1-16 魂が求める物
「よかった、雷太。気がついたか」
俺はそう声をかけてくれる兄貴の声で目を覚ました。ここは……。そして俺はガバっと起き上がり、兄貴にまくしたてた。
「兄貴っ。大林さんはどうなった! 俺は寝ていたのか。一体どれくらい?」
「落ち着け。まったく酷い有様だったぞ。大林は命に別状はないが、まだ意識はない。あの怪我と打撲もある。本当に助かってよかった。
お前は三日ほど眠りっぱなしだ。体の怪我はたいした事がないが、精神に衝撃が大きかったようだ。大丈夫か。見つけた時には、あまりにも血塗れで、てっきり全員死んでいたかと思った。
お前が無事でよかった。お前が死んでいたら、お袋になんて言ったらいいものやら。藤田は可哀想な事をした。さすがに、あいつだけは、どうにもならん。首が飛んでしまってはな。何が起きた。あの爆発のような物は何だ。凄い有様だったぞ」
俺は、ぼんやりと体を起こし、ポツリと言った。
「インパクタ」
「何?」
「だから、インパクタ!」
兄貴と一緒にいた医者と思われる、白衣を着た眼鏡の四十歳くらいの男性が兄貴と顔を見合わせた。
「大佐、彼はかなり精神が混乱しているのではないか。体はほぼ無事そうなので、少し休んでからすぐ日本へ搬送した方がいいですな」
「ああ、そうだな」
あー、インパクタといっても、いきなり聞いたらよく知らない人にはわかんねえよな。
「違うよ、兄貴。スキルだ。俺にもスキルが使えたんだよ」
「なんだと」
兄貴も驚いたが、そう聞いて何やら得心した様子もある。あの有様から真実は推察できていたのかもしれない。指を顎に当てる仕草はそういう時の兄貴の癖なのだ。少年時代からそうだった。
「インパクタ。それが俺のスキルなんだよ。小惑星に人工クレーターを作るために金属球を打ち込むための衝突実験装置。
それがインパクタと呼ばれていた、小惑星探査機『はやぶさ2』に積まれていた装置なんだ。地上実験なんか、殆ど試作品のレールガンの試射みたいな超強烈な映像だった。
あれが我々人類の、宇宙での最初の実弾射撃だった。はやぶさ2こそが世界最初の宇宙戦艦だなどと言い張る連中もいたくらいさ。そいつを再現しちまうのが、俺のスキルなんだ。
ドラゴンとの戦いの中で目覚めたらしいな。俺は特に戦ってなかったけどさ。でも心は戦っていたんだ。俺は宇宙飛行士になる事を望んでいた。
あの、はやぶさ2みたいに宇宙に行きたかったんだ。だが無理だった。何度も採用試験にチャレンジして諦めたんだ。
宇宙に行けるのなら、太陽系外へ飛んで行く探査機みたいに帰ってこれなくなってしまってもいい。あるいは寿命を終えて運用を終えた奴みたいに宇宙を漂ってもな。ずっと、ずっとそう思っていたんだ」
そう聞いて、思わず絶句した兄貴。
「そ……うか。お前は宇宙に心を持っていかれていたからな。それがお前の魂の求めるものだったか」
「皮肉なものだぜ。とうとう宇宙飛行士の仕事には縁がなかったけれど、こんな異世界で惑星探査機が持つ能力をスキルとして身につけてしまうとは。おかげでラーメン屋は続けられそうだけどな。あ、そういえば、あのドラゴン野郎はどうした」
兄貴は俺の頭をポンと叩いて言った。
「奴は見事にぶち抜かれて転がっていたさ。凄い大穴を開けてな。なんというか、信じられないという表情をしていてなあ。あれはお前にも見せてやりたかったんで、そのままにしてあるよ」
俺は少し考えたが、にっこりと笑って言った。
「あのドラゴンは食えるのかな。ドラゴン・チャーシューなんて素敵かもよ」
これには、さすがに呆れた両名。
「ドクター。これはやっぱり、すぐ日本に送って精神のチェックをした方がいいかな」
「そうですねえ。それはもう間違いないところでしょう」
おいこら、そこのおっさん二人。だが、俺は笑ってしまった。続いて兄貴も笑い出す。一緒に笑っていた医者も呆れて出ていってしまった。身内だけにした方がよいと思ってくれたのだろう。感謝する。
「あの藤田という兵士の遺体は」
「彼は既に家族の下に送られた」
「そうか」
もし、兄貴も死んでしまったら、そうなるのだろうか。
死体が残るとは限らないが。まあスキル持ちであるこの大佐殿が、そうそう簡単にくたばるとは思えないのだが。
「ふう。俺も帰るかな。命のあるうちによ」
「ああ、そうしろ。本来は、お前のような民間人がここにいる理由はないのだからな。それにしても無事でよかった」
そして、子供の頃病気で寝ていた時のように、俺の頭を片手でくしゃくしゃっとしてくれるのだった。




