【4】
「失礼します」
そう言って、ペコっと軽く頭を下げ職員室を後にする。
当番でも係りでもないのも、運悪くクラス全員のプリントを回収して先生に届ける事になってしまった。
さぁ、これで今日も終わり!帰ろうと教室に向かって振り返ったら、あいつが立っていた。
そう、伊藤遼太郎。
しかも、私の鞄を持って――。
「さぁ、帰ろうか」
そう言って歩き出す。
そうだった!今日は一緒に帰ると約束したんだ!そして、帰り道にあの日の告白は誤解だったと説明するつもり。
“つもり”なんて悠長な事、言ってられない!
はっきり、きっぱり、ガツンと言ってやるんだから!
正門を二人で出て、一歩後ろを私は歩く。
――そ、それより、いつまで持つのよ!私の鞄!
「ねぇ、伊藤くん!私の鞄、返してよ!」
「ん?俺が持ちたいんだから良いだろ?」
「…はぁ?」
持ちたい?持ちたいって?私の鞄を?
「俺、歩くの早い?」
「ふ、普通でしょう」
私の歩みに合わせて隣に並んでくる。
「あ、あのね…」
「あ、あのさ…」
今、ここで「付き合いません!」と言おうとしたのに、伊藤遼太郎も同時に話しかけてくる。
た、タイミングの悪い男ね!!
「わ、私は後で良いから、先に――」
「そう?――実はさ…」
伊藤遼太郎は、言い難そうに話し始める。
しかも、「ごめん」と謝ってくる。
?――私、何か謝られるような事された?
「ほ、ほら、腕!――その…、窓ガラスで怪我して…」
「!」
思い切りぶつかった拍子に、身体が窓ガラスに激突!割れたガラス破片で腕を切ってしまった。
原因は、伊藤遼太郎だけど、決してわざとじゃないし、たまたま私がその場に居合わせたという不運の連鎖。
祥子ちゃんに言わせると、ぼーっと突っ立てたあんたも悪い。
「気にしないで、もう治ってるし、傷跡残ってるけど目立つほどでもないし」
「…うん、でも…、ごめん」
また、謝ってくる。真剣な表情で…。
「もう、言わないで!ウチの親も怒ってないし、蒸し返すものでもないでしょう!!」
そう言えば、こいつ、母親一緒にウチまで謝りに来たっけ。
「そ、それより、鞄!返してよ!!」
「え?あ、あぁ」
「早く!」
「腕、痛まないんだったら…、ほら」
そう言って、笑顔で鞄を渡される。
私は鞄を受け取り損ないそうになる。
一瞬、息が止まる。
真剣な顔の後の、最高の笑顔。
――な、なに?い、今の笑顔は?
予告も無く、意表を突いて、そんな顔を見せるなっ!
「それより、北條!これから、芹菜って呼んでも…って、おまえ、顔が赤い?」
「なっ、何でも――無い!!」
私は駆け出してしまう。見惚れてましたなんて、気付かれたくなくて…。
どうして?どうして?あんなヤツなんかにーっ!!
駆け出した私の後ろから伊藤遼太郎が叫んでいる「OKでいいよなー?」と。
何がOKなのか、話なんて全く聞いてないから分かんないけど、もう駆け出したんだ!
今更、戻れない。
「勝手にすればーーっ!!」
結局、誤解を解く事も出来ず、翌日から「芹菜、芹菜」と連呼されるようになってしまった。
後悔先に立たず…。




