【5】
「芹菜ーっ♪」
あれから、私の事を「芹菜」と呼ぶ、伊藤遼太郎。
「………」
返事の仕方、完全に間違えた…、「勝手にすれば」なんて言わなければ…。
こんな事には、ならなかった…?
何度も「呼び捨てはイヤ」って言っても、「だったら俺の事も呼び捨てにすればイイんじゃない?」って言ってくる。
結局、話は思わぬ方へと進むばかり。
クラスの皆も、この二人は付き合ってるんだ〜っという空気が流れて始めている。
しかも、その空気が長閑で、和やかで、ほんわかとしている。
――どうして、皆、温かな目で見るの?何?この祝福ムードは?
「芹菜、付き合う事にしたんだ?」
と祥子ちゃんはニヤっと笑っている。
「ど、どうなってるの?ウチのクラス?」
私だけ、この奇妙な状況に付いていけない。
この雰囲気、理解出来ない。ちょっと、こ、怖い…んだけど…。
「照れなくても良いからね。もう、おめでとう!って感じ」
「はぁ?何がおめでとうなの?」
だってぇ〜っと、祥子ちゃんは話してくれる。
あの窓ガラスを割った事件で、あんたと伊藤遼太郎ってどこか、ピリピリしてたでしょう!
それが、ピンク色のラブラブムードになったんだもん。この際、クラスの為にも伊藤遼太郎とどこまでも行っちゃいなさいよ!
「………」
祥子ちゃん…、行っちゃいなさいよ…って、どこへ?
私は、どこにも行きたくないよ。
出来れば、ここに居させて下さい…。