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夜明けの逃亡者

こんにちはー!ピーナッツです。ぜひ楽しんで読んでいってください!行ってらっしゃい!

王都の裏路地は、病院の清潔な白とは対照的に、埃と下水が混じり合った独特の匂いが充満していた。建物の影が長く伸び、月明かりを分断している。僕たちは足音を殺し、路地裏を縫うようにして街の外側を目指した。

「大丈夫? 歩幅を少し狭めて」

セリアの気遣いを受けるたび、自分の無力さが胸を刺す。彼女に頼りきりだ。自分の能力でさえ、使えば使うほど命を削る諸刃の剣。僕は彼女の足取りを追うことしかできない。セリアの背中は小さく、しかし迷いなく闇を切り拓いていく。先ほどまで僕を捕らえていた死の恐怖が、彼女の歩調に合わせることで、ようやく薄皮一枚の安らぎに変わる気がした。

しばらく歩くと、街の境界である高い石壁が見えてきた。正規の門を通れば捕まる。セリアはその石壁の影に隠れると、周囲を警戒しながら僕を振り返った。その瞳には、路地裏の暗闇の中でも消えない強い意志が宿っている。

「ここから先は、森が続いているわ。夜が明けるまでにできるだけ遠くへ離れないと、王宮の追っ手が来る」

「追っ手……? あそこまでして、被験体を解剖したいのか」

「あなたは、ただの被験体じゃない。あなたの『因果の先出し』は、この国の魔導理論を根本から覆す可能性を秘めている。王宮の賢者たちは、その理屈を自分のものにしようと必死になるわ」

セリアは僕が知らない世界情勢を当然のように口にする。まるで当たり前の日常を話すかのように、僕の命を狙う理由を突きつけてくる。森に入ると、急激に気温が下がった。梢を揺らす風の音が、まるで僕たちを監視する目のような錯覚を与える。僕は激しい呼吸を整えながら、倒木の上に腰を下ろした。少し休ませてくれ。そう伝えると、彼女は周囲を見渡し、安全を確かめてから隣に座った。夜露に濡れた木々の香りが、鼻をかすめる。

「少し休もう。……君、名前だけでも教えてくれないか。これからも一緒に逃げるなら、せめて呼び名がないと不便だ」

彼女は月明かりの下で、少し考え込むような仕草を見せた。やがて彼女は、恥ずかしそうな、それでいて少しだけ晴れやかな表情で口を開く。

「……セリア。それが、私の名前」

「セリアか。僕は久世慎だ。……セリア、君が僕を助けてくれたこと、感謝している」

セリアは僕の名前を確かめるように、唇を動かした。

「久世……慎? 聞いたことがない響きね。それに、慎という音も……この大陸のどの言語とも一致しないわ。あなたは本当に、どこの出身なの?」

彼女の瞳に純粋な疑問が宿る。僕は言葉に詰まった。彼女には僕が異界の人間だとは言っていない。言ったところで信じられるはずがない。かつての日常も、故郷の記憶も、今の僕にとっては遠い幻影だ。

「……遠い、遠い場所から来たんだ。忘れてくれ」

その時だった。森の奥から、低く唸るような獣の咆哮が聞こえた。それは普通の獣の鳴き声ではない。地響きを伴う、魔力の奔流を感じさせる音だ。闇の中から、無数の赤い光が僕たちを囲むように浮かび上がった。飢えた魔獣たちの瞳だ。

「まずい……。夜の森には魔獣が出るんだった。慎、立てる?」

「……ああ。また、やってやる」

僕は立ち上がり、再び喉を震わせる。しかし、先ほどの激痛がまだ尾を引いている。喉が焼けつくように熱い。ここで外せば、僕は即座に命を落とすだろう。それでも、僕には戦うしかない。因果を無理やり書き換えてでも、この危機を乗り越えなければ、彼女まで巻き添えにしてしまう。

すると、セリアが僕の前に立ちはだかった。

「待って。慎、あなたは戦わないで。今の体で能力を使えば、あなたの魂が先に壊れる。……ここは、私が切り抜けるわ」

セリアの手元に、鮮烈な青白い光が集まる。彼女が杖を取り出すことはない。右手を天にかざすと、そこから冷気が渦を巻いた。

「アイシクル・ドロップ!」

彼女の叫びと共に、空から無数の氷の礫が魔獣の群れへと降り注ぐ。魔法という言葉は知っていたが、目の前で起きている光景は僕の想像を遥かに超えていた。

何が起きているのかは分からない。セリアは荒い呼吸のまま、魔獣を一掃し、僕を振り返る。その背中から立ち上る魔力の残滓は、先ほどまでの彼女とは別人のような冷徹さを秘めていた。

僕は呆然と彼女の背中を見つめた。彼女は何者なのか。これほどの手練れが、なぜ僕のような欠陥品を命がけで逃がすのか。彼女の強さ、そしてその裏にある切なさを、僕はまだ何も理解できていない。

夜明けまで、あと少し。僕たちの逃避行は、まだ始まったばかりだった。

読んでいただきありがとうございました♪また帰ってきてください。それじゃあまた次の物語で!see you again!


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