1-17 今度こそちゃんと帰宅
「雷太。例のドラゴンだが、政府が買い取りたいと言ってきたようだ。どうする?」
兄貴が、帰り支度をしていた俺にそう訊いてきた。
まあ特に支度があるわけじゃない。シャワーを浴びて小綺麗にして、デイパックの中身を使って着替えただけだ。
「へー、あんな物どうするの。何かに使えるのかな。あ、わかった。偉い人やお金持ちだけで食うんだろう。やっぱり、こっそりと味見しない?」
正直言ってドラゴンの肉には未練たらたらだった。この先、一生食う機会なんかないだろうしな。
「魔物はなあ、気をつけんとヤバい物もあってな。確かに、お前みたいに意地汚い事を言う人もいるわけなのだが、食ってしばらくしてから苦しみだして死んだりとか、訳のわからない病気になったりとかのケースが世界中で数多く発生してな。
日本政府も魔物食は禁止しているのだ。まあ、それでもこっそりと食う奴は後を絶えないわけだが、完全に自己責任だからな。どうなっても知らんぞ」
兄貴が恐ろしい事を言っている。何度も魔物を仕留めてきた兄貴の言う事には、凄い真実味があって怖いわ。うわあ、中国あたりは被害がたくさん出ていそうだよな。
「うげっ。やっぱり、やーめたっと」
「それで正解だ。では今度こそ、ちゃんと帰れ。お袋には連絡してもらってあるから。念のために、今度は俺もゲートまで送ろう」
あー、すっかり忘れていた。俺はずっと寝ていたんだっけ。普通は連絡なんかしてもらえないから、酷く心配しただろう。さすが身内だ、配慮が細かいな。
「このまま兄貴と一緒に帰れたらいいのにね」
「はは。それもいいが、それだと脱走罪で契約上の軍法会議にかけられて俺は死刑だな。さすがに司令官がそれじゃ、兵士どもに示しがつかんよ」
「あっはっは。そいつは、マズイよな」
ほどなく俺達は二台の軍用トラックに乗って出発した。
他の車両はもう日本へ出発していたので、俺達一台だけで貸し切りなのだ。莫大な電気代もかかっているというのに、贅沢なお話だぜ。
今回は各トラックにスキル持ちが載っているので、少々の魔物が出ても大丈夫だな。俺達が襲われてからしばらく、基地は騒然としたそうだ。
今までドラゴンに遭った事はなかったようだし、そいつが日本へ通じるゲートへの連絡通路に出現したとあっては。
今はもう落ち着いたようだ。魔物の出現自体が、そう頻繁にある事ではないからだ。むしろ警戒すべきは人間、そう俺達と同じ地球人の敵なのだから。きっと奴らの中にも厄介なスキル持ちがいやがるのに違いない。
今回は無事にゲート展開場まで辿り着けた。そうそう、あんな化け物に出てこられても困るわけなのだが。
運転手は違う人が勤めてくれている。大林さんは動けるようになったら向こうへ戻り、しばらくは日本側のみの勤務になるそうだ。
そういう配慮があるのが嬉しいよな。何があろうが契約だからといって強引に仕事させる会社もあるらしい。異世界もというか、地球のPMCも結構ブラックだなあ。でもよかったぜ、兄貴のいる会社がまだ優しい会社でよ。
「じゃあ、元気でな。ドラゴンは売却という事でいいな。運搬や解体・その他の手数料は会社に引かれるとは思うが、基本お前の権利は保証される。
また例の如く、こっちに来ないと換金してやれないわけだが、まあスキル持ちになったんだ。そうそう心配もないだろう。その辺は、俺が安心できて非常に助かるな。今回も来る時に少し心配していたんだ。まさか帰り道でやられるとはな」
実の兄貴である異世界傭兵司令官から妙な安心をされちまっている俺。
「はは。高く売れるといいな。ねえ、その売却した金額の中からさ、あの藤田という人の家族へ少しお見舞いに回してもらうのは駄目かな。
それと大林伍長にも。大林さんには本当に世話になったし、あの人は命懸けで俺を助けようとしてくれていた。本当に立派な人だ。
それに変な言い方だけど、藤田さんは、彼が狙われたお蔭で俺はまだ生きている。後ろめたいというほどじゃないんだけど、彼に対してはそんな申し訳ない気持ちも少しはあるんだよ」
兄貴は少し考える様子だったが、頷いてくれた。
「それでお前の気が済むのなら。その辺の裁量というか、匙加減は俺が見ておこう」
「うん、それで頼むよ」
「じゃあ、お袋たちによろしくな。味噌は嬉しかったよ。お前も元気でな」
そして、今度こそ俺は正面から異世界の門を眺める事ができた。虹色に輝くその門を潜り、俺を載せたトラックは、まるでそれに溶け込むように潜っていった。
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中編を短期集中掲載です。




