さないような口調だった。力強くも、どこか苛立ちが浮かぶ表情に、ジューメは目を閉じると息を吐き出す。

「そうか……。ほら、遠慮はいらねぇ。来いよ」

 

 ヴェントが振る剣を、ジューメはしばらく往なしていたが、不意に切っ先を鋭く払うと剣を突き出した。ヴェントはそれに慌てることなく、肩を引いて体を傾けるように避けると、剣を横に払う。ジューメはそれを、尾で受け止め、ヴェントと距離を取った。

「……動きも、悪くない。それだけ出来れば十分だろう」

「……ありがとう」

「お前ももう休め、明日は出来れば早く、ここを出る」

「解った」

 軽く頭を下げるヴェントにジューメは苦笑し、洞穴の炎を消すと、中に戻るのだった。

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