92.魔法学校のラスボス様⑨
ともあれ、無事にミッション達成!
こちらの誰一人として怪我をすることもなく、無事に指名手配犯を捕まえることができました。その過程で建物が一軒全焼する火事が発生することになりましたが、どうせ誰も来ないような辺鄙な山奥です。黙っていれば問題になることもないでしょう。
『くっくっく、飲み物と料理は行き渡ったな? 今日は遠慮なく飲んで食って騒ぐがよい、神が許す! では、乾杯!』
「「「かんぱーい!」」」
そして現在は少し時間が飛んで正午を少し回ったあたり。
懸賞金の受け取りもつつがなく完了し、今は魔法使い達の街の大通りにあるレストランを丸ごと貸し切っての大宴会が始まったところです。
お店の方には急な無理を聞いてもらう形になりましたが、元々ランチタイム用に仕込んでおいた食材を流用するのと、あとは持ち込みを許可してもらって近隣数軒の料理屋さんを回って生徒達が購入した料理を並べることで辛うじて対応できました。
結果、テーブルの上には大きな鶏の丸焼きや分厚いステーキ、焼き物に煮物に甘いデザートまで何もかも盛り沢山の光景が広がることに。身体の大きなドラゴロウさんは見た目通りの大食漢ですし、それ以外の皆も成長期の食べ盛り揃い。その全員がお腹いっぱい食べられる分を用意できて一安心です。
サイズ的に全身を店内に入れるのが難しいドラゴロウさんだけは首から先だけ窓から突っ込む姿勢で窮屈そうですが、まあ他の皆が料理を口元に運んであげれば大きな問題はないでしょう。事情を知らない通行人の悲鳴がチラホラ外から聞こえてくるのは気にしない方向で、ええ。
「……ぷはっ。甘くて美味しいですねぇ、コレ」
「でしょう? 魔法使いの子供は皆これに目がないんですよ」
大きなジョッキになみなみと注がれたのは、その名も『マーガリンビール』なる甘くてこってりした口当たりのホットドリンク。表面が泡立っているのもあって最初は普通の麦酒と勘違いしそうになりましたけど、ノンアルコールなので子供が飲んでも害になるようなことはありません。
今回は冬場ということもあって温かくして飲んでいますが、夏の盛りには氷で冷やしたアイスドリンクとして楽しむこともあるそうですし、是非ともそちらも味わってみたいものです。
「とはいっても、流石にその頃にはわたしはもうこの世界にいないでしょうけど」
現時点でのこの世界の滞在期間は既に半月以上。
これまでの色々な異世界と比べても、かなり長めの滞在となっています。
教師と生徒という違いはあれど、わたしだけでなくラメンティア様も学校生活を楽しんでいるのでしょう。ですが、流石にこのまま来年の夏まで飽きずに居座り続けるとは思えません。
それが明日か来週かは分かりませんが、そのうちクラスの皆さんとお別れしないといけない日がやってくるのでしょう。正直、自分が元々住んでいた地元世界を離れる時よりも名残惜しくなりそうです。
「……まあ、そういうのはその時になってから悩む方向で」
どうせ、今どれだけ悩んだところで解決する類の問題ではないのです。
ならば無駄に思い悩んで暗い気持ちになっても意味はなし。
そんな考えはスパッと忘れてしまって、目の前のご馳走をよく味わうことに神経を集中させたほうが遥かに有意義というものでしょう。
願わくば、こんな日々がなるべく長く続いてくれるのを祈るばかりです。
◆◆◆
で、そんな祈りをうちの神様が親切にも聞き届けてくれたというわけではないのでしょうけど、こんな日々は思いの外長めに続くこととなりました。
もう少し詳しく「こんな日々」の内訳を説明すると、懸賞金が懸かっている無法者を皆で襲っては臨時収入で豪遊する日々ということになるでしょうか。
「わたし一般的な学校生活には詳しくないんですけど、普通の授業の日より遠足の日の割合が多いのは流石におかしいんでしょうねぇ。魔法使い云々は関係なく」
あの最初の遠足の日から一か月ほどは、遠足が2に対して通常のカリキュラムが1くらいのハイペースで頻繁にお出かけをするようになりました。
行き先は毎回違いますが、どこかの犯罪者の潜伏場所であるのは常に同じ。
初回のように周りに人が住んでいない僻地だと楽なのですが、近隣住民がいる場合は安易に放火などできませんし作戦を考えるのも大変です。敵が一人とは限らず仲間同士で集まっていることもありますし。
「今日はスラム街の廃屋ですか。周りに普通の人達が大勢住んでるみたいですし、穏便かつ静かに済むように……こんなこともあろうかと魔法薬学の先生の部屋からちょろまかしておいた麻痺毒を気化させて壁の隙間から流し込みますか」
最初の時にたまたまそんな役回りを務めたせいか、満足に魔法ひとつ使えない落ちこぼれのわたしが作戦参謀みたいなポジションに収まってしまったのは想定外でした。
別に好んでそんな仕事をやりたいわけではないので何度か他の皆に役割を振ろうとしたのですけど、何故か皆さん口を揃えてわたし以外に適任がいないと言うもので。まあ任された以上は責任持ってベストを尽くしますけれど。
皆でお勉強をして、お出かけをして、ひたすら豪遊。
そんな定番の流れを何度繰り返した頃だったでしょうか。
そろそろ居場所の割れている指名手配犯を狩り尽くしてしまいそうな状況で、これまで狩られる一方だった暗黒の魔法使い達が危機感を抱いたのか、徒党を組んで起死回生を狙った反攻作戦を仕掛けてきたのです。




