ごじゅーなな
朝から色々とあったけど、社長ちゃんへの挨拶と説明を済ませたあとは、紲さんと合流。
僕は今日、お仕事で会社へ来ているんだから集中しなくては…。
3D配信や撮影をするための部屋へと移動してきた。
部屋そのものもかなり広い上に、ガラス張りの隣の部屋にはスタッフの方達が何人も集まっている。
ここってすっごいお金のかかってる部屋なんだよね…。何度かテストや撮影で利用したけど未だに慣れない。汚したりしたらどうしようって…。本当に気をつけないと。
「すぐにスタッフが機材等の用意をしますから、アルジェさんはいつものように動いてくだされば大丈夫ですよ」
「はい…」
以前は全身スーツを着て、身体にセンサー?みたいなのを幾つもつけて撮影していたらしいけど、今は最新機材のおかげでそういった手間もない。身一つでこの部屋に入るだけだから本当に楽。
紲さんにも部屋全体が特殊機材の塊みたいなものだって説明してもらったっけ。
僕の全身をスキャンしたデータがここにあるからこそ出来るんだけど、目の前にある部屋いっぱいいっぱいのサイズのディスプレイには、すでに背景と一緒にアルジェとしての僕の姿が反映されている。
僕が動けば、鏡のようにアルジェも連動して動く。
「アルジェさん、自由に動いてください。激しい動きをしてくれたほうが調整しやすいので踊ったりしてもらってもいいですよ」
ガラス張りの向こうにいるスタッフの方の声がこちらの部屋へとスピーカーを通して響く。
ダンスとかまだまだ見せられるレベルではないんですが…。
歌と並行して練習はしてるけど、歌に集中するとダンスが止まってしまうし、ダンスに集中すると歌詞が記憶から飛ぶ。
ボイストレーナーとダンスの先生は初めはそんなものだからと優しく教えてくれるけど、不器用なのは本当に申し訳なくなる。
最近練習しているダンスを少し踊ってみたらオッケーがもらえた。
「細かい調整も完了したので一旦休憩してくださーい」
「ありがとうございます」
後は撮影の本番…。緊張してきた……。
紲さんから飲み物をもらって休んでいたら、今回CMのオファーをしてくれたファストフードの広報の方が来てくれたからご挨拶。
何度か打ち合わせもしたけど、物腰の優しい女の人で話しやすいから助かってる。
「今日はよろしくお願いしますね、アルジェさん」
「こちらこそよろしくお願いします」
最終打ち合わせを済ませて、リハーサル。
何度も練習したセリフだから大丈夫! 練習を見てもらった紲さんにも大丈夫だって太鼓判もらったし…。
「リハーサル始めまーす! 用意はいいかな?」
「はいっ!」
カウントダウンの後、目の前に映る実際の画面も自身で確認しながらセリフを言う。
「ニューホープ5期生、ヴァーチャルライバーのアルジェです。 ○日から僕、アルジェとのコラボセットが5種類発売されます! そして各セットに一枚、こういうカードがランダムでついてきます! 今回だけの撮り下ろし画像のカードなのでお楽しみに。カード裏のシリアルコードを公式サイトで入力してもらうと、特別限定ボイスも聞けますから、是非公式サイトへ。ボイスの視聴後には割引クーポンも貰えるので、またお腹が空いたらお店へゴー! ですよ!」
「オッケーです!」
ふぅ…。
数パターンのセリフ違いの撮影もし、広報の方からの要望とかに答える形で何度かの再撮影も済ませた。
完成したものは直ぐに本社へデータとして送られ、偉い人からのオッケーも貰えたから無事にお仕事も終了。
「お疲れ様でした、アルジェさん」
「僕、しっかりとできてましたか…?」
「ええ、それはもう! 本社の人間もアルジェさんのことを可愛い可愛いとデレデレですからね。何人もが今日の撮影に付いて来きたいと言い出していたくらいですし」
「えぇ…」
「契約上それは不可能なので諦めて頂きましたが、今回のコラボ商品はうちとしても力を入れているので、とても楽しみなんです。事前の告知にもすごい反響なんですよ」
ひぃ…。すっごいプレッシャーかけてきますね。本当に僕なんかで大丈夫なんだろうか…。
「…アルジェさん。自信を持ってください。とても素敵なCMができましたから」
「だといいのですが…。これも全部スタッフの皆さんのおかげですし」
僕一人では、とてもじゃないけど出来ないことばかりだし。
コラボセットにつくカードの撮影もここの部屋でしたけど、何パターンあるのか僕も把握してない。
すっごい枚数の撮影をしたし…。コラボ衣装も今回だけのものが用意されてて、アルジェはそれを着て撮影した。お店のスタッフ衣装を可愛らしくした特別なデザインで、実際にコラボ期間中には何人かの店員の方が同じ衣装を着て接客するそう。
僕はキャラが着ただけだけど、リアルで着ているお店の人はちょっと見てみたいかも。
ボイスの録音も終わってるけど、こっちも大変だったっけ。セットに合わせて5種類、各数パターンあるから、全部聞こうと思ったらいくつセットを買わなくてはいけないのか…。
商売ってすごいなぁ…と思った。
「店にはアルジェさんのポスターや等身大パネルも飾られるので、よろしかったら直接お店に行ってみてくださいね」
「は、はい!」
どんな顔をしていけばいいのだろう…。自分のパネルが置いてあるとか、恥ずかしいやら照れくさいやら複雑な気持ち。しかもバレないようにしなくてはいけないし。
こよみと行って、注文はこよみにしてもらうしかないかなぁ。店内でもCMは流れてるそうだから、下手に声を出したらバレてしまう。
「あ、あの! 最後に一つアルジェさんにお願いしてもよろしいですか?」
「はい?」
「この頂いた名刺にサインして頂くことって出来ますか…?」
紲さんをちらっと見ると笑顔でうなずいてくれたから大丈夫なのだろう。
「わかりました」
デビューする時に社長ちゃんがあーでもないこーでもないと考えたサイン。
元になったイタリア語の銀のスペル、ARGENTOのバージョンとカタカナのバージョンのニつあるのだけど、どっちがいいのだろう?
悩んだ末に、書きやすいカタカナの方にしておいた。
「ありがとうございます! 大切にしますね」
「そうしていただけると嬉しいです」
この方が転売とかはしないだろうし、そこは安心してる。
今回のコラボのカードとかも転売は対策がバッチリされているらしい。
社長ちゃん曰く、”うちの子たちを利用して転売でもうけるなんて絶対に許さない!”とのこと。
各種フリマサイトやオークションサイトにもニューホープからガッツリ圧力がかかっているそう。
唯一どうにもならないのは直接会ってやり取りする場合くらいと言ってたっけ。
だけど…“うちのファンの子たちはそんな奴らから直接買おうなんてしないよ。どちらかといったらそういうやつを囮になって捕まえてくれてるし”って言ってた。
社長ちゃんの転売ヤー憎しは昔かららしく、副社長ちゃんも大きなため息をついていたから、もう諦めてるみたい。
無事に仕事が終わった後、紲さんから社長ちゃんに呼ばれてると言われて、一緒に社長室へ向かった。
理由は多分、朝の事…だよね。




